1942年3月23日、カリフォルニア州マンザナーの日系人収容所で、到着後初めての食事の列に並ぶ収容者
パリ同時多発テロを受け、アメリカ・バージニア州のある市長が、シリア難民を、第2次世界大戦中のような「アメリカへの脅威」だとして、当時の日系人収容所のような施設に収容することを提案した。
バージニア州中部にあるロアノーク市のデービッド・バウワーズ市長(民主党)は11月18日、声明を発表し、市の行政機関に対し「深刻な敵対と残虐行為が終わるまで、または少なくともアメリカ当局の管理下にあるとみなされ、通常の状態に回復するまで」、シリア難民への支援を見合わせると述べた。
さらに「私は、フランクリン・D・ルーズベルト大統領が真珠湾攻撃以後、日本人を隔離せざるを得ないと考えたことを思い出す。そして今、『イスラム国』(IS)によるアメリカへの脅威は、当時の我々の敵と同様に現実的で深刻だ」と話した。
第2次世界大戦注、アメリカ政府は約12万人の日系人を、鉄条網で囲まれた収容所に収容した。その根拠となっている法律は、現在はアメリカで最も恥ずべき法律と考えられている。収容所で死んだ人もおり、生きて収容所を出た人も、トラウマによって医学的、心理的な後遺症に、長期にわたって苦しむことになった。
当時の日系人に何も罪はなかったが、多くのアメリカ人は、日系人が密かに枢軸国(ドイツ、イタリア、日本)に忠誠を誓っているのではないかと恐れた。
1942年の漫画では、日系アメリカ人が日本に忠誠を誓い、アメリカを攻撃するのではないかとの恐怖が描かれた。漫画では「名誉の第5列(スパイなど身内の敵対勢力)」と看板を掲げた小屋に、日系人とみられる長蛇の列ができ、火薬が配られている。小屋の上で望遠鏡をのぞく人物は「本国からの合図を待っている…」という。
シリア難民の隔離を唱えたのは、バウワーズ氏が初めてではない。
ロードアイランド州選出のエレーヌ・モーガン上院議員は17日、メールで、アメリカはシリア難民を受け入れるべきでないとして「イスラム教徒の宗教と哲学は、異教徒なら誰でも殺人、強姦、斬首することだ」と主張し、もしアメリカが入国を許すなら「難民収容所を造り、彼らを私たちの住むところから隔離しなければ」と書いた。
テネシー州議会共和党のグレン・カサダ院内総務は、州内のシリア難民をまとめて連邦移民センターに移送すべきだと主張した。
日系人収容所に収容された経験のあるマイク・ホンダ下院議員は、18日、こうした考えを強く非難した。
「私は収容所で育ち、我が国の負の歴史が、その後長きにわたって反動となり、共鳴していったかを直接知っている。選挙で選ばれた公人が、シリア系アメリカ人を隔離収容しろなどと言っているニュースに憤慨している。今こそ立ち上がり、浅はかで復古的な提言をするロアノーク市長の声明や、テネシー州の共和党院内総務や、ロードアイランド州選出の上院議員の発言を非難し、指導者の間違いに『ノー』と言わなければいけない」
マーク・タカノ下院議員の両親は収容所にいたことがあるが、シリア難民を巡る議論への困惑をTwitterで表明した。
「はっきり言わなきゃいけないのが信じられないけど、日系アメリカ人(私の両親を含む)の隔離は目指すべき政策じゃない」
1988年、アメリカ政府は日系アメリカ人に謝罪し、生存者への補償について検討を始めた。
カリフォルニア州テュールレイクの日系人収容所で1943年5月、補助教員に英語の童謡を教わる幼稚園児
1942年、ロサンゼルスで、日系アメリカ人が家を追われ収容所に向かう風景。歩道は生活必需品がうずたかく積まれ、収容所へ日系人を移送するバスと車が並んでいた。
バウワーズ氏は、民主党から大統領選挙への立候補を表明したヒラリー・クリントン氏を支援するバージニア州指導者会議のメンバーだったが、Buzzfeedによると18日、役職を辞任したか解任された。
「日系人の隔離はアメリカの負の歴史であり、過去のおぞましい出来事に言及するのは信じがたい」と、クリントン氏陣営の広報担当者は話した。
バウワーズ氏は20日、発言について「すべての責任は私にある」と謝罪。発言は「個人的な政治見解を述べたもの」で「世界中にインターネットで広がるとは思っていなかった」と釈明した。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。
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