日本のセンター試験に相当する韓国の「大学修学能力試験」が11月17日に行われた。
激しい競争社会を勝ち抜くのに学歴が大きく左右する韓国社会。警察が遅刻しそうな生徒をパトカーで送ったり、英語のリスニングの時間は航空機の離着陸を制限したりするのが毎年恒例の光景だが、2016年は、社会を揺るがす事件が入試にも影を落としている。
朴槿恵大統領の「影の実力者」として、国政介入や財団を巡る不正疑惑が捜査対象になっている崔順実(チェ・スンシル)容疑者。この娘、チョン・ユラ氏(20)が、母親の威光を笠に着て大学に裏口入学したと報道され、朴槿恵大統領への怒りに火に油を注いでいるのだ。
11月17日午後7時、韓国・ソウルの中心部で、修学能力試験を終えたばかりの高校3年生が約100人集まった。ハンギョレによると「良心があるならどうか辞任して」「大統領、国民の前に立つ恥を知ってください」と、朴槿恵大統領の辞任を訴えた。
「大統領側近の娘だからといって、大勢が望んでやまない、いわゆる名門大学に、何も努力せず入れる社会で、ただ座って勉強したくありません」
高校3年生の女子生徒の演説に、学生たちの怒りが凝縮されていた。
試験を目前にした10月30日、東亜日報は受験生たちの怒りの声を伝えている。
「試験が目の前なのにチョン・ユラのことを聞くと本当に頭にきて意欲がそがれる。品性のかけらもない、文章もろくに書けない奴が『母親の後押し』一つで名門大学に行けるなんて、公正な社会なのか」
「自分たちは何のためにこんなに苦労して勉強するのか、と思った。試験が迫ったときにこんな話を聞くと、本当に腹が立つ。結局、入試なんて、努力とは関係なく、『金のスプーン』(金持ちや有力者など、持って生まれた有利な環境)が『土のスプーン』を押しのける構造になっているんじゃないか」
チョン・ユラ氏
チョン・ユラ氏は2014年9月に名門・梨花女子大の推薦入試を受け、翌春に入学した。2014年秋の仁川アジア大会の乗馬団体で金メダルを獲得して推薦入試に出願できたが、メダルを取ったのは願書締め切り後。しかも乗馬が推薦入試の対象と決められたのは、このわずか1年前のことだった。梨花女子大では「裏口入学」疑惑に学生たちが抗議デモを繰り広げ、総長が辞意を表明する騒ぎになった。
中学、高校でも特別扱いを受けていた。ソウル市教育庁が11月16日に記者会見した内容によると、高校では、チョン・ユラ氏が国内の乗馬大会への参加のため、欠席を出席扱いにしてもらいながら、実は海外に出国しているなどの不正が多数確認された。高校3年生で実際に登校したとみられる日数はわずか17日。出席処理に必要な補習を受けた記録も見つからなかった。母親の崔容疑者が学校に現れて、授業中に生徒の前で教師に暴言を浴びせ、授業を中断させたこともあったという。ソウル市教育庁は高校卒業資格の取り消しを検討している。
大手財閥のサムスングループは、今はドイツにいるチョン・ユラ氏に乗馬訓練費用などの名目で280万ユーロ(約3億2300万円)を送金しており、検察の捜査を受けている。
■本人は「おまえらの親を恨め」「金も実力だ」
チョン・ユラ氏がソーシャルメディアに「能力がないならおまえらの親を恨め。持ってるうちの両親をとやかく言うな、金も実力だ。不満なら出場レースを変えろ」と投稿していたことが報じられ、怒りに火をつけた。
11月12日まで3週連続であった朴槿恵大統領の辞任を求める集会には、若者の姿も目立った。ハフィントンポストは韓国紙の東京特派員に、その背景を尋ねた。
「朝早くから夜遅くまで一生懸命勉強しても、なかなかいい大学に入るのは難しいのに、チョン・ユラは馬に乗っていたら、親の威光で名門の梨花女子大に入学しました。大学生は4年間頑張っても就職できない。韓国の大卒の就職率は50~60%台。就職できなくて非正規雇用になっている人が多い」
「経済政策は、4年間でまったく成果がない。朴槿恵政権が選挙公約に掲げた『経済民主化』は、大企業だけでなく中小企業や地方の企業も豊かになって、若者の就職先が増えるという好循環が期待されたけど、まったく見えない。若者はものすごく怒っています。政治のことが『自分ごと』になっているんです」
【UPDATE】2016/11/18 20:00
韓国教育省は11月18日、チョン・ユラ氏の梨花女子大の入学試験で面接の点数を操作したり、入学後も「試験を受けず、課題を提出しなくても単位を与えたりするなどの不当な厚遇をしていた」として、チョン・ユラ氏の入学を取り消すよう、梨花女子大に求めると明らかにした。
【UPDATE】2016/11/18 11:10 17日夜の集会の様子を追加しました。