韓国・釜山の日本総領事館前に市民団体が設置した少女像が、慰安婦問題の解決をうたった2015年末の日韓合意に違反するとして、日本政府は1月6日、駐韓大使の一時帰国や日韓通貨スワップ協議の中断などに踏み切った。
一夜明けた韓国メディアは、大統領の職務停止や世論への配慮で韓国政府が身動きの取れない中、日本側の措置を「超強硬措置」(ハンギョレなど)、「断交の一歩手前」(朝鮮日報)と驚き、外交当局が板挟みで苦悩する様子を伝えている。
■リーダー不在
2015年末の日韓合意の当事者だった朴槿恵大統領は弾劾訴追されて職務停止中で、主導的な役割を演じる人もいない。
国民日報は「少女像が追加で設置された以上、日本が『合意違反』と主張しても、反論する根拠が貧弱だ」と指摘し、日韓関係の維持と世論の板挟みになりながら、決断できる人がおらず局面を打開できない韓国外交の現状を描写している。
対立を収拾するには最高レベルの政治的決断が必要だが、黄教安・大統領権限代行の体制では不可能だ。(中略)思いがけず一撃をくらった韓国政府は対策に苦心している。合意が破棄されないよう日韓関係を管理するが、日本に引っ張られている様子も見せられない二重の難局に直面している。
「朴槿恵政権は『進むも地獄、戻るも地獄』の窮地に陥った」とするハンギョレは、韓国政府の立場を以下のように分析している。
日韓合意を「着実に履行する」と宣言した手前、日本政府の圧力をまったく無視することは難しい。しかし昨年11月以降、韓国社会を主導している巨大な「ろうそくデモ」の世論を考えると「少女像を撤去せよ」という日本政府の圧力を受け入れることは不可能に近い。日韓合意の基盤が崩壊する可能性もある重大局面だ。
■世論との板挟み
2015年末の日韓合意は韓国内で批判が強い。韓国ギャラップの2016年9月の世論調査では、ソウルの少女像の移転に反対する意見が76%に達した。日韓合意を「日本の謝罪と受け止める」は8%と、合意直後の2016年1月から半減している。次期大統領選の有力候補とみられている人々は、日韓合意の破棄や追加交渉を訴えている。
少女像を設置した市民団体に近いハンギョレは別の記事で、釜山の少女像設置に至った世論の反発を「日本自らが招いた事態」と批判した。日韓合意後に、安倍晋三首相自身の謝罪発言や元慰安婦への手紙など、韓国側からの要請を安倍首相が拒絶してきたためと指摘している。
逆に保守系の朝鮮日報は社説で、次期大統領選の有力候補と目される民主党の文在寅氏が、日韓合意の破棄を主張したことを「(学生・市民)運動の考えから一歩も抜け出ていない」と批判した。
日本とは同じ自由と民主主義の価値を共有し、深い経済・民間交流を結ぶと同時に、過去の歴史問題で対立を抱えている複合的な関係だ。「親日対反日」のような単細胞な視点で見ると、冷静で綿密・周到な日本人との関係をまともに築けない。(中略)実際に可能かどうかも疑問だが、もし実行されれば今後、国際社会で韓国の大義名分と立場がどうなるかも説明しなければならない。すぐにアメリカが「韓国はまたゴールポストを動かす」と非難するだろう。
そもそも日韓合意が韓国に不利だったとの意見も。京郷新聞は、ソウルの日本大使館前に設置された少女像の撤去を「適切に解決されるよう努力する」とした合意によって、政府が関与できない民間の行為まで含まれてしまったという「外交消息筋」の指摘を掲載。「日本との交渉を通じて、国民が理解できるレベルの追加措置を受けなければ、解決は難しい」という、匿名の専門家のコメントを紹介している。