この夏、ヒット中の映画「シン・ゴジラ」(庵野秀明監督)。60年以上の歴史を持つゴジラシリーズの最新作だが、SNSなどの口コミで評判が広がり、7月29日の公開から約1カ月で動員320万人以上。興行収入も46億円となり、50億円超えも射程距離内となってきた。
ヒットの背景には、男性ばかりか多くの女性ファンを魅了していることがある。そこで、女性ファンを対象にした上映会「女性限定鑑賞会議」が8月24日、新宿バルト9で開かれた。上映中の発声やコスプレ、サイリウムの持ち込みOKというイベントで、発売開始からたった3分で売り切れたという人気ぶりだ。
一体、女性たちは「シン・ゴジラ」のどこに燃(萌)えるのか? その謎を探るために上映会に潜入、尾頭ヒロミ役の市川実日子さんや泉修一役の松尾諭さんらが登壇した上映後のトークイベントの様子をリポートする。
(以下の記事にはネタバレが盛大に含まれます。映画をまだご覧になっていない方は閲覧にご注意ください)
上映後に行われた市川さんらによるトークイベント
■赤坂と矢口の熱いシーンになぜか「ヒュー!」
イベント会場に到着すると、すでに大勢の女性ファンの熱気が渦巻いていた。「シン・ゴジラ」は政治家や官僚、自衛隊といった人たちを中心に描いているせいか、登場する女性が少ない。対ゴジラ作戦を不眠不休で遂行する「巨大不明生物災害対策本部」(通称・巨災対)のメンバーである尾頭ヒロミ環境省課長補佐や、大河内内閣の女性閣僚で、余貴美子さん演じる花森麗子防衛大臣、石原さとみさんが英語まじりに演じたカヨコ・アン・パタースン米国大統領特使ぐらいだ。
さらに言えば、彼女たちは登場する男性と恋に落ちるわけでもなく、男性たちと対等にハードな仕事をこなしてみせるのだ。彼女たちは作中で存在感を放ち、それぞれ人気を集めて、会場でもコスプレをするファンが目立っていた。
女性ファンたちは本編上映前から臨戦態勢で、コンビニエンスストアのCMが流れると合唱、「東宝」のロゴが登場すると「東宝! ありがとう!」と感謝の気持ちを声にする。本編が始まり、最初に盛り上がったのは、長谷川博己さん演じる巨災対を率いる若きリーダー、矢口蘭堂(らんどう)内閣官房副長官を、その先輩的存在で竹野内豊さん演じる赤坂秀樹内閣総理大臣補佐官が諌めるシーンだ。見つめ合う2人に、なぜか「ヒュー!」と冷やかしを入れる女性ファンたち……。
もちろん、他の名シーンでも女性ファンは大盛り上がり。劇中の閣僚とともに「総理、ご決断を!」と迫り、カヨコが「ザラはどこ?」と聞けば、「新宿にあるよ!」と応える。ゴジラが進化する時には「がんばって!」と応援し、対ゴジラのタバ作戦が失敗に終わった自衛隊には「がんばったよ!」とねぎらった。庵野監督の「エヴァンゲリオン」シリーズの音楽が流れる巨災対の会議シーンでは、テンポ良いBGMに合わせて拍手が起こり、クライマックスのヤシオリ作戦でゴジラに血液凝固剤が経口投与されると、「一気! 一気!」とコールが巻き起こった。
財前統合幕僚長と花森大臣のコスプレ。あのセリフ付き。
■リアル泉ちゃんの「まずは君たちが落ち着け!」に落ち着きを失う
感動冷めやらぬ中、本編上映に続いて行われたのが、キャストによるトークイベントだ。尾頭役の市川さんや泉役の松尾さんのほか、巨災対の一員で、対ゴジラ作戦の糸口を発見する生物学者、間邦夫役の塚本晋也さんと、疲れている巨災対メンバーにお茶を差し出す役の片桐はいりさんも登壇した。
劇中の衣装で登場した4人に、大歓声の女性ファン。そこですかさず、松尾さんが「まずは君たちが落ち着け!」と名セリフで声をかけると、リアル泉ちゃんにますます落ち着きを失う人が続出した。
リアル泉ちゃんこと、松尾さん。水のペットボトルを持っている女性ファンも多かった。
発声上映を一緒に見ていたという松尾さんは、「僕が出てくところで黄色い声援を頂いてすごくうれしかったんですけど、矢口とのやりとりの時に『ヒュー!』って……。それがすごくムラムラするというか、変な気持ちになりました」と告白。実は、Twitterなどで、女性ファンの間で盛り上がっているのが、「内閣府」ならぬ「内閣腐」というハッシュタグ。劇中の男性同士の関係に「そこに萌えんとどうする?」とばかりに、想像を膨らませているのだ。「(矢口と)お似合いだよ!」と女性ファンに声をかけられ、「ありがとうございます」と松尾さんが思わず笑う場面も。
他にも、SNSで大人気なのが、尾頭さんのキャラクターだ。ファンは、漫画やイラストなどで市川さん演じる尾頭さんを描いて楽しんでいる。「ネットでの人気を知っていますか?」と聞かれた市川さんは、「友達から漫画家の先生が描いたみたいな尾頭の絵が送られてきたりとかしました」と返答。「あれ、いいですよね。壁紙にしようかと思いました」と応じる松尾さんに「家の?」と素でぼける市川さん。尾頭さんのキャラをほうふつとさせる天然っぷりに、「かわいい!」と女性ファンも身悶えた。
巨災対のワンシーン? 市川さんと松尾さん。
■お茶を運ぶだけのワンカットでも緊張
4人は「一番心に残ったシーンは?」と客席からの質問に対し、それぞれ撮影中のエピソードを披露した。片桐さんの登場シーンはワンカットのみ。役名も台本のセリフもなかったが、庵野監督から「あなたの笑顔にすべてがかかっている」と言われたという。
「台本にはただ、『無言で絶妙のタイミングでお茶を運ぶ』とだけ書かれていました。撮影直前に監督がセリフを3パターンぐらい言ってみられて、これにしましょう、と決まりました。(俳優を)30年ぐらいやっているので、最近では長いセリフでももう緊張しないのですが、一言で、ワンカットで、と言われると、ものすごい緊張して、お茶がカタカタ震えそうになりました」
ゴジラ第二形態、通称「蒲田くん」が上陸した東京都大田区が地元という片桐さん。
泉が矢口に「まずは、君が落ち着け」とペットボトルを渡す名シーンも、当初は台本になかったという。松尾さんによると、「台本には矢口があれだけ怒るというくだりもなかった。撮影当日に変わって、僕が矢口を諌めてペットボトルを差し出すとありました」とのこと。「怒っている人にどう差し出すか。僕が最初、ペットボトルを矢口に投げたんです。でも、長谷川くん(矢口役)は全然、見ていなかったから、ぽんって当って落ちた。それで余計に怒ったというところが、印象に残っています」
専門的なセリフが多かった塚本さんは、「セリフが思い出せない」としながらも、「進化的見地から小型化だけでなく、さらに有翼化し、大陸間を飛翔する可能性すらある」と指摘する場面が思い出に残ったという。
「庵野監督には、『ものすごく興奮してしゃべって。あなたはそのために雇われたんだから』と言われた。僕は本当に緊張して、トイレにこもって、興奮する演技を練習しました。それで本番前にはその演技を3回やったんです。庵野さんはダメ出しもしないで、マジでこれでやるんだ、こう映画なんだと思って……。でも、本番直前に、『本番いきますんで普通にやってください』って……。庵野監督はそこがうまくて、普通とむちゃくちゃとの狭間の演技を最終的に引き出すために、やったんです。さすがです。只者ではないですね」
タオルがトレードマークの間准教授を演じた塚本さん。
■現場のウワサ「早口でしゃべらないとカットされる」?
「シン・ゴジラ」の魅力のひとつに、圧倒的な速さのセリフまわしにある。台本はかなり分厚く、塚本さんによると「台本には早口でって書いてあったから、絶対指令としてあった」という。
メインキャストの中で、撮影に入るのが遅かったという松尾さん。「長谷川くんに、『早口でしゃべらないとカットされるよ』って言われました。現場でそういう噂が広まっていたんですけど、発信源は長谷川くんです。僕は最初に立川に着いた矢口と歩きながら話すシーンを撮影したのですが、現場もピリピリしていて混沌としている中、長谷川くんには陥れられるしで、さんざんな思い出です」と振り返った。
ネットで大人気の尾頭さんを演じた市川さん。
早口で人気といえば、尾頭さん。演じた市川さんは、塚本さんに「よくあんな早口でしゃべりましたよね」と言われると、「緊張しましたよね。みんな早口で、みんな意味わからないことを言ってて……。撮影初日、みんなが緊張しているのがすごいわかりました。張り詰めてましたね」と語った。
市川さんは自身の役について訊ねられると、「すごく生き物が好きな人なんだなあと…。尾頭はすごく『見てみたい』とか、好奇心があるんだけど、それは言えない……なんだろう……」と悩んでしまい、女性ファンから「かわいい!」と声をかけられていた。発声上映では、「尾頭の登場シーンで、みなさん『ヒロミ!』って呼んでましたよね。どうしよう、私……!」と照れる市川さんに、「ヒロミ!」と追い打ちをかける女性ファンたち。市川さんは、照れが極まった末に突然、「水素や窒素と物質を取り入れて(以下略)」という尾頭さんのセリフを一気に早口でしゃべり、この日、一番の喝采を浴びていた。
最後に女性ファンとの撮影で、みんなが「ゴジラ」ポーズを決める中、一人だけ何かが違う市川さん……。
大好評だった女性限定の発声可能上映。次は地方でも開いてほしいという声がネットでは高まっている。