Associated Press
世界で最も人気のあるフルーツの1つが、またしてもなくなるかもしれない。
1960年以前、皆さんのおじいさん・おばあさん、そのまたおじいさん・おばあさんは、今より良質なバナナを食べていた。「グロス・ミシェル」というバナナは、今日、世界で売られているバナナより、大きくておいしく、弾力もあった。
「もっと、しっかりした味でした」と、 『バナナの世界史 世界を変えた果物の数奇な運命』の筆者ダン・コッペルさんは、この黄色のフルーツについて述べた。「もっとクリーミーだったんです」
グロス・ミシェル
私たちは、このクリーミーでしっかりした味わいのバナナ、一時は世界中に輸出されていたグロス・ミシェルを、もはや楽しむことは叶わない。なぜなら、グロス・ミシェル種は、繁殖力が強くてかかってしまえば不治になるカビにむしばまれ、1960年代にはほとんどがなくなってしまったからだ。世界中のほとんどのグロス・ミシェル農園が、このカビによって潰れてしまった。
これがつまり、「キャベンディッシュ」(今私たちが食べているバナナ)が注目されるようになった理由でもある。日本バナナ輸入組合の公式サイトによると、キャベンディッシュは日本で最もポピュラーなバナナだ。グロス・ミシェルより味が悪く耐寒性も低かったが、「パナマ病」として知られるこの凶悪な菌の侵入を防ぐことができると思われていた。
そう、かつては「防ぐことができた」のだ。
現在、毒性の強い新たなパナマ病が、キャベンディッシュに大損害を与えている。専門家はキャベンディッシュがグロス・ミシェルと同じ運命をたどるのではないかと恐れている。
11月19日に細菌を含めた病原体の専門誌『PLOS Pathogens』上で発表された調査によると、「熱帯種4」として知られる新種の病気が世界中のキャベンディッシュ農園に野火のように広がっている。困ったことに、その病気の進行や拡散を止める方法をまだ誰も知らない。
実は、熱帯種4は既に数十年前からキャベンディッシュをむしばんできたのだが、その被害は主に東アジアと東南アジアに留まっていた。しかし、病気を封じ込めようとする努力もむなしく、熱帯種4は2013年以降、南アジア、中東、アフリカそしてオーストラリアの一部を含む複数の大陸に広がっていった、と調査は報告している。
同調査記事の共著者であるオランダ・ヴァーヘニンゲン大学のバナナ専門家ゲルト・ケマ氏はプレスリリースで、「世界中で行われている隔離措置やこの病気に関する既知の情報は、どうやら期待された効果を生み出していないことが研究で分かりました」と述べた。
目下知られている唯一のパナマ病への対抗方法は、隔離措置だ。破壊力のあるカビは木の根まで達し、農園全体に蔓延する。すると農園は何年にも渡って汚染されることとなる。
2004年、雑草を刈っているコスタリカのバナナ農園主。(ASSOCIATED PRESS)
キャベンディッシュは単一栽培であり、全てが互いに同じ遺伝子を持ち、遺伝的多様性がない。Webメディア「Quartz」で、編集者グウィン・ギルフォードが説明したように、「有性生殖ができないため進化させることもできず、病気に対して無防備なままとなります」。グロス・ミシェルもまた同じであり、このことが種の事実上の絶滅を招いた。
現在のところ、世界で輸出されているバナナの3/5以上を栽培するラテンアメリカでは、まだ熱帯種4は見られていない。しかし、カビがここ数年で大陸を渡り、そして明らかに十分病気を隔離できていないことから考えると、真の解決策が見つけられない限り、熱帯種4がやがてはラテンアメリカの農園を破壊することは避けられないように思われる。
パナマのバナナ農園にて、バナナを伐採する農夫 (2003年、ASSOCIATED PRESS)
もしバナナ産業がつぶれることになれば、予期できないような壊滅的問題が起こるだろう。バナナ産業が数十億・数百億ドルを生み出す産業というだけではない。キャベンディッシュバナナは世界中の数億人の人々にとって重要な栄養素でもあるのだ。
例えばアフリカでは、「バナナは食料安全保障において重要であり、1億人の所得を創出します」と、国際熱帯農業研究所の上級植物病理学者であるジョージ・マフクはCNNで話した。
前述のQuartzの記事が指摘するように、「ほとんどのバナナは、バナナを主要商品作物とする多くの貧しい国の小規模農家で栽培されています。世界規模で見ると、熱帯種4は貧困にあえぐ農業国が食用として期待するバナナの4/5以上を、むしばむ可能性があります」。
バナナの合計輸出量の50%以上は4カ国でまかなわれている
グロス・ミシェルが絶滅したときには、代替品種としてキャベンディッシュが登場したが、この危機にあってさらなる代替品種を探すのはそう簡単ではない。
世界にはまだ何百種もの野生のバナナが存在すると考えられているが、i09.comが指摘しているように、「こうした様々な品種の多くは、見た目こそほとんど変わらないものの(一般によく知られているバナナとは)大きく異なる種です。栽培方法が難しかったり、輸送がほとんど不可能であったり、食べる前に調理が必要なものもあります。さらに、こうした新種は食用としてどれほど安全なのか、という疑問が出てきます」。
そのため現在、科学者たちは、私たちが知っているバナナと似ているがパナマ病を防ぐ耐性を持つ、キャベンディッシュの遺伝子組換えバナナを作ろうとしている。
しかし他の遺伝子組み換え食品のように、この計画にはいくつかの懸念がある。
ダン・コッペルは2008年のニューヨークタイムズ紙で、除々に広まり迫り来るパナマ病に人間は敗北を認め、そして愛しいバナナに別れを告げる準備をしなければならないかもしれない、と述べた。
「もしかすると、バナナの現状をありのままに受け入れる必要があるのかもしれません。この熱帯の果物は、遠くないうちに、私たちの手の届かないところに行ってしまうのかもしれません」。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。
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