殺処分ゼロを目指す青森の女子高生たち「犬や猫の骨をゴミにするなんて、おかしい!」

なぜこんなことになっているんだろう。なぜこんな仕組みでものごとが回っているんだろう。

日本で年間に殺処分されている犬や猫は約13万頭。おおよそ4分に1頭が殺されていることになる。そのうち約半分は、離乳前の子犬や子猫だ。殺処分された動物たちの骨は、日本ではゴミとして処分されることが多いという。

この現実を見過ごせなかった青森県の女子高生たちが、ペット殺処分ゼロを目指して「いのちの花プロジェクト」に取り組んでいる。

「いのちの花プロジェクト」を取材して『世界でいちばんかなしい花』という本にまとめたライターの瀧晴巳(たき・はるみ)さんに、彼女たちがこのプロジェクトに託した思いを聞いた。

■殺されてしまった命を見過ごせなかった女子高生たち

――「いのちの花プロジェクト」はどんな活動ですか?

青森県立三本木農業高等学校では毎年、動物科学科の2年生の校外授業として動物愛護センターに見学に行くのですが、殺処分された犬や猫たちの骨が一般廃棄物、つまりゴミとして捨てられていることを知った生徒さんたちが、骨をもらいうけ、自分たちで砕いて肥料にし、花を咲かせる活動を始めました。当時、動物科学科の2年生だった5人の女子高生たちが中心となって、2012年にスタートさせたこのプロジェクトは、彼女たちが卒業した後も代々受け継がれ、現在も続いています。

「いのちの花プロジェクト」で咲いた花

2013年には「農業高校の甲子園」と言われる農業クラブ全国大会の最優秀賞を、2014年には日本動物大賞のグランプリを受賞。ニュース番組で特集が組まれたり、イギリスの愛護団体からも援助を受けるなど、国内外で注目される活動になっています。映画化も決まりました。

「いのちの花プロジェクト研究日誌」より

——なぜ瀧さんが、このプロジェクトを取材することに?

編集者から「彼女たちの活動を本にしたい」というお話をいただいたんですけど、最初はお断りしようと思ったんです。情けない話ですが、殺処分施設を取材するのが怖くて。我が家でもハスキー犬を飼っているので、かわいそうで、とても耐えられない、無理だと思って。

ただ、殺処分ゼロを目指して、これまでもさまざまな取り組みがされてきたと思うのですが、それはたとえば里親探しだったり、まだ生きている命をどうやって救うのかということだったと思うんですね。でも彼女たちは、ゴミとして捨てられてしまう骨に関心を持って、もう一度「死」から「命とはなにか」を見つめなおそうとした。それはどうしてなのか、直に聞いてみたくなったんです。また、彼女たちを支えた先生たちや動物愛護センターの職員さんたちは、その時、どう動いたのか。プロジェクトは今も続いていますから、在校生たちの活動も追いかけることに。それで春夏秋冬、のべ1年かけて取材して、じっくり話をうかがいました。

■「大人、ふざけんな!」「私たちにはゆとりって言うくせに、何やってるんだ!」

――青森へ取材に。

初めて三本木農業高等学校を訪れたのは2014年の3月でした。「2年生たちの校外活動に同行しませんか」と言っていただいて、恐れていた殺処分施設にいきなり行くことになったんです。最初に訪れた動物愛護センターは明るくてきれいでしたが、殺処分施設は、まわりに民家がない人里離れた場所にひっそりとありました。

職員さんの案内で施設の中に入ると、地面がセメント塗りの仕切りのある犬房があって、そこに犬がいました。手順はほぼ機械化されていて、追い込み機で追い込まれた犬たちは炭酸ガスで殺処分される。ボタンひとつ押せば、すべて完了。それを確認するためのカメラもある。一番奥に、大きなパンを焼くオーブンみたいなのがあって、それが焼却炉でした。この時、収容されていた3匹も、あと何日かしたら殺処分されてしまうかもしれない。

バスの中では、はしゃいでいた生徒さんたちもさすがにシンとなって「見るのがつらかったら、外に出てもいいんですよ」、職員さんは何度もそう声をかけていました。職員さんの部屋に、いろんな種類の猫缶や犬缶が置いてあったのが気になったので、質問したら、「つらい仕事のなかでも、最期くらいはおいしいものを食べさせてあげたくて」とおっしゃって。これは取材なのだから絶対に泣くまいと決めていたのに、たまらず、涙が出てしまった。

――切ないですね……。

しかも殺処分のボタンを押さなければならないのは獣医資格を持っている職員さんなんですよ。命を救いたくて獣医になったのに、なぜそんな仕事をしなければならないのか。4年前にいのちの花プロジェクトを立ち上げた一期生の彼女たちも、見学前は、殺処分施設で働いている人なんて憎むべき敵くらいに思っていたのに、案内してくれた女性の職員さんが「……こんな施設、ほんとうは要らないんです」と、涙声で言葉につまっているのを見て、ものすごく心を動かされたんです。自分とは立場が違う、理解できない敵だと思っていた相手が、むしろ最前線で苦しんでいた。そして施設見学の最後に、殺処分されたペットたちの骨が、ゴミとして捨てられていることを目の当たりにしたというわけです。

なぜこんなことになっているんだろう。

なぜこんな仕組みでものごとが回っているんだろう。

そう彼女たちが強く思ったことが、「いのちの花プロジェクト」の起点になったんです。「大人、ふざけんな!」「私たちにはゆとり、ゆとりって言うくせに、自分たちは何やってるんだ!」と。彼女たちにまっすぐな言葉で怒りをぶつけられると、自分も大人のひとりとしてやりきれない気持ちになりました。

ゴミとして捨てられる動物たちの骨

■「いのちのサイクル」を体験で知っている生徒たち

――ペットたちの骨がゴミとして捨てられている、というのはショックだったでしょうね。

彼女たちは農業高校の生徒さんだから、ふだんから身を持って、命とはどういうものかを学んできたんですよね。それも教科書や机の上の知識ではなくて、体験として。

授業で鶏や豚をさばいたりもしますし、畑や田んぼの実習もある。作物を植えて育てて収穫して食べる「いのちのサイクル」がめぐっていることを実感しています。人間は命をいただいて生きているということを、学ぶ機会がとても多い。

だからこそ、殺されてゴミとして捨てられる骨を見たときに、無視できなかった。「ゴミとして捨てられてしまったら、その命は土に還らない」という発想が、ごく自然に彼女たちに湧いてきたんでしょうね。何かしたいね、何ができるんだろうね、と彼女たちは真剣に考えた。

――「いのちの花プロジェクト」のスタートですね。

骨を砕いて、それを花の肥料にしよう。アイデアを思いついた時には、それがこんなにつらい作業になるとは、彼女たち自身、思ってもいなかった。骨と一緒に首輪の金具や名札と言った、かつてその犬や猫たちが飼われていたしるしも出てくる。そうすると「この子はどんな犬だったんだろう」とか「どうしてこんなことになったんだろう」とか、骨を砕きながらずーっと想像するわけです。つらい作業です。でもそのつらい時間こそが、命とは何かを見つめなおす大切な時間になったのだと思います。

骨を手作業で砕く、三本木農業高等学校の女子高生たち

骨と一緒に出てくる首輪の金具や名札

いのちを「死」の側から見つめるのは、つらく、苦しい自問自答かもしれません。けれどそれが、おそらく人生を豊かにしていくのだと、彼女たちから教わった気がしています。

瀧晴巳(たき・はるみ)

フリーライター。インタビュー・書評を中心に活躍。語りおろしの取材・構成を手がけた本に、吉本隆明著『15歳の寺子屋 ひとり』、西原理恵子著『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(西原理恵子)、小川洋子・平松洋子対話集『洋子さんの本棚』、ヤマザキマリ著『国境のない生き方 私をつくった本と旅』、上橋菜穂子との共著に『物語ること、生きること』など。

最新刊は、『世界でいちばんかなしい花 それは青森の女子高生たちがペット殺処分ゼロを目指して咲かせた花』(ギャンビット)。女子高生、教師、獣医師など、魅力的な「いのちの花プロジェクト」関係者たちの言葉から「いのちの物語」が浮かび上がるノンフィクション。

hana

(聞き手 波多野公美)

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