小林よしのり氏、安保法案で安倍政権を批判「ナチスまねて法を形骸化」(発言詳報)

漫画家の小林よしのり氏が、解釈改憲によって集団的自衛権を認め、安全保障関連法案を成立させようとしている安倍政権を「ナチスをまねて法を形骸化させようという政治権力は、最大限警戒しなければいけない」と批判した。
会見する小林よしのり氏
会見する小林よしのり氏
Taichiro Yoshino

「ゴーマニズム宣言」「おぼっちゃまくん」などで知られる漫画家の小林よしのり氏が8月10日、日本外国特派員協会で会見した。立憲主義を守る立場から、解釈改憲によって集団的自衛権を認め、安全保障関連法案を成立させようとしている安倍政権を「ナチスをまねて法を形骸化させようという政治権力は、最大限警戒しなければいけない」と批判した。

一方で、日本国憲法を改正して自衛隊を正式な軍隊にすべきだとの持論を持つ小林氏は、「真正面から憲法改正を国民に問うべきだ」と訴えたが、「国民はつくづく警戒してしまった。このままでは憲法改正を発議しても国民投票で勝てない」と、安倍政権の手法によって、憲法改正が遠のいたとの見通しを示した。

発言要旨と主な一問一答は以下の通り。

【会見要旨】

私は安保法制で保守から寝返ったと言われたが、そうではありません。保守とは日本のアイデンティティーを保守しなければならないと思っています。だから憲法を改正して軍隊にすべきだと思っています。

しかし日本の「保守派」とは、アメリカについていくことが保守だと思っている人が多い。イラク戦争を「侵略戦争だ」と批判したために、私は保守派からバッシングされた。明確に侵略戦争であることが明らかになった。ところが日本の保守派は、間違っていたということを、安倍首相も認めない。安倍首相や自民党は、アメリカがまた次の侵略戦争を始めたときに、ついていかなければならないからです。「この戦争はだめだ」「この戦争はやるべきだ」とはっきり言えなければならない。

日本は今後も侵略戦争はやりません。過去にやったことはあるが、専守防衛に徹するべきです。アメリカは今後も必ず侵略戦争をやります。ベトナムしかり、アフガンしかり。世界を破壊してスクラップするがビルドはできない。必ず撤退します。だから日本がかつての反省をするなら、憲法を改正しても侵略戦争はしないと条文に入れなければならない。アメリカとは個々に特別法を結んで安全保障の体系を組み立てなければならない。

日本の保守派は、尖閣諸島の問題、ガス田開発、南沙諸島、中国の覇権が押し寄せているから怖い、だから集団的自衛権が必要だという論理の組み立てになっています。尖閣諸島が危ないのならば、尖閣諸島に日本の軍港を造り、ガス田開発をしている者と対決すればいい。しかし反対するのはアメリカでしょう。アメリカは絶対に中国と戦争しません。日本はアメリカに利用されるだけ。将来は中東の戦争に出て行かなければならなくなるでしょう。アラブの人たちは日本が日露戦争を戦ったことに敬意を表してくれています。アラブの人たちを敵に回してはなりません。

そこでもう一つ、憲法の問題があります。私は憲法9条を守れとは言いません。ただ、立憲主義は守らなければならない。立憲主義とは国民が権力を縛るためのものです。戦前、日本は軍部が暴走しました。軍部を抑える規律が明治憲法の中になかったからです。

さて、ここで立憲主義と中国の脅威を天秤にかけたとき、今現在、憲法を解釈改憲で立憲主義を崩壊させなければいけないほど、中国の脅威は迫っているでしょうか。憲法改正には1年か2年で足ります。この間に中国が日本を侵略してくるでしょうか。真正面から憲法改正を国民に問えばいいのです。やらないのはなぜか。アメリカについていくことだけが安倍政権の最大の目的だからです。今回の安倍政権の解釈改憲のやり方で、国民はつくづく警戒してしまいました。このままでは憲法改正を発議しても国民投票で勝てません。

この犠牲になるのは自衛隊です。ポジティブリスト(注:「○○してよい」と明記された事項しか許されない法体系)でしか戦えません。普通は国際法だけを守ればいいからネガティブリスト(注:「○○してはならない」と明記されたこと以外は何をしてもいい法体系)なんです。ポジティブリストで縛られた自衛隊が、国際法さえ守れば何でもやれる米軍と一体になるのは非常に危険です。自衛隊には軍法会議もありません。戦場でもし人を殺めたら国内法で裁かれ、殺人罪で刑務所に入らなければいけない。自衛隊員を守るため、そして日本という国が二度と侵略戦争に巻き込まれないため、安保法制には反対しなければならない。

アメリカは今はイラク戦争で懲りているから、今後10年の間に軍縮して、日本の戦力で補塡しようとしています。アメリカという国は、必ずまた戦争をします。軍産複合体の問題もあって、古くなった兵器は在庫一掃しなければいけない。こんな危険な国はないんですよ。従ってワシが言っている安保法制反対は、陳腐な平和主義者とは違うんです。ワシはフランスやドイツがうらやましいですよ。イラク戦争に堂々と反対できる。フランスはアメリカからずいぶんバッシングされたけど間違ってなかった。日本がそう行動できるかどうかは、安倍首相が「イラク戦争は間違っていた」と認めることから始めるしかないんです。ただひたすら、アメリカについていけという人の、どこが保守なのか。こういうことをワシのような漫画家が言っていること自体、世の中すべてギャグです。

【質疑応答】

――安倍首相は70年談話で何を言うべきでしょうか。

そうだなあ。まず、戦争というのは、相手があってやること。アメリカの勝者の戦争観に合わせる必要はない。常に自分が正義と規定して戦い、終わったあとは相手の国をすべて悪にする。これは間違っています。もし戦争を裁く裁判をつくるとすれば、被告席にアメリカも座らなければならない。原爆など、アメリカの戦争犯罪も裁かなければならない。当然、日本の悪も裁いていいんですよ。そういう視点から語ることができるのか。完全にアメリカの戦争史観に染まったような談話だったら私は批判します。

ただしワシの考えでは、中国に入っていったのは侵略的な要素が強いと言わざるを得ません。韓国、満州までは、当時の帝国主義的な国際法の観点にはかなっています。韓国を日本に併合したことは国際法にかなっていて、どこの国も賛成した。けれども隣の文化的にも非常に交流のある国を植民地的な位置に置いたことは、彼らの中にコンプレックスを育ててしまった。これは政策的にはやはり失敗だった。欧米は植民地を作るときに間接統治をした。遠く離れたところを植民地にした。ところが日本はすぐ近くの国を直接統治してしまった。これは本当に大きな失敗だったと思っています。そういう意味では韓国の人に申し訳なかったという気持ちが日本人の中にもあっていい。こういう分析をきちんとした上で、どのように表現するかが問題だが、とても今の安倍政権ではそういう思考回路は難しい。

――改正された憲法で日本の軍を海外に派兵することに反対ではないのか。

侵略戦争はダメだって言ってるんです。自衛のための戦争はやりますよ。北朝鮮が暴発したらやらなければいけません。麻生太郎さんは憲法改正そのものをどうもあきらめた節があり、「ワイマール憲法を形骸化させる手もある」と言った。ワシはあのとき、警戒したんですよ。ナチス・ドイツが全権委任法をつくって独裁に持ち込んだ。このやり方でやる気だなと。カール・シュミットという法学者が、「主権者とは例外状況において決断を下す者である」と書いている。国民主権というが、法の外にある例外状況で誰が決断を下すか、これが本当の主権だとシュミットは言うんですね。今そういう例外状況ではない。ナチスをまねて法を形骸化させようという政治権力は最大限警戒しなければいけません。

――アメリカに対し非常に批判的な立場だが、日本はアメリカと距離を置くべきか。もしそうなら、日米安全保障条約や在日米軍はどうすべきか。

沖縄に米軍基地が異様なほど集中しています。辺野古移設をどう解決すればいいのか考えたとき、基本的に自分の国土に他国の軍事基地が置いてあって、なおかつ思いやり予算とか言ってお金をどんどんつけていく。そういう国は日本とクウェートと韓国ぐらいでしょうか。日本には治外法権があって、米兵が日本女性をレイプしたら基地に逃げ込めば捕まえられない。これは完全な不平等条約だから、この状況を何とかしなければいけない。米軍に出て行ってもらって、自衛隊を軍隊にして、自国で守る。こういうと「経済的に不可能だ」と言い始める。一国の独立はお金の問題ですかね。お金がかかるから独立したくない、こんなバカな国ではどうしようもないですよ。保守と左翼は同じことを言っている。右から左まで「米軍に依存せよ」と言っている。これがくだらないんですよ。

――SEALDsの若者と対談したが、いったいどういう話をしたのか。

たとえば自民党の議員とか保守系の人たちが、わざわざあの若者たちをバッシングする。彼らはワシとは同じ考えではありません。若者は未熟なんですよ。その若者たちが社会や国家の問題にようやく目覚めたところです。彼らを持ち上げることもしないし、バッシングは大人としてみっともないことだと思っています。

昔、ワシより上の団塊の世代で「戦争を知らない子供たち」という歌が大ヒットした。戦争を知らない自分たちが未来をつくるんだと誇らしげに歌っていた。戦争を知っている両親がそれを苦々しく見ていた。ところが今、その当時の若者たちは保守系の雑誌ばかり読んで中国と韓国のバッシングばかりやっている。まったくみっともない。

――世界は変わっている。日本だけでなくアメリカも変わっている。85%が海外の戦争に巻き込まれたくないという調査もある。そのとき日本はどう自立するのか。

まずアメリカはベトナム戦争の後も、しばらくは国内にしか関心を向けなかった。それがしばらく経つと、アフガン、イラク戦争と外にナショナリズムをぶつけていく。アメリカが世界の警察官であるなら、侵略戦争をやって、今の中東情勢のように混乱させっぱなしではダメです。しかも人命の差別がある。アメリカにとってアラブの人命は軽くて、何万人殺してもいい。果たして世界の警察たりうるのか。

日本は中東に戦争という形で関わってはだめだ。自衛隊を二分割して一つを平和貢献部隊にして、戦争に関係なく、どのように現地の人々が何を望んでいるかを考えて出て行く部隊が必要ではないか。自衛隊はイラクのサマワに行ったが、アメリカへの言い訳のためだけに行った。今、インフラをいくら整備しても維持できず、重機を使いこなせる人間がいないからほこりをかぶっている。そういう貢献の仕方ではダメなんだな。イラク復興という理念がないんですよ。自衛隊が軍隊として出て行くことが非常に誤解を受けるから、平和貢献部隊は別に作ったほうがいいんではないかと考えています。

外交のタフネスさはいりますよね。日中ガス田も共同経営という合意があったのに守られていない。執拗にやらなければいけない。それしか世界を安定的に平和に持って行く方法はない。世界中どこも、今の国際法事態を武力で変更することはよくないと自国の人に伝えてほしい。徹底的な外交交渉に持ち込む執拗さ、それしかないんですから。

国際連合を第2次大戦の戦勝国体制にしておくことをそろそろやめませんか? 常任理事国を戦勝国で独占していては世界はよくなりませんよ。本当に国際社会を平和にしたいと思っているのなら、国連改革が必要です。

――大東亜戦争(注:質問者発言ママ)は侵略戦争だったという認識ですか?

安倍首相がアメリカの議会で「日本のアメリカとの出会いは民主主義との遭遇だった」と言って拍手喝采を受けました。あれはうそです。日本とアメリカの出会いは砲艦外交による不平等条約です。そこから日本は帝国主義に入っていかなければならなくなりました。戦争をして植民地を持たないと一流国として認められず、不平等条約を解消できない。そういう時代だったんです。日本が開国したのは中国がすでに侵略されて虫食い状態だった。欧米列強を恐怖して、帝国主義に入っていき、日清、日露戦争に勝ってしまった。ここから日本のおごりが出るんです。日本国民も軍部に期待して政治の歯止めがきかなくなってしまった。そして誰も戦いたくなかったのにアメリカと戦ってしまった。開国以来の運命なんです。大東亜戦争はアメリカに砲艦外交で強引に開国され、そこで生き抜いた結果、敗戦した。ワシはこれ、運命だと思っています。自らの運命を否定する考えに私は立ちません。そういう意味では大東亜戦争肯定論です。

――侵略戦争だったのか?

どこの時点で? 支那(注:本人発言ママ)に対しては侵略戦争です。

%MTSlideshow-236SLIDEEXPAND%

注目記事