防衛装備庁は1月28日、将来の国産ステルス戦闘機の試作機となっている「先進技術実証機“ATD−X”」(通称・心神=しんしん)を三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所の小牧南工場で報道陣に公開した。また、この実証機の型式を「X-2」と定めたことを明らかにした。型式とは民間航空機でいえば、B-787などの名称にあたるもの。
今後、心神の地上滑走試験を行ったうえで、早ければ2月中旬にも愛知県営名古屋空港(同県豊山町)から空自岐阜基地(岐阜県各務原市)まで初飛行を実施する。3月末までに実証機の納入を受ける防衛装備庁は2016年度に最大200時間の飛行試験を行い、レーダーに探知されにくくするステルス性や機動性などのデータをさらに集積する方針。
この日、公開された実証機は白と赤をベースにカラーリングされ、全長は約14メートル、全幅約9メートルで、「世界最強のステルス機」とされるアメリカのF22や日本の戦闘機F2よりは小さく、T4中等練習機よりは大きい。最大速度は明らかになっていない。この日は、機体各部の秘匿性が重視され、正面からの撮影は認められなかった。
■全体の9割国産製品、「X-2」の特徴
X-2の特徴は、優れたステルス性と高機動性にある。敵レーダーに探知されずに敵を捕捉できる高いステルス性能、先進アビオニクス(航空機搭載の電子機器)、耐熱材料など、日本企業の技術を活用した高運動性を武器とする。220社の部品メーカーから供給を受け、全体の9割が国産製品になっているという。防衛省は、この実証機の開発を通じ、独自の先端技術の民間企業へのスピンオフを期待。日本の防衛産業の基盤を維持する狙いもある。
機体は三菱重工業、エンジンはIHI、主翼と尾翼は富士重工業、操縦席は川崎重工業が製造した。機体の約3割に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が使われ、軽量化されている。
戦闘機開発で常に重要なカギとなるエンジンは双発。IHIが主契約企業となってアフターバーナーを備えたツイン・ターボファン方式のジェットエンジンXF5-1を開発した。最大出力は各約5トンで、2つ合わせて10トン級。各エンジンの出力方向を機動的に偏向するためのエンジン推力偏向パドルをエンジンの後方に3枚ずつ取り付け、エンジンの推力を直接偏向できるようにした。
■防衛省、「先進技術実証機」に394億円の開発費
2009年度からは8カ年計画で「先進技術実証機」の予算項目の下、X-2の機体製造や飛行試験など試作費用だけで394億円の開発費を投じて来た。
防衛省は実証機の技術を生かし、航空自衛隊に現在配備しているF2戦闘機の後継機F3の開発を進め、2030年代の部隊配備を目指している。
X-2は、F2戦闘機の後継機となる将来の「第6世代戦闘機」であるF3の生産に向けたプロトタイプ(研究試作機)である。つまり、防衛省は、X-2を「第5世代戦闘機」と呼ばれる現在のステルス機の上を行く、「第6世代戦闘機」のカウンターステルス機の礎にすることを目指している。
航空自衛隊は2015年3月末現在で、ベトナム戦争で名を馳せた第3世代のF4を55機、主力戦闘機である第4世代のF15を201機、そして、アメリカ企業ゼネラル・ダイナミクス(後にロッキード・マーチンが軍用機部門を買収)のF16Cをベースに日米で共同開発された第4世代のF2を92機それぞれ有している。
防衛省では、将来配備するF3戦闘機を2018年度までに純国産にするか、国際共同開発・生産にするか、あるいは輸入にするのかを判断する方針を示した。同省では、F3を国産にし、新たに100機のライフサイクルコストなどの費用として国家予算から4兆円規模の支出が行われた場合、約24万人の雇用創出効果と約8兆3000億円の経済効果があると試算している。
X-2の初飛行は2014年度中に行われる見通しだった。しかし、エンジンが停止した時に再始動させるための改修作業をしたため、遅れが生じてきた。
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