今日、7月10日は参議院議員選挙の投開票日だ。一方で、投開票日当日の朝刊各紙に掲載されている自民党の広告が「違法では?」と指摘する声がTwitter上などに投稿されている。公職選挙法で、「選挙運動」は前日までしかできないことが定められているからだ。この広告は違法なのだろうか。ハフポスト日本版では総務省選挙課などに話を聞いた。
▼掲載されている広告と新聞社
ハフポスト日本版の調べでは、7月10日の東京都内で販売されている朝刊に広告を出している政党と新聞社は以下の通り。
朝日、日経=自民党のみ掲載
毎日、読売=自民党、公明党を掲載
産経=自民党、幸福実現党を掲載
東京=掲載なし
このうち、自民党の広告には、安倍晋三首相の大きな顔写真とともに「今日は、日本を前へ進める日。4年前のあの停滞した時代に後戻りさせる訳にはいきません。これからも、さらにアベノミクスのエンジンをフル回転させることで、全国の皆さんに景気回復の実感をお届けします。さあ、日本を、力強く、前へ、進めていきましょう。この道を。力強く、前へ。」と書かれている。
この中には、選挙を意識したフレーズが散りばめられているように見える。
▼公職選挙法
公職選挙法129条の規定で、選挙運動は選挙期日の前日(つまり今回の場合は7月9日)までしかすることができないことが定められている。候補者らが、街頭演説ができなくなる9日午後8時までで「最後の訴え」を切り上げるのはそのためだ。
【選挙運動期間に関する規制】
選挙運動は、選挙の公示・告示日から選挙期日の前日までしかすることができません(公職選挙法第129条)。
違反した者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処することとされており(公職選挙法第239条第1項第1号)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
(総務省|現行の選挙運動の規制より)
一方、政党による一般的な「政治活動」は公職選挙法上、「選挙運動」とは区別されている。
選挙運動と政治活動の違いは?
【選挙運動】
特定の選挙に、特定の候補者の当選をはかることを目的に投票行為を勧めること。
【政治活動】
政治上の目的をもって行われるいっさいの活動から、選挙運動にわたる行為を除いたもの。
総務省によると、参院選期間中の場合、公選法201条6項などの規定で、政治活動は基準を満たし、届け出をした「確認団体」のみがすることができ、投開票日当日は演説などはできないこととされているが、新聞広告についての制限はない。
▼総務省選挙課の見解は
さて、では今回の広告は選挙運動なのか、それとも政治活動なのか、判断が難しい。ハフポスト日本版は総務省選挙課の担当者に電話インタビューを行った。担当者の見解は以下の通りだ
――広告は選挙運動に当たるのではとの指摘がありますが
この広告が選挙運動に当たるかどうかについては、判断の権限は総務省にはありません。取り締まりを行う警察当局、最終的には司法の場で判断されることになります。
――選挙運動と政治活動の境目を判断するのは困難にも思えます。ガイドラインのようなものはあるのでしょうか?
ありません。すべて個別判断になります。
▼自民党や新聞社の見解は
ハフィントンポストでは、自民党本部や朝日・毎日・読売・産経・日経の各新聞社に電話で見解を尋ねたが、いずれも不在か、日曜日のため広告部門の担当者が不在で答えられないということだった。
▼朝日・読売新聞の規定
朝日新聞は、今回の参院選の広告についての媒体資料を公開している。
資料によると、選挙関連で出稿を呼び掛けているのは「選挙区選出議員候補者広告」「名簿届出政党等広告(比例代表選挙広告)」「私費負担の政党広告」の3タイプ。
このうち、「選挙区選出議員候補者広告」「名簿届出政党等広告(比例代表選挙広告)」については、投開票日前日までしか掲載できないと書かれている。
一方、「私費負担の政党広告」は、投開票日当日であっても「本社が妥当と判断したものに限り掲載できます」とある。よって今回の自民の広告は私費負担の政党広告の可能性がある。
また、読売新聞は、前回2013年の参院選の広告案内をネット上に掲載している。
「私費広告」としての枠組みは朝日新聞と同じく「掲載期日に制限なし」としているが、「内容が選挙運動に関係のない純粋な政治活動の範囲内であれば」とのただし書きがある。
産経新聞も政党広告についてのガイドラインを公表している。
▼YouTube広告は?
また、YouTubeに挿入される広告にも自民党の広告が出てくると話題になっている。しかし、この広告が仮に、「選挙運動用文書図画」と認定されたとしても、以下の規定により「投開票日の当日に更新しなければ問題ない」とされている。
<選挙期日当日の取扱い>
ウェブサイト等に掲載された選挙運動用文書図画は、選挙期日当日もそのままにしておくことができます(改正公職選挙法第142条の3第2項)。
ただし、選挙運動は選挙期日の前日までに限られており、選挙期日当日の更新はできません(公職選挙法第129条)。
違反した者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処することとされており(公職選挙法第239条第1項第1号)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。
▼政治活動と選挙運動の違いは難しい
政治活動と選挙運動の違いは非常に曖昧で、この広告を違法かどうか判断するのは大変難しいことがわかった。普段も立候補予定者の看板を街中で良く見かけ、選挙運動なのか政治活動かわからない事例もある。ツイッター上で多くの人が混乱するのも無理はないのではないだろうか。
【訂正】日経新聞も自民党の政党広告を掲載。毎日新聞と読売新聞は、公明党の政党広告も掲載していたため加筆しました。(2016/07/10 14:21)
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