著名人のがんに関する連日のニュースで、がん検診の申込み件数が増えている。いまの日本は、2人に1人ががんになる時代。「まさか自分ががんになるなんて……」ではなく、「もしも自分ががんになったら……」と考えるほうが現実的だと、多くの人が気づきはじめているのかもしれない。
しかし実際、がんになったときのために、どんな心構えをしておくべきなのか、わからないことが多いのも事実だ。慌てないために、私たちにできることは何かあるのだろうか?
がん看護専門看護師で、がん患者と家族や友人を支援するセンターの設立を目指す、NPO法人マギーズ東京の理事でもある濱口恵子さんに話を聞いた。
■1.がんは早期発見できれば怖くないことを知る
がんとひと口にいっても、症状も進み方も人によってさまざまですが、発見が早いほど、治癒の可能性は高まります。たとえ治癒しなくても、いまはがんとともに生きる時代、がんは慢性疾患に位置づけられる時代になりました。
がんの早期発見のためには、がん検診を定期的に受けることです。
日本人のがんの罹患数は年々増加しているのですが、がん検診の受診率は欧米の約半分の30〜40%程度。行政でがん検診の無料クーポン券を配っているのにもかかわらず、使う方が少ないのです。定期的にがん検診を受ければ、何も問題なければ安心できます。それが、がんに対する心構えにもつながっていくのです。
■2.自分にとって大切なものは何か、元気なときから意識する
がんになると、治療のために身体の状態が変わり、生活が変わります。それまで自由にできたことができなくなる可能性も出てきます。ただ、がんの治療法は医療者と相談しながら基本的に自分で選べますので、自分にとって大切なものは何か普段から意識して生活していると、いざというとき迷わずにすむこともあります。
例えば、ピアニストや美容師にとっては“手”が大切なので、手がしびれる副作用の少ない抗がん剤治療法を選ぶ。家族と一緒にいる時間を大切にしたい人は、通院で可能な治療法を選ぶ。食べることが好きな人は、食事にできるだけ影響が少ない治療法を相談してみる。そのように、がんになっても優先したい幸せな時間や、大切な仕事や趣味がある場合は、治療法を選択する際のひとつの指針になると思います。
医師からがんがどうなるかの説明はあっても、生活がどう変化するかについての説明が少ない場合があるので、自分の希望を医師に伝えられるようにしておいたほうがいいでしょう。
■3.“正しいがんの情報”を収集する
がんという病気は千差万別で、がんの種類、症状、治療法、そして治療が終わったあとの経過も人それぞれです。インターネットには、がんの情報や体験談が溢れかえっていますが、自分に当てはまるとは限りませんので、振り回されないことも大切です。
特に、自分ががんになってしまうと冷静な判断ができなくこともありますので、元気なときから“がんの正しい情報”に目を通しておくと、いざというときに役立ちます。
一番のおすすめは、国立がん研究センターが公開しているサイト「がん情報サービス」です。こちらでは、がんに関する基本情報はもちろん、がんの予防や検診に関する情報、がん患者の支援制度や、がんとともに働き続けるためのポイント、ご家族や周りの方に向けたがん患者への対応の仕方のアドバイスなど、信用できる情報を得ることができます。また、各都道府県にはがん診療連携拠点病院があり、そこのがん相談支援センターは、その病院の患者・家族でなくても電話で相談もできます。
■4.告知の伝え方、受け止め方を家族と話し合っておく
どんな人でも、がんと告げられると動揺されます。頭が真っ白になってしまって、主治医の説明を聞いてもわからなくなってしまうケースもめずらしくありません。慌てないために心の準備をしていても、やはり慌ててしまうものなのです。ですから、検査や治療についての大事な説明は、おひとりではなく、家族や友人など信頼できる人と一緒聞くことをおすすめします。ただ、深刻な症状が予想される場合、医師から直接、告知を聞く勇気がないという方もいるかもしれません。余命を聞きたくない方もいるかもしれません。そのためもし自分ががんになったら、どこまで事実を知らせてほしいか、どういう風に事実を知りたいか、家族に伝えておくことが大切です。
また、両親や子供に心配をかけたくないからといって、病気を隠すことはおすすめしません。どんなに高齢の親でも、親は子供の病状を知って、一緒に手伝えることは手伝いたいのです。事実を知らされなかった親御さんが、かなり進行してから伝えられて、もっと早く知っていたらと、怒りにも似た感情を抱いている姿を、私は目にしてきました。
また、子供がかわいそうだからという理由でがんを伝えなかった場合、「自分が悪い子だから」と自分を責め続けるお子さんもいます。もし万が一がんで親を亡くしてしまうと、一生それがトラウマになるのです。ですから「病気はだれのせいでもない」ときちんと伝えてあげてください。もし自分ががんになったとき、ご両親やお子さんに真実を伝える覚悟をしておくことも大切なことだと思います。
■5.抗がん治療をするかしないか、家族と話し合っておく
がん患者さんのなかには、抗がん治療を受けたくないという方もいらっしゃいます。でもそうすることによって死期が近づく可能性もあるという事実をお伝えすると、「死にたくはない」とおっしゃる方もいるのです。ですから自分が、できるだけ長く生きることと、今を楽しんで悔いがないように暮らすことと、その両方を大切にできるようにバランスを考えながら選択することが大切かと思います。
ただ実際にがんになると、自分自身もご家族も、さまざまな判断に悩み、迷い、苦しむケースがよくあります。話し合いのなかで、意見が対立することもめずらしくありません。そうなったらなったで、とことん悩んで、迷って、納得がいくまで話し合ってください。がんの闘病に正解はありません。でも自分が納得のいくかたちでがんと向きあうことはできるのです。がんになってから人生が輝きだしたとおっしゃる患者さんもいます。でもできることなら、元気なうちから日々を楽しみ人生の輝きを味わって過ごしたい、私はそう思うのです。
……
最後に濱口さんは、「がんになった患者さん同士のネットワークはすごいですよ。がんと告げられてショックで落ち込んでいた人も、“がん友”たちの元気な姿と励ましによって勇気づけられ、いきいきと前を向いて生きていく方が多いのです。そして、がんになった方・ご家族を支えようとする人が、病院にも地域にもたくさんいますよ」と教えてくれた。
“もしも”のときのことは、できれば考えたくない。考えたくもない。そう思う人もいるかもしれない。しかし、がんの闘病を乗り越えて明るく生きている人もたくさんいる。がんについて考えることは、自分の生き方や家族について考えること。いざというときのために心の準備をしておくことが、日々を大切に生きていくきっかけにもなるだろう。
(樺山美夏)
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