ハフィントンポストUS版は1月25日までに、ホワイトハウス大統領令のドラフト(下書き)版を入手した。この草案によれば、アメリカ政府は、広範囲の国々からのアメリカ渡航を一時的に止め、移民や難民の入国に対して劇的な制限をかけようとしている。
この文書は、ハフィントンポストUS版がこれまでに報じた内容の詳細を裏づけ、計画した戦略について新たな情報も付け加えられている。公式に署名されるまでさらに修正される可能性はあるが、この大統領令の草案によれば、ドナルド・トランプ大統領は以下のような計画を立てている。
・シリアからの難民受け入れを無期限に停止する。
・すべての国々からの難民受け入れを、120日間停止する。この期間の後は、アメリカは国土安全保障省、国務省、国家情報長官が共同で承認した国からの難民だけを受け入れる。
・2017年度に受け入れる難民の総数の上限は5万人。これは、オバマ政権が提案した11万人の半分に満たない。
・2016年度の包括予算法第203条 第II編 項目O に指定されている国から来る個人で、すべての「移民」または「非移民」の入国を30日間禁止する。
この条項で指定されているのは、イラク、シリア、イラン、スーダン、リビア、ソマリア、イエメン。この国々は2016年、ビザ免除プログラムの二国間相互協定と、近年アメリカを訪れた旅行者に対するビザ免除規定で制限対象になった。
・「特に懸念される」国へのビザ発行を見合わせる。60日後、国土安全保障省、国務省、国家情報長官は、情報提供の要請に従わない国のリストを作成する。それらの国々から来る外国人は、アメリカ入国が禁止される。
・「攻撃を受けているシリア住民たちを保護するための安全地帯」を確立する。大統領令では、国防長官に対し、90日以内にシリア国内に安全地帯を設置する計画案を提出するよう指示する。
これにより、アメリカのシリア介入が拡大する可能性がある。また、これは、トランプ大統領がシリア紛争にどのような関与をするのかを示す、初めての公式な指示となる。
・アメリカへの訪問者全員を対象にした、生体認証による出入国追跡システムの完成を進める。そして、非移民ビザを申請する個人全員に対面での面接を要求する。
・ビザ面接免除プログラムを無期限で中断する。そして、締結国との互恵協定となっている従来のビザ免除合意が、本当に互恵的になっているかどうか再検討する。
25日以降に署名されるとみられるこの大統領令の草案には、「アメリカ入国後に過激化し、テロ関連活動に関わるアメリカ在住の外国人数」に関する情報を、トランプ政権が180日以内に集め、一般の人々が利用できるようにする計画が詳細に書かれている。また草案には、アメリカにいる外国生まれの個人による「ジェンダーに基づく女性への暴力、または名誉殺人」についての情報を集める計画も書かれている。
こうした個人(アメリカ市民も含まれる可能性がある)の名前が公表されるのかどうかは不明だ。また、草案は、「過激化」や「テロ関連活動」の定義もしておらず、多くの人間をリストに追加する可能性を残している。これはかつてジョン・エドガー・フーヴァーFBI長官が作成した「公式かつ機密」の敵対者リストを彷彿とさせる。
トランプ氏が大統領に就任からのこの数日、物議を醸す大統領令が連日出されて混乱し続けている。大統領令の草案が出回り、報道機関にリークされているのも、ホワイトハウスが機能不全を起こし始めている兆候だ。
トランプ氏が当初大統領選で公約していたのは、すべてのイスラム教徒のアメリカ入国を禁じるというものだった。この公約は、対象国の数を減らした上で、その国からの旅行者全員のアメリカ渡航を全面禁止する案へと後退した。
しかし、標的は依然としてイスラム教徒だ。草案では、将来的には宗教的迫害を受けた難民を優遇すると述べている。「その個人の宗教が国籍を持つ国で少数派であること」が条件となる。言い換えると、中東の非イスラム教徒は入国制限に例外が設けられる。これにより、政策の標的がイスラム教徒に絞られていないという保守派からの批判を抑えることができる。
ホワイトハウスと国土安全保障省は、コメントを拒んだ。トランプ氏は、24日夜のツイートで発表を示唆した。
明日は国家安全保障についての大事な日になる予定だ。多くの課題があるが、特に大事なのは、私たちが壁を作ることだ!
トランプ氏の大統領令草案は、世界中に広がる反移民感情を反映する一方、現在のアメリカの政策が、世界中の政情不安な地域への政策を劇的に転換させていることも象徴している。この大統領令には人権団体、公民権擁護団体、民主党のほか、難民危機に対して慈善活動を促してきたキリスト教右派からも反発の声が上がりそうだ。
国連難民高等弁務官(UNHCR)によると、6年目に突入したシリア内戦で、これまでに480万人のシリア人が難民となった。2011年に内戦が始まって以来、アメリカが受け入れたシリア難民は1万8000人にとどまる。その要因の1つとして、通常18〜24カ月かかる審査がある。
シリアの人道的危機が高まると、バラク・オバマ前大統領は難民受け入れ数を増やすよう指示した。2016年度、アメリカでは1万人以上のシリア難民を受け入れた。
受け入れ数が少なく、複数機関による審査があるにも関わらず、アメリカ国内に定住するシリア難民の数は議論の的になってきた。シリア難民受け入れを増やそうとするオバマ前大統領の動きに対し、アメリカの半数以上の州知事は、州にシリア難民が定住するのを阻止しようとした。受け入れに反対した州知事は1人を除き共和党員だった。
大統領選でトランプ氏は、難民定住に対して高まる国民の反発に目をつけた。トランプ氏は2015年12月、イスラム教徒のアメリカ入国禁止を提案した。これは2015年12月2日、カリフォルニア州サンバーナーディーノでパキスタン系の容疑者3人が銃を乱射して14人を殺害した事件を受けて発表された。大統領選を通じて、細部はたびたび変更となったが、イスラム教徒が多数派を占める国からの移民を厳しく制限することを、公約に掲げ続けていた。
少なくとも1つの難民定住支援団体が、難民受け入れ数を5万人に減らす計画を聞かされている。この人数は、シリア内戦前の受け入れ人数よりもはるかに下回る。
大統領令の草案が、難民を受け入れる上で宗教の少数派を優先しているため、中東各国のキリスト教徒たちはイスラム教徒よりも優遇されることになるかもしれない。
オバマ前政権の専門家は、「イスラム教徒だけを特別に差別する政策は、アメリカがイスラム教との戦争を続けているという印象を固定化させてしまう」と指摘していた。そうした印象は過激派組織のIS(イスラム国)やアルカイダにとって、兵士を勧誘する上で強力な動機となる。
ISのある報道官は2016年8月にこう主張している。
「私はアラーに、アメリカをトランプの手に与えてくださるよう求める」
大統領令の草案はこちらで読むことができる。
Draft Executive Order To Limit Entry of Muslim Refugees and Immigrants by Jessica Schulberg on Scribd
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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