アメリカ議会が、2001年のアメリカ同時多発テロ事件(9.11)の遺族がサウジアラビアなど、テロ事件に関与した外国政府に損害賠償できる、いわゆる「サウジ法案」が成立させてしまい、当の議会関係者が戸惑っている。
テロ支援者制裁法(JASTA)として知られるこの法案は、テロリストグループに関与した疑いのあるサウジアラビアおよびその他の国が、アメリカの裁判所で法的免除を行使することを禁じる内容だ。
アメリカでは、9.11に関わった19人のハイジャック犯のうち、15人がサウジ国籍だったことから、サウジアラビアがテロに資金援助していると疑う見方が根強い。そこで、証明されてはいないが世界貿易センターと国防総省の本庁舎に飛行機で突っ込んだハイジャック犯を支援したとみられるサウジアラビア政府を提訴することを可能にするのがこの法案だ。
アメリカ上院議会は5月に全会一致で、下院も9月9日に発声投票により全会一致で可決している。この法案には、アメリカ大統領選で民主党候補ヒラリー・クリントン氏と候補指名を争ったバーニー・サンダース上院議員も提案者に加わっている。
オバマ大統領は23日、法案への署名を拒否したが、議会は28日、拒否権を覆せる3分の2以上の賛成多数で再可決し、法案を成立させた。
しかし、法案が成立したら、サウジアラビアは何千億ドルというアメリカ資産を売却するなど報復措置を取るとみられ、逆に訴追される可能性もある。
反対派は、サウジ法案は陰謀論者たちに屈服するもので、アメリカが中東で無人偵察爆撃機(ドローン)を使って民間人を殺害した事実に関して、他の国家がアメリカ政府を裁判にかけるリスクを高めると主張する。ホワイトハウスはこの再可決を、ここ数十年「アメリカ合衆国の上院がしてきたことの中で最も恥ずべき行為」だと批判した。
もともとオバマ大統領の拒否権を覆すために動いた28人の政治家ですら、29日に院内総務に書簡を送り、「この法案は修正されるべきなのではないか」と訴えた。
サウジアラビアの報復を恐れた共和党首脳部は9月28日、オバマ大統領に責任を擦り付けるかのような発言を繰り返した。
共和党のミッチ・マコーネル上院院内総務議員は、少なくとも責任の一部はオバマ大統領にあると語った。
「これは、1つの法案が後にどのような影響を引き起こすのかについて、前もって充分話し合わなかった典型的な例に思える。法案が今後与える影響に全員が着目し出した頃には、もう議員らの意見は固まっていたのです」
「それは単なるミスだったといえる」と、マコーネル院内総務は、動揺を隠せない様子でコメントした。「大統領がもし... 全てを彼のせいにするのはいけないことだし、そうするつもりはないが...しかしもし彼が...その...私たちがもっと前にこれについて話し合っていれば良かったかもしれない」
27日、他の政治家たちが懸念を表明する書簡を作成している中、この法案の提案者で共和党院内幹事のジョン・コーニン議員の口調は普段よりも厳しかった。
「驚くべきことは、法案成立までのプロセスにホワイトハウスが関与していなかったことだ」と、コーニン議員は記者たちに語った。「ホワイトハウスはこの法案の審議中、基本的には何もしなかった」
しかし、これには裏があった。
サウジ法案への批判が世界中で沸き上がり始める前、共和党は、「自分たちにはあまり関心のない法案にオバマ大統領は時間を割き過ぎている」と非難していた。コーニン議員などは、「オバマ大統領の行動に怒りを感じている」と、大統領がサウジアラビア政府と面会する直前に上院の議場で演説していた。
「悲しいことに、政府はあらゆる部分においてこの法案審議を邪魔してきた」と、コーニン議員は語った。
「オバマ大統領がリヤド(サウジアラビアの首都)を訪問する前に、オバマ政見はあらゆる手を使ってこの法案の審議が進むことを妨げようとしていたかのようだ」と彼は語った。「大統領とその側近たちが、時間と労力を私たち議会にも費やしてくれたらどんなに良いかと思う。彼らは私たちと反対に、テロの被害者たちが手にするべき正義を阻んでいる」
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
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