世界に3点しか現存しないと言われていた「曜変天目茶碗」が新たに見つかったとテレビ東京の番組で放送された問題で、プロの陶芸家から「紛い物」と異議を唱える声が出ている。
【これまでの経緯】「なんでも鑑定団」国宝級茶碗で真贋論争 テレ東に根拠を尋ねてみたら...
「開運!なんでも鑑定団」公式サイト
この茶碗は2016年12月20日放送のテレビ東京系「開運!なんでも鑑定団」に登場。古美術鑑定家の中島誠之助氏が「曜変天目茶碗」と鑑定。2500万円の評価額をつけた上で、「国宝になっていたかもしれない大名品」と称賛していた。
藤田美術館所蔵の曜変天目
そんな中、陶芸家の九代目長江惣吉氏は「曜変天目」と鑑定された今回の茶碗について、ヨーロッパで18世紀以降に開発された「スピネル顔料」(陶磁器の釉薬用絵具)を塗り付けて発色させたものだとする見解をYouTube上で発表している。長江氏は親子二代にわたって曜変天目の完全再現に挑戦している陶工。その模様は、NHKのドキュメンタリー「曜変~陶工・魔性の輝きに挑む~」でも紹介された。長江氏に、今回の茶碗について意見を聞いてみた。
九代目長江惣吉氏が制作した茶碗
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――テレビ東京「なんでも鑑定団」に登場した「曜変天目」とされる茶碗について、どのような感想を持ちましたか。
番組を見ていて「曜変天目」とされる茶碗が映った瞬間に驚きました。現在、中国の建窯で作られているお土産品レベルの曜変の紛い物だったからです。きっと何かの冗談だと思いました。「今日はエイプリルフールじゃないけれど?」と思いました。
しかし、「国宝の曜変と同じく、南宋時代に建窯で焼かれたものに間違いなし」と鑑定されて絶句しました。
――鑑定団に登場した茶碗を「曜変天目」だとした鑑定結果とその根拠について、長江さんはどのように思いますか。
全く分かりません。一体どんな根拠で番組はあの茶碗を曜変と鑑定されたのでしょうか?
番組では問題の茶碗の高台が、「国宝の(曜変の)稲葉天目とほぼ同じですねえ」と言われましたが、現代の建窯では国宝の高台の写真を見ながら作ることがあるので似ているのが当然でしょう。偽物は「似せ物」ですから。
まして建窯では宋代と同様の胎土を使っているので質感も似ています。ちなみに建窯では番組よりもずっと巧妙な高台の偽物も作られています。
逆にこちらが質問したいですが、番組の茶碗と国宝の曜変にどこか同じところがありますか?茶碗の形、黒い釉薬は共通しますが、これは天目茶碗ならみなそうです。それで曜変と言えるのなら、この世に曜変は何十万点とあることになります。
――骨董の世界は、鑑定が難しいと聞きます。「実物を見ていないのに鑑定できるのでしょうか」という声もありますが、それについてはどう思われますか。
ご指摘の通りです。陶磁器に限らず骨董の鑑定は非常に難しいものです。
しかし、番組に登場した茶碗は映像を見ただけで偽物と判断できます。非常にレベルの低い「紛い物」で曜変とは全く違うからです。
一般の方がご覧になっても番組の茶碗と国宝の曜変との相違は明らかでしょう。両者は全くの別物です。鹿の映像を見て、馬だと思う人がいるでしょうか?
私は父が曜変再現研究を行っている家に生まれ育ち、父が亡くなった1995年以来、22年間を曜変研究に捧げてきた人間です。まず、曜変を再現するためには曜変そのものを徹底的に知らなければなりません。私は国宝の曜変の実物を拝見して細部に至るまでその特徴をこの目に焼き付けています。国宝の曜変だけでなく、2010年に中国・杭州から出土した曜変の陶片も徹底的に観察させていただきました。
こうして本物の曜変をキチンと把握したうえで、今までにあらゆる曜変の偽物も見てきました。番組よりもずっとレベルの高い偽物の鑑別法も学び、それら高レベルの偽物の特徴も把握しています。
しかし、今回の番組の茶碗はそれらとは比較にならない低レベルの紛い物です。幼稚園の工作さえ連想させます。とても「偽物」にまで達していません。
「国宝級の発見」との報道が日本だけでなく全世界に配信されてしまいました。それを見て各国の研究者、古美術商は嘲笑していることでしょう。「あの紛い物のどこが曜変だ!」と。日本の恥です。本当に恥ずかしいことです。
一刻も早く、この事件が解決されることを望んでいます。自浄能力が無いのはさらなる恥の上塗りでしょう。今後、テレビ東京には誠意ある対応を求めたいと思います。
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ハフィントンポストでは、今回の「曜変天目」について、いくつかの美術館や古美術商に問い合わせたが、いずれも「実物を見ていない以上何とも・・・」という回答だった。所有者の地元である徳島県庁も、文化財登録のための調査を予定していたが、1月23日までに調査を中止した。 所有者から「一切、外部への資料提供を控える」と連絡があったのが原因だという。もし本物なら、喜ばしいニュースだが、真相を知るのは難しい。
※ハフィントンポストでは、今後も今回の鑑定について、あるいはこうしたテーマをテレビ番組が取り上げる際の課題などについて、意見や情報を募集しています。news@huffingtonpost.jpまでお寄せください。