NHK「クロ現」過剰演出は「重大な倫理違反」 BPO
昨年5月にNHK「クローズアップ現代」で放送された「出家詐欺」報道の過剰演出問題で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は6日、意見書を発表した。番組について「重大な放送倫理違反があった」と指摘する一方、この問題で高市早苗総務相がNHKを厳重注意したことや、自民党がNHK幹部を呼んで説明をさせたことを厳しく批判した。同委員会が国や与党に異議を表明するのは初めて。
同委員会が注目したのは、出家詐欺のブローカーの活動拠点を多重債務者が訪れ、出家について相談するという場面。初対面のようなやりとりをするが実は2人は旧知で、場所も多重債務者が管理するビルの空き部屋だった。依頼した上での撮影なのに、離れたビルから、室内に仕込んだマイクを使い「隠し撮り」のように行った。裏付けもしない安易な取材態度やスタッフ間の対話の欠如などが背景にあったとした。
NHKの検証については「取材・制作過程についての放送倫理の観点からの検証が不十分であるとの印象をぬぐえなかった」と批判。「やらせ」を認定しなかったNHKの放送ガイドラインについて、「視聴者の一般的な感覚とは距離がある」と指摘した。
NHKは「裏付け取材を行わず、報道番組で許容される範囲を逸脱した表現で重大な放送倫理違反があったという意見を真摯(しんし)に受け止める。事実に基づき正確に報道するという原点を再確認し、現在進めている再発防止策を着実に実行して、信頼される番組作りにあたっていく」とのコメントを発表した。
また、意見書では、高市総務相の厳重注意について「報道は事実をまげない」など放送法の規定を根拠にしていると指摘。その上で「これらの条項は、放送事業者が自らを律するための『倫理規範』。政府が放送法の規定に依拠して個別番組の内容に介入することは許されない」と断じた。
さらに、NHKが自主的に再発防止策を検討していたにもかかわらず総務相が厳重注意したことを、「放送法が保障する『自律』を侵害する行為」とした。
自民党情報通信戦略調査会がNHKの幹部を呼び番組について説明させたことも、「放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのものであるから、厳しく非難されるべきである」と批判した。
高市総務相は6日夜、報道陣の取材に「行政指導は法的拘束力があるわけでもなく、あくまでも、要請という形で受けた側の自主性にゆだねるもの。行政指導について、いきすぎたとも拙速だとも思っていない」と反論した。
BPOでは放送人権委員会でも、同番組の審理を続けている。
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〈「クローズアップ現代」の過剰演出問題〉 NHKが2014年5月14日の同番組で、多重債務者が出家して戸籍名を変え、債務記録の照会を困難にする「出家詐欺」を特集。週刊文春が今年3月、「やらせがあった」と報道した。NHKの調査委員会は4月、報告書で「やらせ」はなかったとする一方、「過剰な演出」や「視聴者に誤解を与える編集」があったと公表した。番組では詐欺をあっせんするブローカーとされる男性と多重債務者とされる男性が相談する部屋を隠し撮りしたように放送したが、実際は記者も部屋に同席していた。NHKは記者ら15人を処分。5月からBPO放送倫理検証委員会が審議していた。
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■検証委が指摘した主な問題点
・重大な放送倫理違反があった
・事前取材も裏付け取材もなしに、情報提供者の証言に全面的に依存
・報道番組で許容される演出の範囲を著しく逸脱
・「隠し撮り」風の取材は事実を歪曲(わいきょく)
・NHK放送ガイドラインの「やらせ」の概念は視聴者の一般的な感覚とは距離がある
・政府が放送法の規定に依拠して個別番組の内容に介入することは許されない
・放送の自由と自律に対する政権党による圧力は、厳しく非難されるべきだ
(朝日新聞デジタル 2015年11月7日01時07分)