【TSUTAYA図書館】図書館流通センターが一転 CCCとの共同運営を継続する「理由」

急展開の舞台裏では、何があったのだろうか?
猪谷千香

「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者となり、10月にリニューアルオープンした神奈川県の海老名市立中央図書館。そのパートナーで共同事業体の図書館流通センター(TRC)が、図書館に対する理念の相違からCCCとの協力関係を解消するとした問題が一転、今後も両社が指定管理者を継続していくことになった。

内野優市長が10月30日、定例記者会見で明らかにしたもので、両社は同日付でこれまでの海老名市立中央図書館に対する報道について、市や市民に対して心配をかけたことを謝罪。契約期間が満了となる2019年まで業務を行うことを約束した。急展開の舞台裏では、何があったのだろうか?

■「一連の中央図書館に対する報道」で両社が謝罪

ハフポスト日本版は市長の定例会見への出席が認められなかったため、会見後に海老名市教育委員会の金指(かなさし)太一郎教育部次長にその内容を取材した。金指次長によると、会見では市長から今回の問題の経緯が説明された。

まず、市では両社の関係解消が報道された10月27日、CCCの武田宣副社長とTRCの石井昭社長からそれぞれ事実確認を行った。その中で、今後は両社が協力を行わないという話はあったものの、海老名市立図書館について、共同事業体を解消するとは言っていないとの説明を受けたという。

また、10月28日には内野市長、武田副社長、石井社長による3者会談を実施。あらためて事実確認をするとともに、両社から謝罪を受け、今後の指定管理者継続を約束した。さらに両社からは、30日付で内野市長あてに次のような謝罪文が出された。

海老名市立図書館の指定管理者として、これまでの一連の中央図書館に対する報道に関し、海老名市及び海老名市民に多大なるご心配とご迷惑をおかけしたことに対し、深く謝罪いたします。

 

私どもは海老名市民のさらなる幸せ向上のため、日々、誠心誠意指定管理者業務にあたっており、今後もより良い図書館運営に向けた改善を進めながら、共同事業体として、2社共に基本協定満了日の平成31年3月31日まで責任を持って協定内容を履行することをお約束致します。

市長は会見で、「利用者の反応は全体として好評であるが、改善要望なども寄せられている。これは従前の図書館とは異なる、新しい取り組みに対する反応として考えている。これらをふまえて更に良いものに進化させたい」「選書問題を含めて両社から謝罪文が提出された。両社の共同事業体を再度認識した上で、さらに今後も両社の強みを図書館運営に活かしてほしい」という趣旨の発言をしたという。

■CCC独自の「ライフスタイル分類」は改善しながら継続

実際にオープンしてから、市民の反響はどうか。金指教育部次長によると、現在の海老名市立中央図書館の利用状況は、1日あたりの来館者数は前年同期に比べ255%、貸出冊数は197%と増加しているという報告がされた。市が10月17日、19日の2日にわたり実施した利用者のアンケート調査でも、図書館の雰囲気について、「良い」と回答した人は82%となり、カフェ出店についても「良い」(63%)と「普通」(28%)を合計すると、90%以上の人に受け入れられていたという。

一方で、内野市長が会見で述べた通り、市民から改善の要望も寄せられている。たとえば、海老名市立中央図書館では、「ライフスタイル分類」と呼ばれるCCC独自の分類やそれに伴う配架の混乱が指摘が多くされていた。「旧約聖書出エジプト記」が「旅行/海外旅行/アフリカ/エジプト」という分類になっているなど不備があった問題だ(現在は「人文/宗教/キリスト教/聖書」に修正されている)。

金指教育部次長は、市もこの独自分類について「課題が多いと認識している」と話す。

「分類や配架も当初はかなり間違いがあったようなので、順次、修正をかけています。アンケート結果では分類について、『わかりやすい』と回答した人は29%ですが、『わかりにくい』は33%でした。また、『探しやすくなった』も36.2%ですが、『探しにくくなった』が22.8%とそれなりの数の方がいらっしゃるので、課題と認識しています」

海老名市立中央図書館は、地下1階から4階までの5層構造だが、地下1階の「小説」「文芸」では作家を五十音順に並べ、ひらがなの仕切り板を置いて「限りなく日本十進分類法(NDC分類、従来の図書館で多用されている)に近い」状態。「歴史・郷土」「語学」「医療」「産業」「法律」「教育」「社会」などの分類で構成される3階も「基本的にNDC分類」になっているという。

「料理」「旅行」「住まいと暮らし」「美容・健康」「文学・文芸書」など、問題が多く指摘されているライフスタイル分類で配架されている2階については、「今、より市民の方にとってわかりやすい分類をしていくことを市からもお話しています。真摯に受け止めながら、改善すべきものは改善していきたい」と金指教育部次長。基本的には現在のライフスタイル分類を維持しながら、改善を加えていくとした。

CCC独自の「ライフスタイル分類」による配架

■CCCとTRCの司書で構成する選書委員会を設置

また、海老名市立図書館では、オープン直前にCCCによる購入予定の選書リストが市議会で問題視されたほか、開館直後にはタイの歓楽街ガイド本が購入されていたことが発覚、批判を集めた。これらの問題について、市はどう対応したのだろうか。

選書については、CCCとTRCの司書が2人ずつで構成される選書委員会を設置。海老名市立図書館の選書基準により選書を行い、海老名市立中央館長(CCCの高橋聡図書館カンパニー長)と分館である有馬図書館長(TRCの松田彰館長)、両館の統括館長(TRCの谷一文子会長)が決定する。一部では、教育長が選書委員会のトップに就任するという報道もあったが、図書館に対する検閲にもつながる可能性があるため、指定管理者であるCCCとTRCに選書は委ねられる。

また、タイの歓楽街ガイド本が購入されていた問題については、神奈川県内の他の自治体や東京都内の自治体の図書館でも蔵書があり、海老名市立図書館の選書基準でも問題はないため、貸出は行う。ただし、未成年の利用者が手に取ることがないよう、通常は閉架書庫で管理すると指定管理者から申し出があったという。

一連の問題を収束させ、CCCとTRCの共同事業体の解消という最大の危機の回避をはかった海老名市。しかし、今後の図書館運営に残された課題は少なくない。たとえば、CCCによるライフスタイル分類の継続だ。多くの図書館がNDC分類を採用する中、全国で指定管理者や業務委託など430館以上を受託している指定管理最大手であり、NDC分類を熟知するTRCとの手法の隔たりが大きかったことが、「協力解消」の背景にあった。分類は現場での図書管理に直結する問題だけに、どこまで「改善」できるかが鍵を握るだろう。

■海老名市教委「現在の体制は固定的なものではない」

海老名市とCCC、TRCには、それぞれ「温度差」も存在する。今回、両社から出された謝罪文について、海老名市では選書問題も含めた「一連の報道」に対してととらえるが、CCCの広報担当者は、「一部報道で、TRCさんから海老名市立図書館について、CCCと協力しないという申し出があったと出てしまい、それについて色々な憶測やご心配をおかけしたことに対して謝罪したということです」と話す。また、海老名市では市長会見に続いて、「指定管理者側から別途、会見があると聞いている」というが、CCCに確認したところ、その予定はないという。

TRCとの間に生じた問題について、どのようにとらえているかCCCに訊ねたところ、広報担当者は、「TRCさんがCCCと色々と違う考え方をお持ちであるという話について、どのように具体的にされているのか把握できていないので今、お答えすることができません。(海老名市立中央図書館についても)具体的にどのようにおっしゃっていたのかわかりません」と話す。

さらに、「10月1日にオープンしたばかりなので、市民の皆さんの満足度を高める運営を引き続きしていくつもりでおります。具体的に何を変えるか、改善するかはまだ何も決まっていませんが、以前同様にやっていきたいと思っています」として、現時点での方針に大幅な変更はないことをあらためて語った。TRCも、海老名市立図書館以外で、CCCと協力することは今後ないという姿勢は崩していない。両社の歩み寄りはたやすくはない。

オープン当初より、海老名市立中央図書館はCCC、有馬図書館はTRCのスタッフで「分業体制」で運営。しかし、レファレンスなどでノウハウを持つTRCが現在、中央図書館でサポートを行っている。金指教育部次長も、現在の「分業体制」について、「協定の中には書かれていません。選書委員会は両社でやりますし、改善についても課題事項は統括館長、両館長、教育委員会で毎週1回は会議を開いて共有しています。現在の体制も固定的なものではないと考えています」と話す。

では、TRCはなぜ、CCCとの「関係解消」報道から一転、海老名市立図書館の指定管理者では共同事業体の継続を決意したのか。TRCの谷一会長はその理由について、「指定管理者として、市民の方々に対し、責任感を感じています。図書館の役割をあらためて考え、具体的にどう改善していくかの協議を今後はしていきたいと思います」と語った。

海老名市立図書館の指定管理者は、今回注目を集めた中央図書館の運営だけではない。中央図書館から郷土資料を移管され、中央図書館で減った雑誌タイトルのバックアップをしている有馬図書館、それから市内小中学校の学校図書館を含め、海老名市民の「知のインフラ」である図書館が託されているのだ。それだけに、今後、海老名市教委の舵取りと、指定管理者として、CCCとTRCの責任ある運営が求められている。

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