生活保護「なめんな」ジャンパーは「構造的な問題」 小田原市に支援者ら申し入れ

「すべての受給者に不信の目を向けさせる」と指摘した。

小田原市の生活保護担当の職員が「保護なめんな」と書かれたジャンパーを着て世帯訪問していた問題で、生活保護の受給支援などをしている民間団体のメンバーらが1月23日、市役所を訪れ「組織的・構造的な問題と考えている」と指摘した。

訪れたのは、弁護士や司法書士、NPOなどの支援関係者でつくる「生活保護問題対策全国会議」のメンバーら。NPO「自立生活サポートセンター・もやい理事」理事などを務める稲葉剛さん、作家・活動家の雨宮処凛さんら。

メンバーらは、外部を交えた検証委員会によるこれまでの経緯の検証と、制度解説のホームページの修正などを求める公開質問状を手渡した。2月末までに文書で回答するよう求めている。

意見交換は非公開で実施された。参加者によると、市側からは「重大な問題と受け止めており、改善につなげていきたい」として、経緯の検証と、職員向けの人権研修の見直しに口頭で前向きな話があったという。

小田原市(右側)に申し入れをする「生活保護問題対策全国会議」のメンバーら(左側)

小田原市側は「受給者への差別意識はなかった」と会見などで説明しているが、稲葉さんは申し入れ後の記者会見で「生活保護は金額ベースで99.5%以上は適正に執行されており、ごくまれにしかないものをクローズアップして日常業務にあたること自体が、すべての受給者に不信の目を向けさせる」と指摘。「市職員が制服のようなものを着て訪問すると、周囲から生活保護世帯と分かってしまい、訪問された世帯が近所に後ろめたい思いをするほか、申請を検討している人たちの申請抑制にもつながりかねない。禁じている自治体もたくさんある」と批判した。

また、生活保護の制度を説明する市のホームページの最上部に「生活保護より民法上の扶養義務が優先されますので、ご家族でよく話し合ってください」と書かれ、指摘を受けて修正されたことなどについて「自分は受給できないと思い込んでしまう可能性が非常に高い。オンライン上での水際作戦」と批判した。

小田原市側は、問題発覚後の会見で、計64人が自費でジャンパーを購入していたことを明らかにし、作成の理由について「職員のモチベーションがだいぶ低下してきた。不正受給を許さないという、強いメッセージを盛り込みつつ、職員の連帯感を高揚させるため」と説明した

東京の自治体職員で生活保護行政に関わっている田川英信さんは「小田原市だけの問題ではない」として、背景にある生活保護担当部署の「不人気」が背景にあると説明した。

「精神的に重い、仕事量が多い。厚生労働省が標準として定めるケースワーカー1人あたり80世帯でも仕事に追われるのに、小田原市は4人の欠員があった。メンタルで疾患を発症する人も多いですね。きついから希望者がいない。ベテランを回すと退職してしまいかねないので新人を当てる。社会福祉主事や社会福祉士の資格がない職員も多く、福祉に全く詳しくない職員が現場でいけないことをやってしまい、『水際作戦』など様々なトラブルにつながっていると思う。専門性のある職場で経験も要求されるのに、懲罰的な異動先になることもあり、改めていかなければいけない」

記者会見する稲葉さん(中央)ら

NHKニュースによると、小田原市には22日までに市の対応を批判する電話やメールが約950件寄せられたという。

生活保護者の受給申請者の相談などに応じている「全国生活と健康を守る会連合会」の安形義弘さんは「生活保護に対して間違った形が広まっていくのを危惧している。申請をためらう人もたくさんいる」と懸念を示した上で「ケースワーカーと受給者の対立はあちこちで起きている。小田原市の対応が改善されれば、全国の方法を変えていくことになるのではないか」と改善に期待を示した。

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