名古屋市の伏見駅地下街で、400万部を超えるベストセラー「バカの壁」で作った「バカの壁の壁」が建築されている。この壁を作っているのは、人文系やカルチャー系の個性派古書店として知られるビブリオマニア。2013年から「バカの壁」を集め始め、現在は600冊を突破している。なぜ、「バカの壁の壁」は増築を続けるのか? 店主の鈴村純さんに聞いた。
きっかけは、2013年に古書店が集まって行うイベントの打ち合わせ。「いらない本を積み上げてみよう」というアイデアが出され、どこのお店でも持っているような本、例えば、「ゲームの達人」などのベストセラー作家、シドニィ・シェルダンの本を集めようかという話が出た。そこで鈴村さんは、「『バカの壁』でやったら?」と発案したという。
「バカの壁」は2003年に新潮新書から発刊された、解剖学者・養老孟司さんの代表作。2014年には437万部109刷となり、その後の「死の壁」「超バカの壁」「『自分』の壁」と合わせ、「壁シリーズ」の累計は600万部を超えている。「バカの壁」は、国民の30人に1人は新刊で購入している計算だ。
その時には実現しなかったものの、その後、鈴村さんは「バカの壁」を古書の山の中から探しだしたり、同業者から譲ってもらったりしながら収集。ビブリオマニアのショーウィンドウに30冊ほど展示したのが、「バカの壁の壁」のスタートだった。
「最初はそんなきっかけでしたが、集めていくうちに、段々と意味があるような気がしてきました」と鈴村さん。「『バカの壁』はどこでも手に入る大ベストセラー。古書市場にも大量に出回っていて、価値のないものとされています。それだけ売れたということなのですが、読者にどれだけ影響を与えたのか、どこまで価値があったのか、と疑問に思い始めました」
「バカの壁」は400万部以上、発行されているが、古書店で流通しているものや、図書館で貸し出されているものを含めれば、400万人以上に読まれているとも計算できる。「何かしらの影響を与えたのなら、それを可視化できるのではないか。ひとつの問題提起をしてみたいと思いました」
ビブリオマニアに持ち込まれた「バカの壁」は、100円の割引券として店内で使用できる。この試みはTwitterなどで広まり、徐々に「バカの壁の壁」は増えいった。「建設が進むにつれ、本の内容ともシンクロしていきました」と鈴村さんはいう。
また、「バカの壁の壁」を作るもうひとつの理由は、「アンディ・ウォーホルの影響もあるかな」と鈴村さんは話す。アメリカのポップアーティストであるウォーホルは、キャンベル・スープの缶など商品を反復し、増幅させる作風で知られている。「一種類の本が、あれだけ1カ所に積み上げられることはありません。一度、流通した本を有機的に再度、集めるのも面白いのではないかと」
2月26日現在、618冊に及ぶ「バカの壁」で作られた「バカの壁の壁」は圧巻だ。来店する人の楽しみになっており、県外から見学に来る人も絶えない。今後もショーウィンドウを補強して、「バカの壁の壁」を集められるだけ集め、“増築”していくという。
出版社や取次の倒産や書店の閉店が相次いでいる近年。今も売れ続けている「バカの壁」によって作られた「バカの壁の壁」の存在は、私たちに「本を読むこととはどういうことなのか?」と訴えかけているようだ。もしも、名古屋市の伏見地下街へ立ち寄ることがあったら、この「バカの壁の壁」の前に立ってみてはいかがだろうか? 何かの壁を突破できるかもしれない。
“増築中”の「バカの壁の壁」(写真提供:ビブリオマニア)
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