「第三者がSNSで拡散する時代」柳楽優弥ら主演の映画『ディストラクション・ベイビーズ』で、監督が描きたかったこと

喧嘩に明け暮れる若者らを描いた青春群像映画『ディストラクション・ベイビーズ』が、21日から全国で公開される。監督の真利子哲也さんがハフポスト日本版のインタビューに応じた。
©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

喧嘩に明け暮れる若者と彼のカリスマ性に引き寄せられた高校生たちの壮絶な青春群像映画『ディストラクション・ベイビーズ』が、5月21日から東京のテアトル新宿ほか全国で公開される。作品では、傍観者が使うSNSで広まる場面も描くなどインターネットが重要なカギを握っていることにも触れているが、監督の真利子哲也さん(34)がハフポスト日本版のインタビューに応じ、「第三者が語って拡散する社会があることを描きたかった」と語った。

作品は、真利子監督が、愛媛・松山に足を運び風土や実際の住民たちからインスパイアされたことに基づく。現代の若者たちの乾いた暴力に対比されるものとして、松山の伝統的な喧嘩神輿として知られる秋祭りが配されている。出演は柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈らで、若手・新鋭の俳優陣が集まった。

あらすじはこうだ。愛媛県松山市西部の小さな港町・三津浜。海沿いの造船所のプレハブ小屋に、ふたりきりで暮らす芦原泰良(柳楽優弥)と弟の将太(芦原将太)。日々、喧嘩に明け暮れていた泰良は、ある日を境に三津浜から姿を消す――。それからしばらく経ち、松山の中心街。強そうな相手を見つけては喧嘩を仕掛け、逆に打ちのめされても食い下がる泰良の姿があった。

街の中で野獣のように生きる泰良に興味を持った高校生・北原裕也(菅田将暉)。彼は「あんた、すげえな!オレとおもしろいことしようや」と泰良に声をかける。こうしてふたりの危険な遊びが始まった。やがて車を強奪したふたりは、そこに乗りあわせていたキャバクラで働く少女・那奈(小松菜奈)をむりやり後部座席に押し込み、松山市外へ向かう。その頃、将太は、自分をおいて消えた兄を捜すため、松山市内へとやってきていた。泰良と裕也が起こした事件はインターネットで瞬く間に拡散し、警察も動き出している。果たして兄弟は再会できるのか、そして車を走らせた若者たちの凶行のゆくえは――。

真利子哲也(まりこ・てつや) 1981年、東京都生まれ。東京芸術大大学院の修了作品『イエローキッド』は、バンクーバー国際映画祭、毎日映画コンクール新人賞、日本映画プロフェッショナル大賞監督賞など受賞。続く『NINIFUNI』はロカルノ(スイス)国際映画祭で特別作品として選出される。

インタビューに答える真利子哲也さん=東京・新宿

――真利子監督にとって、今回が商業映画デビュー作となりますね。

商業作の割には自分の自由にできたと思います。がんじがらめにならずにやれました。こういうものを作りたいとずいぶん前から思っていたんだと、完成してから気づきました。攻めている題材ですが、見終わるまであっという間で、かつ、ちょっと考えさせる映画になりました。

――劇中では、登場人物がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使う場面が目立ちました。どういった意図があったのでしょうか。

作品は2011年という設定で、スマホも当時のものです。菅田将暉君が演じる北原裕也は自己顕示欲を持ったキャラクターで、柳楽優弥君が演じる芦原泰良を街中で見かけると、SNSで拡散するんです。当時、コンビニでふざけて冷蔵庫の中に入って撮った写真を拡散させ、結果、炎上するみたいな「バカッター」が社会問題になっていました。その後、SNSのリテラシーは高まり、若い人たちのTwitterなどSNSへの接し方は変わったと思います。

裕也は友達に向けて写真を投稿しました。クローズドの空間だと思っていたんですが、なぜか外部にもれて拡散してしまいます。グループチャットで話していても、そのうち、誰かが誰かを招き入れて知らない第三者が入ってくるんです。拡散しないと思ったら大間違いですね。

――北原裕也は、第三者にまで拡散することは想定していないですよね。

いないですね。商店街で裕也が喧嘩するシーンでは、たまたまそこに居合わせて人が撮った写真に自分が写っていて、後からそれに気づいて、「やべえ」って気がつくんです。

インターネットが悪いという見せ方はしたくありませんでした。第三者、傍観者が使うSNSで広まることを描いたのは、その場に立ち会っていない社会があるのを示したかったからです。泰良というキャラクターが喧嘩をすると、裕也は「すげえ」と、池松壮亮君が演ずる三浦は「また来ている」とあきれます。泰良は自分からは何も語りませんが、そういう風に第三者が語っていくんです。

この映画ではまた、暴力について追い求めているということに加えて、加害者家族についても触れておきたかったんです。ある事件があると、被害者がいる一方、収束された後も、加害者側の家族は第三者に攻められ、その罪と向き合うということがあります。そこにも焦点を当てたかったんです。

▼スライドショーが開きます▼

――作品の舞台は愛媛・松山です。松山じゃないと成立しなかったんでしょうか。

松山以外でも提案がありましたが、取材のため長く滞在して、地元の人たちから見聞きしたものが映画の重要な要素を形作っているので、そこを越えたロケーションはありませんでした。

――作品を見て、暴力についてけっこう過激で「ここまでやるか」「まだ殴るか」という印象も持ちました。どういう思いで作ったのですか。

作品のために取材していた男性は、初めは喧嘩について楽しげに武勇伝のように話します。それが暴力だと、倫理的には良くないことだと頭ではわかるんですが、話を聞きながら高揚する自分にも気づくんです。泰良というキャラクターを作りながら、暴力ってなんなのかと考えました。暴力を描くことになんの意味があるのかと。

暴力は、時と場合によって印象が変わることがあります。世の中から暴力がなくならない以上、きれいごとで説明できないものもあると思うんです。人間は生きているうえで暴力にも直面することがあると示すことで、その事実を考えてほしいと思いました。社会には暴力というのが確実にあって、映画を通してそれを見た人がどう向き合うのかと。そういうものを描きたかったんです。伝えるべきことは映画の中に込められたと思っています。

………

5月21日(土)テアトル新宿ほか全国公開

配給:東京テアトル

(c)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

監督・脚本:真利子哲也 脚本:喜安浩平 音楽:向井秀徳

柳楽優弥 菅田将暉 小松菜奈 村上虹郎 池松壮亮 北村匠海 三浦誠己 でんでん

製作幹事:DLE 制作・配給・宣伝:東京テアトル 制作協力:キリシマ1945

2016年/日本/108分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル/R15指定

(c)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会  

公式サイト:distraction-babies.com

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