経営再建中のシャープの支援をめぐって、日本側と台湾側で綱引きになっている。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が支援額を5000億円規模から6000億円規模に引き上げると、政府系ファンド「産業革新機構」の支援案を当初想定していた2000億円規模から3000億円規模に増額して対抗。最終的な判断はシャープのメインバンクである、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行の判断に委ねられた。日本を代表する総合家電メーカーは、どこに向かうのか。
■政府系ファンド「産業革新機構」が鴻海の買収提案に対抗
シャープは、「シャープペンシル」などの発明で知られる早川徳次が1935年に大阪市内で創業。1990年代以降は「目の付けどころがシャープでしょ」をキャッチコピーに掲げて、PDA(携帯情報端末)の「ザウルス」など、数々のアイデア商品を開発してきた。
液晶パネルの技術に優れ、2004年に稼働した三重県の亀山工場では液晶テレビを一貫生産。「世界の亀山モデル」と称して売り出して、業績を拡大した。しかし、2008年のリーマン・ショック以降、液晶テレビなどの価格下落や太陽電池などの販売で苦戦し、業績が急速に悪化した。有利子負債は、2015年9月末時点で約7500億円にもなる。
台北にある鴻海精密工業のビル
経営難のシャープに対して買収意欲を示していたのが、台湾の鴻海精密工業だった。同社はiPhoneなどApple製品の部品を手がけており、フォックスコンのブランド名で知られている。1月22日の朝日新聞デジタルによると、すでにシャープと液晶で提携している鴻海は、もともと5000億円規模でシャープ全体を買収する案を示していた。
だが、日本政府は、シャープが持つ先進技術が国外流出することなどを憂慮。政府系ファンド「産業革新機構」がシャープ支援に乗り出すことになった。同機構は2009年、日本の次世代産業創出を目的に官民で設立され、総額約2兆円の投資能力がある。これまでに中小型液晶パネルのジャパンディスプレイや半導体メーカー、 ルネサスエレクトロニクスに出資してきた。
同機構は、2000億円規模の出資や金融機関の追加支援で液晶事業を本体から分離させる案で、交渉を有利に進めていた。しかし、鴻海はこの状況を打開しようと53億ドル(提案時の為替換算で約6300億円)に積み増した。これに対抗するかたちで、22日までに同機構は3000億円規模の支援案を固めたと毎日新聞が報じている。この支援案は、同機構が第三者割当増資を引き受けるなどしてシャープ株の過半を取得して経営の主導権を握り、役員体制も刷新するというものだ。
国際競争力のある液晶事業は分社化し、約36%を出資する中小型液晶大手、ジャパンディスプレイとの経営統合を目指す。家電事業については、不正会計問題などで経営不振になっている東芝との統合を検討するなど、同機構が電機業界の事業再編を主導し、産業競争力の強化につなげる考えだ。メインバンク2行はこの提案を、有力案として検討を進めているという。
Bloomberg日本版は関係者の話として、機構案の方がシャープの技術の国外流出を防ぎ、将来的な国内メーカーとの提携がしやすいという利点があると報じている。
■機構案が通らない可能性も
とはいえ、機構案が合意に至らない可能性もある。時価総額が2000億円程度に落ち込むシャープにとって、鴻海から提示された6000億円規模の買収案は破格だ。朝日新聞デジタルによると、メインバンク内部からは「経済合理性からすれば、明らかに鴻海案が魅力的」との声が漏れている。金額面で劣る機構案を受け入れた場合、「株主に説明できない。有利な提案を無視したとして株主に訴訟を起こされる恐れすらある」という幹部すらいるという。
機構は1月末に内部委員会を開き、銀行への提案をまとめる見通しだ。交渉は当面、シャープの2015年4~12月期決算が発表される2月4日までがヤマ場とみられている。