ヤフーが週休3日制を検討する理由は? 人事担当者に聞いた「働き方改革」

10月の本社移転を機に、各種の働き方改革を打ち出しているヤフー。担当者に話を聞いた。

ポータルサイトYahoo! Japanを運営するヤフーが、週休3日制導入の検討を始めたことが話題になっている。宮坂学社長が兼任する「チーフ・コンディショニング・オフィサー(CCO)」を新設するなど、10月の本社移転を機に、各種の働き方改革を打ち出しているヤフー。ピープル・デベロップメント戦略本部の湯川高康本部長に、狙いや進捗状況を聞いた。

——まずCCO新設の狙いなどを聞かせてください。

安全・安心って、案外忘れがちなテーマですが、失って初めて大事さがわかる。自分で気付かなくても、身体のコンディションが良くないと、パフォーマンスに現れていたりする。全ての根源は身体的な安全・安心です。それを押さえないと、会社全体のパフォーマンスって上がっていかない。新しいオフィスの中に、社員食堂も設けたんですけれども、安かろう悪かろうではなく、社員に美味しくて安全なものを食べて欲しいと食材にもこだわっています。仮眠スペースや、社内マッサージ室や診療所も作って、社員の健康維持管理に向けた取り組みを強化しています。

——ヤフーでは、「どこでもオフィス」というリモートワークの制度も導入されているそうですね。

「どこでもオフィス」自体は約2年半前から既に導入していました。活用促進のため、2016年10月から、これまで月2回だったのを5回まで利用可能な制度に変更しています。いわゆる在宅勤務とはちょっと違って、社外に飛び出して、より豊かな仕事環境で働いてほしいという思いからこういう仕組みを持っています。大体、全社員のうち毎月、約半数弱ぐらいの方が利用しています。

——狙いはどんな点にありますか。

最終的には、やはりきちんと事業に貢献してもらう。ただ、社員の働き甲斐や、働く幸せ感もしっかり追求していきたいと思っていますので、その両輪がしっかりバランスできて、初めてより高い成果が生まれると思っています。

——湯川さんご自身は使っておられるのでしょうか。

私自身も、そういう意味ではまだ変わりきれていないところがあるかなと思っているので、もっと自分自身が積極的に使わないと…。なかなか公言しづらいんですが、私は会社大好きなんで(笑)。

——そうですか(笑)。あまり利用されていない感じで。

私は、朝早く、空いているオフィスで静かに仕事するのが好きで、焼きたてのパンを食べながら1日をスタートするっていうのが、今、マイブームなので。周りに「いいよ」って言って広げて、朝早く出勤するのを広めています(笑)。

——でも選択肢が多いのは良いことですね。他の社員の方はどう受け止めておられますか。

実は、ヒアリングでは、両方の意見があって。「どこでもオフィス」の方がはかどるという人もいて、一方で、自宅だと誘惑が多いので家では仕事できないっていう人もいたりして。そこは個人それぞれの合うスタイルで働いてもらえばいいかなと思っています。

別に、これが唯一のゴールだとは全く思っていないんです。「皆が集まって顔突き合わせて話し合いながらやるのが、一番生産性が上がるんだ」という意見も多数あるので。半年後に一度レビューをして、トライアンドエラーを繰り返しながら、より良い働き方を試行錯誤していきたいです。

ピープル・デベロップメント戦略本部の湯川高康本部長

——2013年に、アメリカのヤフーCEOのマリッサ・メイヤー氏が在宅勤務を禁止すると宣言して話題になりました。アメリカではむしろ逆の流れがあるのでは?

確かに今「日本とアメリカで制度が逆行しているのではないか?」と言われることがあります。例えばトヨタ自動車の「カイゼン」や「かんばん方式」をアメリカの企業が取り入れたり、一方で、アメリカの企業が在宅勤務や、成果主義偏重や目標管理制度をやめる例があったり。アメリカがひと昔前に取り入れて、そしてやめた事を、今逆に日本がやり始めてしまっているのでは、という指摘です。

——日本が周回遅れで失敗例を真似しているという指摘ですね。その指摘についてはどう受け止めていますか?

その点は、アメリカと日本は雇用環境も随分違いますし、必ずしも同一比較はできないかなと思っています。

特にアメリカの場合には、比較的、成果主義で、個人に求められている役割が明確に定められている。でもそれだけでは上手くいかないことに気付き始めていて、「もっとチームワークやコラボレーションを大事にするべきだ」と考えた時に、在宅勤務が弊害になるという考えにシフトしてきたのではないかと考えています。

日本はその逆で、チームワークは従来から得意だった。その上で、今は個の才能がより解き放てる仕組みを作ろうと、リモートワークとかテレワークとか在宅勤務とか、いろんな選択肢が増えてきている傾向があると思っています。

だから、取り入れている施策だけを見ると、逆のことをしているのでは?と思うかもしれませんが、ベースにあった社会環境が違うと思うんです。

日本では、これから高齢化による労働人口の減少や、親の介護などの問題に対応していかなければいけない。そういう時代が来てしまってからでは対応が遅いと思います。試行錯誤は続けますが、全員が9時〜5時で同じ場所に来て、同じルールの中で仕事をするというスタイルはだんだん変わっていくんじゃないかなと思っています。特に知的産業として、より新しいサービスを生み出していくためには、より柔軟な働き方がますます広がっていくのかなと考えています。

——「どこでもオフィス」実現のため、特別なシステムのようなものを自社で開発されているのですか?

今は汎用的なものや、自社のチャットのようなツールを活用しています。でもやっぱり、たとえば会議ひとつとっても、まだまだやりにくさはあるんですよね。当社のエンジニアからはそこを解決しようという声も上がっているので、期待しているところです。

——週休3日制の検討はずいぶん話題になりました、検討中ということですが狙いを教えてください。

労働生産性を高め、より社員の豊かな生活や幸せを追求していきたいという文脈の中の選択肢のひとつとして、今は土日を休みにしていますが、例えば別の曜日に休むのはどうだろうか、さらに生産性上がれば週休3日っていうのもありなんじゃなかろうか?っていうところが、きっかけです。

もっとITやAIを活用することによって仕事を自動化して、空いた時間でもっともっと創造的な業務に自分たちの時間を持っていく、そのひとつのわかりやすいゴールとして週休3日制を実現できればいいなというのがメッセージですよね。

——給与削減のための口実じゃないのか?という見方もありますが。

もちろん生産性を上げた結果としての週休3日と考えています。ただ、まだ検討段階なので断言するものではありませんけれど、目指しているのは特に所得を減らしてっていうことではないっていうことですね。

でも必ずしも週休3日がひとつの結論ではなく、社員のなかでも「もっと働きたいから週休2日のままでいい」という意見もあります。

——えっ、信じられないのですが(笑)。

物作りが楽しくなってくると、時間を忘れて没頭したいっていう思いってあるじゃないですか。そういう時に、「これ以上やっちゃうと残業制限引っかかっちゃうからできません」とかになってしまうのが嫌だという意見です。

——そういうことはあるかもしれませんね。

そういう意味では、働き方の選択肢が増えていくのがいいのかなと思っています。

例えば、今、当社には介護休業や介護勤務という時短勤務の仕組みがあります。でも、「介護があるので、週3日休みたい」というのが選択できる仕組みはないんです。介護中でも週2~3日ぐらいは働いているほうが経済的な安心感もあるし、バランス良く働けますって方も今後増えてくるかもしれません。その選択肢は増やしていきたいです。

——介護の時短勤務制度を使っている社員の方も既に増えていますか。

まだ、正直少ないです。ですが、むしろ介護の場合には、どうしてもご実家に帰らなければいけないなどの事情で、やむなく辞めなきゃいけない、そういうケースのほうが過去は多かったかなと思います。

——介護を理由に退職という例があったということですね。

そうですね。まだケースは多くないですけれど増えていくでしょうし。他に当社では新幹線通勤の交通費を支給するという制度も始めました。目的はいくつかあるのですが、例えば介護で実家に帰っても辞めずに通勤できるようになるかもしれない。また、配置換えで転勤しなくてはいけない局面でも、新幹線を使えば引っ越しはせずに家から通うことができるかもしれない。

——休日を増やすより残業を減らす方が先では?という声もあります。

残業についても、なくす方向で力を入れて取り組んでいます。実際の勤務状況を見ながら、多すぎる社員については上司への警告もしています。現状は特に問題無い範囲で推移しているかと思っています。それも、残業代を支払いたくないということではなく、全ての働くベースは、やっぱり安全・安心、まず身体的安全ですよね。健康あっての仕事ですし、健康あっての自己実現、お客様へのサービスだと思います。

——電通の過労死事件について、元社員の方が「顧客から過剰な要求をされた時になかなか断りづらい企業風土がある」という声をブログで発信されました。無理な要求に応じないなどの対策はされていますか。

例えば何かサービスをリリースするという時に、「過重労働になるぐらいだったらリリース日を伸ばす」という判断軸を伝えています。まず優先するのは社員の健康です。

——労働生産性がカギになるということですが、どのように測るのでしょうか?

まさに今、重要テーマです。今回のオフィスの引っ越しに伴って、フリーアドレス制度や机をジグザグに配置するレイアウトを導入しました。色々なコラボレーションを生むのが狙いなんですが、本当にこれで生産性が上がったのか、イノベーションが生まれたのか、きちんと測っていきたいと思っています。実際の交通量や、会話量などの増加率をいま測り始めていますが、まだ不十分でそこは我々の宿題です。

例えば、携帯のデバイスで位置情報を取って、誰と誰が今どのくらいの距離でコミュニケーションを取っているかを調べたり、今後いろいろとトライして、生産性を可視化していってより高いところを目指していきたいと考えていますね。

業績的な指標としては、知的産業の場合、必ずしも労働時間とパフォーマンスが比例しないケースっていうのはあるので、どう測っていくかっていうところは、今まさに研究中です。実際に測ってみながら、よりいい指標や基準を見つけて可視化していきたいなと思っていますね。

——一連の働き方改革にかなり期待が集まっていると感じます。社会の反応や手応えはどうでしょうか?

今、政府の働き方改革推進という政策もありますし、世の中の色々な企業で今後の日本の働き方を考える、いいきっかけになればいいかなと思っています。別に休みが増えることだけが唯一のゴールでもないと思いますし、いろんな人が本当に幸せに働いていけるような労働環境が整っていけば、日本自体がもっともっと発展していけると思いますし、そういう意味で私たちも少しでも貢献できればいいかなと考えています。

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