ヘイトスピーチ対策法案が、5月12日の参院法務委員会で、全会一致で可決された。
時事通信は、13日の参院本会議で可決されて衆院に送られ、今国会で成立する見通しと伝えている。
■「不当な差別的言動は許されないことを宣言」
法案は、「不当な差別的言動は許されないことを宣言」し、人権教育や啓発活動を通じて解消に取り組むと定めた理念法で、罰則はない。差別的言動の解消に向け、国や地域社会が、教育や啓発広報、相談窓口の設置など「地域の実情に応じた施策を講ずる」よう定めている。
参院での審議では、解消すべき差別発言などの対象を「本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの」と限定したことが議論の焦点となった。
野党側は「本邦外出身者」「適法に居住する」との限定が、沖縄出身者やアイヌ、さらに在留資格を満たさない外国人らへの差別発言を正当化するとして削除を求めていたが、与党側は応じなかった。法成立自体を優先させたい野党側は、付則で「必要に応じ、検討が加えられる」とした見直し規定と、「『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであり、本法の趣旨、日本国憲法及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の精神に鑑み、適切に対処する」などの付帯決議をつけることで折り合った。
■「うれしくて涙が止まらない」
ヘイトスピーチ対策法の参院法務委可決を受けて記者会見する「外国人人権法連絡会」の師岡康子弁護士(右から2番目)や、在日コリアン3世の崔江以子さん(同3番目)ら
ヘイトスピーチを受ける当事者や、差別反対に取り組んできた人々からは、課題は残ったものの、国が差別の存在を認め、対策の必要性を明記したことを評価する声が多く聞かれた。
民族差別的な発言で名誉を傷つけられたとして「在日特権を許さない市民の会」や、まとめサイト「保守速報」を相手取って訴訟を起こしたライターの李信恵さんは、ヘイトスピーチのデモに対する抗議行動など、差別反対の運動が法案整備につながったと評価した。
在日コリアンが多く住む川崎市桜本地区の「川崎市ふれあい館」職員で、在日コリアン3世の崔江以子さん(42)は「国が差別を止めると言ってくれたことは心強い。この法をもとに、地域とパートナーシップをもって、桜本の子どもたちやハルモニ(おばあさん)たちに約束した差別根絶への歩みを進められる。それがすべての人へのあらゆる差別根絶につながっていくのではないかと思っている」と歓迎した。
『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』(講談社)などの著書があるジャーナリストの安田浩一さんは、ハフポスト日本版に対し「問題点だらけなのはその通りだが、ヘイトスピーチは不当な差別だという意思統一が、やっと政府によってなされたことは評価したい。この法案で終わりではなく、これからが差別を根絶する本当のスタートになる」と話した。
一方で「適法居住」要件が残ったことには、専門家から懸念の声も上がった。
弁護士や法学者でつくるNGO「外国人人権法連絡会」は声明を出し、「日本における初めての反人種差別理念法」と意義を評価したが、保護対象者を「適法に居住するもの」に限定したことを「非正規滞在者に対する不当な差別的言動は許されると解釈しうる条項は、非正規滞在者に対する差別を促進する危険性がある」として、この部分の削除を求めた。
記者会見した連絡会の師岡康子弁護士は「これまで国はヘイトスピーチのデモや街宣活動に中立の立場としながら、表現の自由としてそうしたデモを守っていく立場だった。今回、ヘイトスピーチを許さない、という立場に立ったことは意義がある」としたが「『適法居住』要件は、反差別法なのに差別をすすめる内容になってしまっており、手放しでは喜べない」と懸念を示した。
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