発火事故が相次いだサムスン電子のスマートフォン「Galaxy Note 7」の生産・販売中止を受け、韓国メディアは、「消費者の安全を最優先」「素早い対応で早期収拾」などの見出しで伝えた。
しかし、サムスン電子の前職・現職従業員の言葉を引用したアメリカ・ニューヨークタイムズの記事を見ると、実際は正反対に近いという事実が分かる。
10月11日の「サムスンは主力スマホのGalaxy Note 7をなぜ生産中止したのか」の記事には、今回の事態を受けたサムスン電子の対応がどれほどずさんで無責任だったのか、よく表れている。
■サムスンはまだ、原因を解明していない
8月にGalaxy Note 7があちこちで爆発していたその時、この韓国企業は急いで動いた。数百人の従業員に問題を迅速に解明するよう促した。
誰も爆発を再現できなかった。解明のための期限が迫っていたサムスンのエンジニアたちは当初、欠陥が部品メーカーから供給されたバッテリーのせいだと結論づけた。9月にGalaxy Note 7のリコールを発表したサムスンは、他の部品メーカーのバッテリーを装着したGalaxy Note 7を続けて販売することを決めた。
対策は失敗した。実験の報告を受けた匿名の関係者によると、エンジニアたちは図面を開く所から始めている。今週まで、サムスンのエンジニアはまだ爆発を再現できずにいる。(ニューヨークタイムズ10月11日)
ここで注目すべき部分は、「期限が迫っていたサムスンのエンジニア」という部分だ。
もちろん、サムスンは迅速に対応する必要を感じている。しかし、サムスンは、問題の原因を正しく突き止められないまま、急いで「独自リコール」を断行した。
当時も、アメリカのコンシューマーリポートなどは、サムスンの「独自リコール」を批判し、独立した外部機関の調査が保証される公式のリコールをしなければならないと主張した。しかし、サムスンは「バッテリーのため」という、結果的には間違っていたことが判明した結論を自ら下し、バッテリーを替えただけの製品を交換品として供給した。
しかし、交換品でも問題が繰り返された。国内でも報告があった。サムスンの対応は「モンスターユーザーの仕業」という世論の誘導だった。
サムスン電子とマスコミは、Galaxy Note 7の爆発主張がモンスターユーザーによるものと断定した。朝鮮日報の「Galaxy Note 7がまた爆発した…虚偽の報告に陰謀まで」(10月5日)、メトロ「根拠のない噂が相次ぎ困惑するサムスン」(10月5日)の記事が代表的だ。サムスンは同時期に「Galaxy Note 7に人為的に熱を加えて発火した、など、虚偽報告の事例が全世界で59件確認された」と異例の発表をした。(メディア・オヌル10月11日)
こうした一連の展開を考えると「お客様の安全を最優先に考え」て「骨を削る決断」で中止を決めたのではなく、製造中止しか方法がなかったというのがより事実に近い。
■サムスンの「軍隊的」な企業文化
サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長
ニューヨークタイムズ紙の記事には、このような部分もある。
サムスン内部の企業文化が問題をさらに複雑にした可能性もある。社内での関係を恐れて匿名を要求した2人の前サムスン従業員は、自分たちの職場を、製品の技術が実際どう使われているか理解していない上層部から指示が降りてくる、トップダウンの軍隊的な雰囲気だと説明した。(ニューヨークタイムズ10月11日)
これは発生当初、韓国メディアが「李在鎔(サムスン電子副会長で、財閥オーナー家の3代目)のリーダーシップ」に期待感(?)を示したこととは少し違った内容だ。
財界のある関係者は「李副会長の取締役選任は、サムスンの危機突破に大きな助けになるだろう」として「Galaxy Note 7の問題で消費者の信頼が失われている状況で、オーナーが前面に登場したということは示唆するところが大きい」と述べた。
李副会長が前面に登場することで、バッテリーの発火や、250万台のリコール、国内外での使用中止勧告などのGalaxy Note 7の問題が新たな局面を迎えるのか注目される。(聯合ニュース9月12日)
チョ・ミョンヒョン高麗大教授は8月末「Galaxy Note 7の成功が物語るもの」というタイトルのコラムでこう指摘したことがある。
経営と技術面で絶えることのない存続的・破壊的イノベーションだけが、先導者の位置を守ってくれるだろう。
そのための必要条件は、サムスンの「組織文化の革新」だ。垂直的、閉鎖的で、上司の顔色をうかがう組織文化では、絶対に継続的に経営と技術分野の革新を支えることができない。水平的で開放的な組織文化を作らなければならない。(韓国経済8月30日)
少なくとも今のところ、サムスン電子にこうした「組織文化の革新」は実現されていないとみられる。
■サムスンが恐れているのは「訴訟」だった
サムスンは、「消費者の安全のために製造中止を決定した」と表明したが、その言葉をそのまま信頼するのは簡単なことではない。
さらに、サムスンの関係者はニューヨークタイムズに、こう証言した。
問題解明に努力していた数百人のサムスンのテスターたちが、容易にコミュニケーションを取りあうことができなかったことも、問題を悪化させた。関係者によると、訴訟と召喚を恐れたサムスンは、テストに参加している従業員に対し、テストについての連絡をオフラインしか認めないと指示した。(記録を残す)電子メールは許可されないという意味だった。(ニューヨークタイムズ10月11日)
数百人の従業員が期限に追われ、問題解決に没頭する中で「オフラインでのみ」連絡を取り合う姿を想像してみよう。意思疎通は円滑に行われたのだろうか? 問題を適切に解決できただろうか?
サムスンが訴訟を心配したのも無理はない。9月16日、ロイターは、アメリカ・フロリダ州に住む男性がGalaxy Note 7の爆発で火傷を負ったとして、サムスンを相手に訴訟を起こしたと報じた。アメリカ政府が史上最大規模の「公式リコール」を命じた次の日だった。
11日、アメリカのフォーチュンは、サムスンが高額な訴訟に直面する可能性があると報じた。実際、アメリカの法律事務所は、集団訴訟に参加するアメリカの消費者を募集している。
すでに調査に着手したアメリカの消費者製品安全委員会(CPSC)は、Galaxy Note 7の交換品について再度リコールを実施するか検討している。異例の事態だ。
CPSCのエリオット・ケイ委員長は、ニューヨークタイムズとのインタビューで以下のように述べた。
「最初のリコールの後、私たちが第2のリコールの可能性を扱っているというのは一般的な状況ではなく、決して理想的ではなかった(トラブルシューティングの)手順で(サムスンが)政府とより早く協議すべきだったことを示している。 (ニューヨークタイムズ10月11日)
サムスン電子は10月12日、売上高と営業利益をそれぞれ2兆ウォン、2兆6000億ウォン下げ、第3四半期業績を訂正発表した。「Galaxy Note 7中止に伴う直接費用をすべて反映した」と説明している。
しかし、ここに含まれない「信頼の喪失」のコストがいくらかは誰も分からない。54日間で携帯電話を3回変えた消費者もおり、支払った有形無形のコストも計算されていない。
つまり、サムスン電子は無能で、無責任だった。他の結論を出したり、サムスン電子を弁護するのは不可能に近い。
ハフポスト韓国版に掲載されたものを翻訳しました。
▼画像集が開きます▼
※画像集が表示されない場合はこちらへ。