アメリカのトランプ次期大統領は15日付けのワシントンポストのインタビューで、共和党が撤廃を進める医療保険制度改革法(オバマケア)に代わる新しい案の「完成は近い。近く提出する」と述べた。トランプ氏は代替案について「すべての国民のための保険だ。オバマケアよりもっと簡潔で、さらに安価で、より優れたものになる」と述べたが、詳細は明らかにしなかった。
トランプ氏が示唆した代替案は、共和党が考えているものとは全く違うものになるかもしれない。撤廃を進める共和党のポール・ライアン下院議長よりも、民主党の大統領予備選に立候補したバーニー・サンダース氏と同じ路線で行く可能性もある。
オバマケアを撤廃すると2000万人以上が医療保険を失う可能性が指摘され、国民の不安と抗議の声が上がっている。トランプ氏は、彼自身と共和党の計画についてすでに国民を欺いているのかもしれない。
または、トランプ氏の発言は、彼が何を話しているのか全く分かっていないことを意味する可能性がある。
ワシントンポストのロバート・コスタ記者によると、トランプ氏が提案する新たな医療保険制度は、「かなり低い控除免責金額」で、「全ての国民のための保険」になるという。
また、トランプ氏は「政府が製薬会社と直接交渉し、薬価を下げさせることを要求するつもりだ」と述べた。
「彼らは政治的に保護されているが、これからはそうはいかない」と、トランプ氏は製薬会社を批判した。
トランプ氏は、詳細や計画を公にする具体的な日時にについては述べなかったが、「検討は最終段階にある。まだ提出してはいないが、近くそうするつもりだ」と付け加えた。
トランプ氏は、厚生長官に指名したトム・プライス下院議員が議会の承認を受けるのを待つと述べた。プライス氏の指名の権限をもつ上院財政委員会は、審理の日程をまだ決めていない。
トランプ氏の政治に関する発言を理解するのは決して容易ではないが、今回はいつも以上に不可解だ。
国民皆保険を実現し、膨大な医療費から国民を守ることは、民主党が1940年代から政策綱領に掲げている。この政策は医療費負担適正化法(Affordable Care Act)へと実を結び、無保険のアメリカ人の数は記録的に減り、医療へのアクセスを改善し、経済的不安を軽減した。
しかし、オバマケアは矛盾を抱えている。多くの人々がこの制度を通して得た補償は、高額の控除免責や自己負担の支出を含み、共和党の批判を招いている。主に、持病の補償範囲のような保険の新しい必要事項などが保険料の高騰を招き、オバマケアの財政援助は高所得者を段階的に除外している。
これはオバマケア擁護者の多くも解決したいと考えている問題だ。オバマ大統領と大統領選の民主党候補だったヒラリー・クリントン氏は、利用者に自己負担の援助をしたり、薬の値段を下げるために、政府がてこ入れをすることを提案していた。
一方、サンダース氏は、単一支払者健康保険制度(病院などの施設が医療費を単一の機関に請求し、その機関が支払うような医療保険制度)の長年の支持者だった。その制度の下では、政府は国民全員に保険を直接提供する。サンダース氏が大統領選に出馬した際に提案したプランは、欧州型の医療業界への薬価規制を通じてさらに多額の財政支出が必要だった。
共和党は、民主党が提案していた国民健康保険の拡大に一貫して反対してきたが、トランプ氏とはかなり異なった見解だ。オバマケアが立法化されてからの約7年間、共和党は異なったアプローチで代替案を議論し続けてきた。最も具体的なものは、プライス氏が議会に提出した法案だ。
しかし、共和党が議論してきたどの案も、トランプ氏が言う「より低い自己負担での全国民のための保険」とはほど遠い。単純に、そうすることで民主党のやり方と同じように、さらに多くの財政支出と薬価規制が必要となるからだ。
シンクタンクや連邦議会で議論されている、保守的な代替案の基本的な目標は、財政支出と薬価規制を劇的に減らすことだ。
もし、医療費負担適正化法の代替案が財政支出を減らすのならば、被保険者や手当、既往症への補償は減らされる。
過去に、政府と製薬会社間で薬価について協議されたとき、共和党議員、そして製薬業界につながりを持つ民主党議員は、医療技術の革新を妨げたり、命を救う薬を減らしたりすることにつながると反対してきた。
製薬会社を追い込むトランプ氏の発言を見る限り、彼は共和党と完全に同調していない可能性がある。彼は以前、CBSの番組「60ミニッツ」で、「全ての国民に保険が必要だ」と発言している。国民皆保険制度が重要だと考えているか、少なくとも、共和党が思うよりも重要だと考えているようだ。
もし、トランプ氏が本気だったら、民主党は彼の代替案を受け入れるだろう。民主党のエリージャ・カミングス議員は16日、MSNBCの番組「モーニング・ジョー」で次にように語った。
「バーニー・サンダース氏とエリザベス・ウォーレン氏(民主党の反ウォール街の急先鋒で、政策的にサンダース氏に近い)と私は、何年も処方薬問題に取り組んできましたが、いまだに突破口を見い出せていません。昨日、次期大統領がこの問題に取り組みたいと語った時、私は『万歳』と言いました」
しかし、トランプ氏の発言を文字通り解釈していいのかは全く分からない。
大統領選でトランプ氏は、医療制度について何も公約していない。しかし、彼が提案した政策は完全に共和党のアイディアのひな形であり、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)を州に委ねることなどが含まれていた。
トランプ氏が国民全てに保険を与えると言った理由の一つは、実は「国民皆保険」の形を変えた支持といえるかもしれない。それは遠まわしに、共和党は健康保険を持つ人を少なくするプランを表現するのに使われてきた言い方だ。
トランプ氏がどう考えようと、報いは避けられないようだ。共和党はくり返し、保険制度を廃止するのではなく、「置き換える」と約束してきた。そして、今はトランプ氏を含む共和党議員でさえも、廃止する前に、代替案を示すべきだと言っている。
しかし、代替案ができたとしても、連邦議会の予算事務局を含む、独立した専門機関がその効果を見極めることになる。そしてその時点で、共和党は彼らの計画を擁護しなくてはならなくなり、今トランプ氏が言っている計画とは全く違ったものになる可能性が高い。
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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