【UPDATE】2016/05/09 18:30
女性器をかたどった作品や3Dデータが、芸術か、「わいせつ」かを巡って争われていた「ろくでなし子」被告の裁判で、一部無罪が言い渡された。
東京地裁(田辺三保子裁判長)は5月9日、わいせつ物公然陳列、わいせつ電磁的記録等送信頒布など3つの罪に問われていた漫画家「ろくでなし子」こと五十嵐恵被告(44)に対し、一部を有罪と認め、罰金40万円(求刑・罰金80万円)の有罪判決を言い渡した。一方、わいせつ物公然陳列罪については無罪とした。
弁護団が配布した資料などによると、五十嵐被告は2014年7月、女性向けアダルトショップで、女性器をかたどった石膏をアート作品として陳列したほか、2013年10月から14年5月にかけて、女性器を3Dスキャンしたデータをのべ11人にメールで送信したり、CD-Rに焼き付けて郵送したりしたとして、わいせつ電磁的記録等送信頒布、わいせつ電磁的記録記録媒体配布、わいせつ物公然陳列などの罪で起訴されていた。
裁判では、3Dデータや陳列されたアート作品が「わいせつ物」にあたるかが争点となった。検察側は「性器を公然と露出したことと同じ」とわいせつ性を主張、これに対し弁護側は「芸術活動の一環」と無罪を主張していた。
朝日新聞デジタルによると、判決は、アート作品について、着色や装飾によって「ポップアートの一種ととらえることは可能で、芸術性、思想性によって性的刺激が緩和されている」として、わいせつ物とは言えないと指摘。一方で3Dデータは「女性器の形状を立体的、忠実に再現している」として有罪とした。
また「わいせつ」な文書の販売や頒布を禁じた刑法175条が、表現の自由を定めた憲法に違反するかどうかについては「性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持する、あるいは性生活に関する秩序および健全な風俗を維持するためのものであり、このような立法目的は価値観が多様化している今日においても十分に必要であり合理性がある」と、弁護側の主張を退け従来の判断を踏襲した。
弁護側は有罪部分の判決を不服として控訴した。判決後、記者会見した弁護団の山口貴士弁護士は「わいせつ事件では非常に珍しい、『愛のコリーダ』事件以来の一部無罪ではないか。30年ぶりの歴史的な判決」と評価したが、3Dデータがその精密性を理由に有罪とされたことについては「性器そのものが露骨にうつっていれば有罪だという判断を脱し切れていない」と批判した。
五十嵐被告は「私の活動を理解してもらえるか不安だったが、作品を『ポップアート』と認識してもらったことはとてもうれしい」と述べた。一方で3Dデータの頒布が有罪とされたことについて「自分自身の体が持っているものだからわいせつではないという、私にとっては当たり前の主張のために活動してきた。男性目線から見た視点でしか語られない女性器という概念を覆すために活動しているのであって、そこがまったく裁判官に通じなかったことが非常に悔しい。自分の無罪を信じていますので最後まで戦います」とも話した。