7月の参院選では、18歳以上が初めて投票できるようになる。新しい世代が参加することで「政治が変わる」ことに期待が高まっているが、そもそも若者たちの政治・選挙への関心はどこに向いているのだろうか。ハフポスト日本版は、18歳から23歳の若者と一緒に国会議員や自治体の首長らを訪ね、率直で様々な質問をぶつけてみた。
学生時代に陸上競技一筋だったという民進党の玉木雄一郎・衆院議員(47)は、吉川敦也さん(18)と松岡宗嗣さん(21)の素朴な質問にも、気さくに答えてくれた。2人の学生に対して「18歳は選挙に行くな!」「候補者選びは新しくスマートフォンを買う気持ちで」と一風変わったアドバイスも。果たして、その真意とは。
(左から)玉木雄一郎・衆院議員、松岡宗嗣(21)さん、吉川敦也さん(18)
――そもそも18歳選挙権に賛成、それとも反対? その理由は何でしょうか。
賛成です。今はどうしても高齢者の声が、より反映されやすい政治になっている。国が借金をして、その借金で得たお金を今生きている人に配っている。その借金は数十年後に今の若い人たちが払うことになる。でも、今の若い人に投票権があるかというと、(18歳未満には)選挙権が無かったり、選挙権がある人も投票に行かなかったりする。もちろん、今を生きる人のための施策は大事です。でも若い人が行かない限り、政策は特定の世代に偏ってしまう。若い人が減っているから、全員が投票しても、上の世代の人たちに数では対抗できない。なら、枠を広げて、できるだけ皆さんが選挙に行くっていうことが大事だと思います。
世の中、タダのものはない。何かをタダでもらえたら、その裏で誰かがどこかで負担してると思ったほうがいい。必ずお金の流れを追ってほしいです。「誰が負担してるの?」「どこで負担してるの?」って。立ち止まって考えてみると、実は違う地域の人が負担していたり、あるいは世代を超えて、誰かが負担するようになっていたりする。「何か裏があるんじゃないの?」と思う感覚を身につけてほしいです。
■「『一発勝負』の新卒採用は、人生の幅を狭めてしまう」
――玉木さんは、18歳の頃はどんな生活を送っていましたか?
陸上競技に打ち込んでいたよ。「十種競技」とかやっていた。これ、10種の陸上競技を一人で全部やるんだよ。結構大変で…。若いときは、何でもいいから一生懸命取り組んで、失敗したり、上手くいったりを繰り返し経験することが大事だと思います。
――失敗と成功の経験の繰り返し、日本では難しそうです。就活でも新卒採用の「一発勝負」が多いですが、どう思いますか?
変えたほうがいいと思う。自分のタイミングで就職したり、離れたりを決められるようにしたほうがいい。特に女性は出産のタイミングがある。自分の人生の中でいつ出産するかって決めるのは、なかなか難しいと思うんだ。仕事のキャリアを発揮するタイミングと出産・子育てのタイミングが重なると、どっちかを諦めなきゃいけない。もちろん子育てをしやすい環境をつくって、仕事と子育ての両方をできるようになったら良いのだけど、これをずらせるシステムがあってもいいと思う。
日本はもう少し、好きなタイミングで学べたり働けたりする環境を作ることが大事だと思う。私が20代の前半でアメリカの大学に行った時は、30代や40代のクラスメートも沢山いました。ビジネスをやってから入学した人や、軍隊に行った後に戻ってきて学ぶ人も。そういう人は人生経験が豊富で、話していても面白い。そういう環境をぜひ作りたいね。そうしたら、一発勝負で人生賭けなくていいじゃない。チャンスが次から次へと巡ってくる機会があれば、もっと人生が幅広くなる。
あとは、失恋をしたほうがいいね(笑)。喜怒哀楽の経験は、あとになって絶対に役立つ。そういう経験があったほうが、他人の気持ちもわかるよ。若い頃は挫折できる。リスクを取れるんだ。歳をとってからリスクをとって失敗すると、元も子もない。でも若かったらどうとでもなる。皆さんは今からでも自分の人生を作れるし、変えられる。そのチャンスを最大限活かして、できるだけ人生の目標を高く設定してチャレンジすべきだと思う。
■「今の若者は、とても物知りだと思う。でも……」
――玉木さんはなぜ政治家にチャレンジしようと思ったんですか?
私は香川県出身。田舎者なんだよね。家の近くにはイノシシが出てくるの(笑)。東京の大学に進学してからは東京で過ごしていたけど、出身はすごく田舎。「なんでこんな差がつくのかな?」とずっと思っていた。だから地元をもっと元気にしたいなと。それで皆が、あらゆる地域が元気になればいいなと思った。「田舎者のど根性」かな。それが一番最初の、自分が政治家を志した根っこですね。
――今の18歳と、玉木さんが18歳の頃と比べると何が違いますか?
今の若者はとても物知りだと思う。僕らが若い頃はインターネットなんてなかったけど、今はGoogleに聞けば何でも教えてくれますからね。写真や映像を見るだけで、海外旅行した気分も味わえる。一方で、知識が薄く広くなりがちな気はします。例えば「ニーチェってどういう人?」って、ウィキペディアを見れば大体のことは書いてある。でもそうじゃなくて、1つのものを掘り下げて悩んでみるとか、思考を深めていくことが大事。便利だからこそ、そのあたりやりにくいのかなって思います。どんなことでもいいから徹底的に突き詰めて考えてみてほしいな。それで、やっぱりリアルに汗をかいてほしい。バーチャル空間、ネット空間が発展している今だからこそ、リアルの世界で、人がやらない経験を積むことが大事だと思う。
■「投票先を選ぶ時は、新しいスマートフォンを買う気持ちで」
――(吉川敦也さん)今度の参院選で初めて投票するんですが、候補者や政党を選ぶための情報収集はどうすればいいですか?
例えば、スマートフォンを新しく買う時、ショップで実機を確かめたり、カタログを見たり、ネットで調べたりするじゃない?それぐらいの時間を、候補者を選ぶときにかけたらいいと思う。本当は候補者と会って話を聞くのが一番いいんだけど、皆さんも忙しいよね。自分の選挙区の候補者は何人いるのか、どんな政策を話しているのか、過去に何をやったのかとか、ネットで検索したら出てくるよ。まずは、それをもとに判断する。雰囲気で選ぶんじゃなくて、ちょっとだけ選択するために時間をかけてほしい。調べるとわかるけど、ちゃんと働いてる国会議員も結構いますよ。意外かもしれないけど(笑)。
候補者のTwitterやFacebookをフォローして、どういう発信をしているのか、あるいはしていないのかを確かめてみるのも良いね。中にはTwitterすらやっていない人もいるけど、そういう人はネット世代の人を相手にする気がないっていうことじゃないかな。口では「若者が大事」って言っても、Twitterのアカウントさえ持ってなかったら、それはちょっと…って思いますよね。
■「情報を批判的に読み解く力が必要」
――自分で情報を集めて、考えることが大事だと。
そうですね。自分で読み解く力を身につけないとね。日本の教育に足りないのは、クリティカル・シンキングだと思います。物事を批判的に見る力を養わず、先生が教えることを全部受け止めるっていう教育だから、皆さん素直に言うことを聞く。でもそうやって、聞くことには自然と慣らされてる。
世の中に溢れてる情報は、意図を持って出されています。新聞も、同じニュースでも読み比べると全然違う。皆さん新聞読んで無いでしょ?読んだほうが良いと思いますよ。ニュースだけでなく、与党が出す情報も、野党が出す情報も、意図を持って出されています。それを自分で読み解いてほしい。
例えば、政策の論争を伝えるニュースに、変な表情になったところの写真を載せるか、爽やかに映ってる写真を載せるかで、読者に与える印象は全く違う。記事で書かれている内容が同じでも、写真ひとつで印象は全然違うよね。何枚もある写真の中でどの写真を選ぶか、そこには選択をする意図が入っている。そこを読み解く力が必要。紙媒体もそうだし、ネット媒体もね。情報が多い時代になったからこそ、情報の加工を分析する力が求められると思う。冷静に、常識的なものを判断していく感覚と知識を身につけるべきだと思います。
私も「18歳選挙権には賛成」と言ったけれども、だからって若者に媚びるような政治はダメだと思う。皆さんはそこは見抜くべきなんだ。そこにある政治的意図は見抜いたほうがいい。だから、私はよく「18歳は選挙に行くな!」って言ってる(笑)。そうすると「え?なんでそんなこと言うんですか?」って若い人たちは疑問に思うでしょ?政治を考えるきっかけになればいいなって思っています。
――玉木さんは国会でもTPP(環太平洋経済連携協定)に関する質疑に立っていましたね。新しく選挙権をもらえる若い世代にとって、TPPってどんな影響があるのでしょうか。
今度コンビニに行って、納豆のパッケージ裏を見てごらん。そうすると品質表示のところに「丸大豆(アメリカまたはカナダ)」とか書いてある。で、もう1個かっこがあって。「遺伝子組換え大豆は使用していません」という表示がある。これは日本の食品表示法の義務なんだけど、アメリカではこの表示は求められていない。遺伝子組み換えをした食品を食べ続けた時の影響についてはまだいろいろな議論があるんだけれども、やっぱり消費者としては、そういう情報をもとに買う商品を選択したいよね。日本ではこういう表示義務があるからから、我々は商品を買う時に選択できる。でも、アメリカは「表示義務が参入障壁になる」という意見。表示義務がなければ、日本人がアメリカの食品を食べてくれるからね。だから、こういった義務や規制を統一化しようというのがTPPなんだ。
統一すること自体は良いと思うよ。同じルールのもと、貿易がもっと円滑になるからね。ただ、健康とか命に関わる基準とか規制を、どこの基準に合わせて統一するのか。そこは考えないといけない。TPPって実は農家の人よりも消費者、特に子供を持っているお父さんとかお母さんとか、皆さんみたいな若い子にも、もっと関心を持ってもらいたい。TPPもそうだけど、選挙の時は1回止まって考えた上で判断してほしいですね。
■玉木雄一郎・衆院議員(47)
1969年香川県寒川町(現さぬき市)生まれ。米ハーバード大学大学院修了。1993年大蔵省に入省。財務省主計主査などを経て、2009年衆院選で初当選。現在3期目。安全保障委員会理事、予算委員会委員、TPP特別委員会委員、民進党の国会対策副委員長。趣味はカラオケ(十八番は「あずさ2号」)、マラソン。
【関連記事】