天皇陛下の生前退位に関して政府が設けた諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」が11月14日に行われ、憲法や皇室制度の専門家らを招いた2度目のヒアリングが実施された。この日は6人が意見を述べ、2人が退位に賛成。ジャーナリストの櫻井よしこ氏ら4人が「譲位に反対」の立場から意見を述べた。
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この日見解を提出したのは、渡部昇一・上智大名誉教授、ジャーナリストで朝日新聞皇室担当特別嘱託の岩井克己氏、笠原英彦・慶応大教授、ジャーナリストの櫻井よしこ氏、石原信雄・元内閣官房副長官、今谷明・帝京大特任教授の6人だった。
■主な反対・慎重の意見
ジャーナリストの櫻井よしこ氏
天皇が世俗の権力の上位に立ち、見事に国民の心を統合したのが明治維新。その折、先人たちは皇室と日本国の将来の安定のために譲位の制度をやめた。国民の幸福と国家安寧の基軸である皇室には、何よりも安定が必要。また、歴史を振り返れば譲位は度々政治利用されてきた。祭祀に加えて、陛下はご自分なりの象徴天皇の在り方を模索される中で、各地への旅を実践してこられた。しかし、次の世代の天皇は自らの思いと使命感で自らの天皇像を創り上げて行かれるはず。求められる再重要のことは、祭祀を大切にしてくださる一点に尽きる。恒例の陛下への配慮は当然だが、国家のあり方の問題は別である。
譲位ではなく摂政を置かれるべき。皇室と日本国の安定のために終身天皇でいらっしゃることが肝要だが、摂政制度の活用を軸に多くの工夫を重ね、制度改定を急ぐことが大事だ。
笠原英彦・慶應義塾大学教授
慎重であるべきで、にわかに賛成できない。そもそも皇室典範は退位を想定しておらず、その規定もない。安易な退位の制度化は危険―天皇の地位の安定性を損なうおそれがある。前天皇と現天皇の共存から二重権威(二元化)が生まれる可能性があり、天皇の統合力の低下を招く。それは、憲法第1条の「日本国民統合の象徴」の形骸化になりかねない。
退位は認められず、皇室典範の改正や特例法、いずれの方法も採るべきではないと考える。
その他に、渡部、笠原、今谷の計4氏が退位に反対の意見を述べた。
■主な賛成の意見
石原信雄・元内閣官房副長官
ご負担を軽くする方法としては、短期の場合には国事行為を委任し、長期にわたる場合には摂政を設置すること。ご高齢になられた場合には、公的行為の範囲を縮小することも考えられる。
退位することも認めるべきだ。当面適用される皇室典範の特例法とすることが適当で、将来の改正の場合には、退位が認められるための要件については年齢や疾患・事故の程度などを具体的に定めるべきだ。
その他に岩井氏が賛成の意見を述べた。
■有識者会議の進め方
ヒアリングでは、(1)天皇の役割(2)天皇の公務(3)公務負担軽減の方法(4)摂政の設置(5)国事行為の委任(6)退位の是非(7)退位の制度化(8)退位後の地位や活動について、という8項目に対しての意見を求めていた。
会議は座長を今井敬経団連名誉会長が務め、座長代理に御厨貴東京大名誉教授が選任されている。ヒアリングはあと1回予定されており、会議のメンバーとの意見交換を経て2016年末~年明けに論点を整理して公表、その後、政府は2017年の通常国会での関連法案の提出を目指している。
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