ドナルド・トランプ氏の準備はかなり前から始まっていた。【アメリカ大統領選】

2011年のホワイトハウス晩餐会で、オバマ大統領はトランプ氏を容赦なく嘲った。それが油を注いでしまったのかもしれない。
Republican U.S. presidential candidate Donald Trump smiles as he speaks at the start of a campaign victory party after rival candidate Senator Ted Cruz dropped after the race for the Republican presidential nomination, at Trump Tower in Manhattan, New York, U.S., May 3, 2016. REUTERS/Lucas Jackson TPX IMAGES OF THE DAY
Republican U.S. presidential candidate Donald Trump smiles as he speaks at the start of a campaign victory party after rival candidate Senator Ted Cruz dropped after the race for the Republican presidential nomination, at Trump Tower in Manhattan, New York, U.S., May 3, 2016. REUTERS/Lucas Jackson TPX IMAGES OF THE DAY
Lucas Jackson / Reuters

「メキシコ移民はレイプ犯」「イスラム教徒をアメリカから締め出す」などと発言してきた不動産王のドナルド・トランプ氏が5月3日、インディアナ州での共和党予備選挙で勝利した。最も有力な対立候補だったテッド・クルーズ上院議員(テキサス州)も選挙戦からの撤退を表明。これでトランプ氏が共和党の指名獲得がほぼ確実な状況になっている。

共和党の大統領候補予備選挙は、得票数ではなく代議員の獲得数で争われる。トランプ氏の対立候補たちは、7月までに十分な代議員数を獲得できるのではないかという希望を持っていた。しかし、想像以上の強さを見せたトランプ氏は、4月末のペンシルバニア州での結果を受け、指名を獲得することが確実となった。

トランプ氏はこれまで1000近くの代議員を獲得。今回のインディアナ州での勝利で、同州の代議員の57人のうち、その大部分を獲得。指名を獲得するのに必要な1237人まで、あと約200人となった。

今後選挙があるカリフォルニア州とニュージャージー州では、トランプ氏が20ポイント以上の差をつけ、有利とみられている。クルーズ氏が脱落したことを考えると、このまま数字が動かなければ、トランプ氏はニュージャージー州の代議員数51人とカリフォルニア州172人のうち、その大部分の代議員を獲得することになると予想される。

代議員獲得数、そしてクルーズ氏の撤退をふまえると、「共和党支持者の多くはトランプ氏が候補になることを認めた」と考えてよいだろう。ハフポストの調査によると、トランプ氏はクルーズ氏に2倍の差をつけており、共和党支持者の半分以上の支持を受けていると見ていい。CNN/ORCの調査によると、インディアナ州での予備選挙の前には、91%の人が「トランプ氏が指名を獲得する」と考えていたとされる。また、予想サイトのプレディクトワイズは3日朝、88%の確率でトランプ氏が代議員数の大部分を獲得するとの予想を発表した。先月と比べ、28ポイント上昇している。

ギャラップの調査によると、現在も共和党内では、トランプ氏への評価は分かれている。だが、先月と比べると評価は高くなっているという。一方でクルーズ氏に対する評価は、初めて不支持が多くなった。

数カ月前は、トランプ氏が共和党の指名を獲得するなど誰が見ても不可能に思えた(若干の例外もあったが)。実際、多くの専門家や共和党候補者の数人は、トランプ氏には限界があると述べていた。そして共和党は、「反トランプ連合」として一つにまとまろうともしていた。

しかし、実際に反トランプ勢力が結集することはなかった。オレンジ色の髪をした扇動政治家は、2015年7月に元フロリダ州知事ジェブ・ブッシュに勝利した後、ハフポストの調査で常に人気を集め続けた。なお前回の大統領選で共和党候補となったミット・ロムニー氏でさえ、2011年〜2012年の同時期は、4回も首位を逃していた。

トランプ氏はかなり前から大統領の座を狙っていた。伝記作家のウェイン・バレット氏によると、トランプ氏は1985年のニューヨークでの共和党大会で「いつか自分は大統領になりたい」と話したという。そして1987年、トランプ氏はニューハンプシャーを訪れ、大統領への出馬への考えを強めた。

トランプ氏は今回の2016年の選挙活動のための基盤を、5年以上も前から整え始めていた。2010年、トランプ氏の慈善団体であるドナルド・J・トランプ財団は、救世軍やユナイテッド・ウェイなどの古くからある非営利団体や、保守の政治団体に資金を動かし始めた。その年、ハフポストUS版のクリスティーナ・ウィルキーが1月に書いた記事にあるように、トランプ財団は最高裁番所判事のクラレンス・トーマスの妻が設立した、弁護団体のリバティー・セントラルに5000ドルを寄付した。

トランプ氏は2011年にはさらに動きを強め、サウスカロライナの離婚や同性婚、初期の人工中絶に反対する団体であるパルメット・ファミリー・カウンシルに1万ドルを寄付した。また同年、右翼活動家の定例集会である保守政治活動協議会(CPAC)でもスピーチを行った。

2011年のホワイトハウス記者晩餐会での出来事は、最も世界で高い地位を狙うトランプ氏の欲望に、油を注いでしまったのかもしれない。このことは、2011年の3月に、ニューヨークタイムズのマギー・ハーバーマンとアレクサンダー・バーンズが記事にしている。トランプ氏は何年にも渡って、バラク・オバマ大統領はアメリカ生まれではないという陰謀論を広めてきた(もちろんオバマ大統領はアメリカ生まれなのだが)。そしてワクチンが自閉症の原因になるとも言ってきたトランプ氏が、7月のホワイトハウス記者晩餐会に参加した時、オバマ大統領はトランプ氏を容赦なく嘲ったのだ。

「このホワイトハウス記者晩餐会での夜に嘲笑されたことは、トランプ氏を撤退させるのではなく、逆に政治の世界でトップになるというトランプ氏の激しい動きを加速させた」とハーバーマンとバーンズが書いている。共和党はトランプ氏を「なだめて好きなようにさせ」、そして「共和党はトランプ氏の資金や援助を受け、トランプ氏がアメリカの政治のトップの座に就くことをどれほど強く望んでいるかを気付いていないようだった。この過程で共和党は、トランプ氏に正当性のようなものを授けてしまった。この正当性こそ、トランプ氏が必要としていたもので、大統領の座を狙うための、説得力のある出馬を追うことにつながった」としている。

トランプ氏は2011年、世論調査で大統領選の共和党候補として名前が挙がったが、最終的に2012年の時は不出馬を決断した。しかし、トランプ氏のホワイトハウスへの関心とそれを勝ち取るための取り組みは、全く衰えることはなかったのだ。ハフポストUS版のクリスティーナ・ウィルキーは以下のように述べている。

2012年になるとトランプ氏は本格的に自身の財団の資金を使い、保守的な政治に油を差すことを始めた。トランプ氏の寄付の中でも取り分け大きかったものは、フランクリン・グラハム氏が運営する一般大衆に向けたキリスト教支援団体、ビリー・グラハム・エバンジェリスティック・アソシエーションへの10万ドルの寄付だろう。また同じくグラハム氏が運営する非営利団体のサマリタンズ・パースにも、トランプ氏は3万5000ドルの寄付を行っている。

去年トランプ氏が、イスラム教徒をアメリカから締め出すと発言してから、多くのキリスト教関係の指導者たちはトランプ氏を非難した。しかしフランクリン・グラハム氏は、トランプ氏を擁護する発言をFacebookに投稿をしている。

2013年になると、ドナルド・トランプ財団は全米保守連合(ACU)や反中絶団体のジャスティス・フォー・オール、ファミリーリーダー財団やテキサスに拠点を置くキリスト教の牧師など、これまで以上に保守的で宗教的な団体に寄付を行った。2014年はニュージャージー州のクリス・クリスティ州知事が運営する共和党知事協会(RGA)に25万ドルの寄付を行った。

2015年の6月には、トランプ氏は大統領候補選挙に出馬することを表明し、ブッシュ氏、フロリダ州のテッド・クルーズ上院議員、マルコ・ルビオ氏、そしてトランプ氏を支持するクリスティ氏などの錚々たる面子と争うことになった。そして、他の候補者が全く及ばないほどの圧倒的知名度でレースを始め、わずか数週間のうちに独走することになった。

専門家たちは笑っていた。トランプ氏の不届き千万なコメントに対して専門家たちは息を呑みこそすれ、トランプ氏をかばったのだ。メディアは20億ドル相当の無料報道をし、トランプ氏への投票数は増えていった。アイオワ州、ニューハンプシャー州でスタッフを雇ったトランプ氏は、アイオワ州では2位だったが、ニューハンプシャー州とサウスカロライナ州では勝利した。他の候補者たちはトランプ氏に勝つために多額の資金を使ったが、効果はあまり無かった。ニューハンプシャー州の選挙では、ブッシュ氏が1票ごとに使った資金は1150ドルだったが、一方のトランプ氏は1票あたりの費用はわずか40ドルだった。その後の34の州での予備選挙のうち、トランプ氏は22の州で勝利を収め、何百万という票、何百という代議員数を獲得した。よほどの奇跡でもない限り、共和党の指名候補になるのは確実だろう。

そしてトランプ氏の本当の仕事が始まろうとしている。アメリカ国民の3分の1近くがトランプ氏をポジティブに捉え、近代史において最も嫌われた主要政党の候補者にしようとしている。

予備選挙では、トランプ氏は制度のサポートをほとんど受けずに他の候補者達と戦った。総選挙ではおそらくトランプ氏は、民主党をまとめるヒラリー・クリントン氏と戦うことになるだろう。そして共和党は、まだ第三者の候補者を擁立することも検討している。

トランプ氏が勝つべきだと考える理由は無いのだが、現にトランプ氏はここまで勝ってきたのだ。

編集者注:ドナルド・トランプ氏は政治的暴力を扇動し、16億人いるイスラム教徒をアメリカから締め出すと繰り返し話してきた人物で、嘘ばかり言い、極度に外国人を嫌い、人種差別主義者、ミソジニスト、バーサ―として知られる人物である。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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