オバマ大統領が最後の国連総会演説で語った「世界を明確に表すパラドックス」とは?

「必要としている人々に援助を届ける準備ができていれば、世界はもっと安心な場となるのです」

アメリカのバラク・オバマ大統領は9月20日、国連総会で最後の演説に臨み、世界全体が進歩したことを称賛する一方で、平和と繁栄を破壊しようとする危険な武力に対して警告を発した。

オバマ氏は、シリア内線や、苦境に立たされる難民、北朝鮮の核実験、過激派組織IS(イスラム国)など、地球規模の様々な危機に言及し、包括的な統治を推進する必要性を強調した。また、将来の融合か対立かの選択が迫っていると警告した。

これは、今日の我々の世界を明確に表すパラドックスだ。冷戦終了後の四半世紀、世界は、多くの手段によって、以前よりも暴力が減り、より豊かになった。しかし、我々の社会は、不安と対立に満ちている。制度上では非常に大きく進歩しているにも関わらず、統治はより困難になっている。国家間の緊張状態は、より早く顕在化するようになっている。したがって私は、この瞬間、我々全員が選択を迫られていると確信している。我々は、統合されたより良い世界へと前進するのか、大きく分断し、衝突する世界へと後退するのか、選択することができる」

国連総会でのスピーチにしても、またこれまでのスピーチにしても、オバマ氏は「攻撃的なナショナリズム」と「粗野なポピュリズム」を同じカテゴリーに分類し、いずれも宗教的な原理主義だととらえている。そしていずれのスピーチでも、共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏への非難と解釈できる。

「今、壁で取り囲まれた国など作っても、自分自身を牢獄に閉じ込めることにしかならないのです」とオバマ氏は語った。これは明らかに「アメリカとメキシコの国境に壁を建設する」というトランプ氏の公約を引き合いに出したものだ。「私たちのアイデンティティを、他人をけなすことによって定義する必要はありません。他人の地位を高めることで、自分たちのアイデンティティをさらに高めることができるのです」

トランプ氏はメキシコからの移民に対して攻撃的なコメントをしたり、「イスラム教徒のアメリカへの入国を禁止する」と発言したりしてきたが、オバマ氏は、対立や迫害により故郷から追い立てられた6500万人の難民への思いやりを促した。「罪のない男性、女性、子供たちの視点から見れば、自分たちに責任はないのに、慣れ親しんできた、そして愛してきたもの全てを手放さなければならなかったのです。私たちは自分自身を見つめるためにも、共感する気持ちを持たなければなりません」と、オバマ氏は言った。

「もし想像を絶するようなことが私たちの身に起こったら、家族や子どもたちはどうなるだろうかと考えてみなくてはいけません。突き詰めていけば、必要としている人々に援助を届ける準備ができていれば、世界はもっと安心な場となるのです」

このメッセージは、「持続可能な開発目標(SDGs)ー我々の世界を変えるためのすべての人々による働きかけ」と銘打たれた今年の国連一般討論演説のテーマに沿ったものだ。2015年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発目標」は、世界から極度の貧困を排除することを目標とした綿密な15カ年計画を展開している。

バン・ギムン国連事務総長は基調演説で 「これまで以上に確信を持って戦争、貧困、迫害を終わらせます」と述べた。「私たちは紛争を終わらせる措置をとっています。私たちは貧富の差をなくす可能性を秘めているのです」

必要としている人々に援助を届ける準備ができていれば、世界はもっと安心な場となるのです。

――バラク・オバマ大統領

しかし、オバマ大統領が2015年の国連総会で演説して以来、世界はほとんど進歩していないようにも見える。1年前、大統領は失敗国家が引き起こす「壮大」な難民問題や、「権力の空白に入り込んでくる残忍なテロネットワーク」に言及した。また、「たる爆弾を落として、無実の子供たちを虐殺する」シリアのバッシャール・アサド大統領と、彼を支持するロシアのウラジーミル・プーチン大統領を非難した。

オバマ大統領は、シリアの内戦とISの台頭を抑止する行動を十分にとっていないと自己批判した。それと同時に、米軍は今もイラクとアフガニスタンで活動し、イスラエル・パレスチナ間の和平交渉では亀裂が崩壊へと至り、北朝鮮は核実験を敢行している。

大統領は経済発展、民主主義、そして地球温暖化対策として2015年12月に署名したパリ協定で気候変動への包括的な取り組みを推進するうえで進展が見られたと語った一方、「不毛の地」北朝鮮と、イスラエルによるパレスチナ占領は引き続き注意が必要な問題と指摘した。

「各民族や宗派がそれぞれの独自性を訴え続けることで、国際機関は多国籍に及ぶ課題に対処するための資金不足、準備不足に陥っています」と述べた。

オバマ大統領はホワイトハウスで勝ち取った主要な外交政策の成功を強調している。2015年、アメリカがイランとの核開発交渉を主導し、イランの核開発計画を抑制する代わりに、制裁を緩和することで合意した。また、キューバとの国交回復でも先頭に立って動いた。

オバマ大統領は20日に、自身が主催した難民サミットで演説した。この会合にはカナダ、エチオピア、ドイツ、ヨルダン、メキシコ、スウェーデンの首脳と国連の事務総長が参加する。この会議は、19日の国連難民サミットを引き継ぐもので、拘束力はないが、各国の積極的な協力を呼びかけた。

オバマ大統領はまた、難民の生活の向上に関わってきた35人の実業家や慈善家たちとの難民サミットを主催した。この会合に参加した投資家のジョージ・ソロス氏は20日、5億ドルを寄付すると表明した。

また、アメリカとロシアの間で交渉されたシリア停戦が崩壊したことを考慮し、オバマ大統領はサウジアラビア、イラン、ロシアからの代表者と会う予定だ。

この会合は困難に満ちたものとなった。19日、ロシアかシリア政府軍とみられる戦闘機が、シリア北部の都市アレッポに向かっていた国連の人道支援の車列を空爆した。この空爆で12人の支援関係者が死亡し、市内に取り残された多くの人々を救うはずだった食糧や物資が破壊された。

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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