第二次世界大戦中にナチス・ドイツが略奪したイタリア人画家モディリアーニの絵画が、スイス・ジュネーブで司法当局に押収された。各国首脳らのタックスヘイブン利用疑惑を暴露した「パナマ文書」が契機となり、これまで明らかにされていなかった絵画の所有者が判明したという。AFP通信などが4月11日に報じた。
モディリアーニ「つえを突いて座る男」1918年
押収された絵画は「つえを突いて座る男」という1918年の作品で推定価値は2500万ドル(約27億円)。時事通信ニュースによると、ナチス・ドイツが第二次世界大戦中に、パリでユダヤ人収集家から没収。その後、行方不明になったとの見方が強いという。
ブルームバーグによると、絵を奪われたユダヤ人収集家の孫は、その行方をカナダの団体「モンデックス」に依頼。この団体は略奪された美術品を本来の所有者に返還するための活動をしている。
1996年に絵画はロンドンで競売にかけられ、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が設立を手掛けたとされる法人「IAC」が落札した。この法人の所有者は公にはされていなかった。
AFP通信によると、モンデックスは2011年以降、ユダヤ人収集家の孫が絵画を取り戻せるようアメリカ当局に協力を要請していたが、アメリカ当局も現在の所有者を特定できなかったという。
ところが、「モサック・フォンセカ」から流出した「パナマ文書」によって、絵画を落札したIAC唯一の株主が、ユダヤ系の富豪で著名美術品収集家のデービッド・ナーマド氏だと判明。絵画がスイス・ジュネーヴの倉庫に保管されていることも分かり、ジュネーヴ司法当局が先週末に絵画を押収した。
BBCによると、ナーマド氏は「私が略奪品を所有していることを知ったなら、夜も眠れないだろう」とカナダのラジオ局に語った。また、ナーマド氏の顧問弁護士リチャード・ゴラブ氏は「ナーマド氏と今回の件は無関係だ」と述べた。
■ナチス略奪物の返還に向けた「ワシントン原則」とは?
第二次世界大戦期、ナチス・ドイツは支配下に置いたヨーロッパ各地で美術品を略奪した。その中には戦災で焼失したり、戦中・戦後の混乱で行方不明になったものも多い。
1998年12月、スイスを含む世界44カ国の代表者とNGOは「ワシントン原則」を採択し、ナチスによって奪われた財産を本来の所有者や遺族ににできる限り返還すべきだと定めた。これを受けてイギリスやドイツなどは、自国の美術館や博物館は、ホロコースト時代に略奪された被害者から美術品の返還請求を受けた際、裁判手続きを経ることなく返還すべきかどうか議論し決定する審査会制度を設けた。
2013年には、ナチス・ドイツが略奪したピカソ、マティス、シャガールなどの絵画約1500点がドイツ・ミュンヘンのアパートで発見され、話題となった。
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