サッカーのイングランド・プレミアリーグのチェルシーは7月22日、人種差別行為を行った5人のファンを永久追放にすると発表した。5人は2月、パリ中心部の地下鉄駅で列車に乗り込もうとした黒人男性に対し、「われわれは人種差別主義者だ」と大声で歌いながら、力づくでホームに押し出す行為を繰り返した。その様子が動画で公開されると、批判が殺到した。
事件が起きた日、パリでは欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメントのチェルシー対パリ・サンジェルマン戦が行われていた。電車に乗り込もうとして5人に拒まれたスレイマンさん(33)は、パリ在住で勤務先から帰宅途中だったという。
スレイマンさんは「相手は英語で話していたので、初めは何を言っているのか理解できなかった。そのうち、相手は自分の指を首にあてた。白い肌だということを示すためのようだった。白い肌だけが乗車できる。黒い肌は、乗車する権利がないことを意味していた」と話した。ホームにいた人たちも、誰も仲裁に入ろうとはしなかったとスレイマンさんは述べた。翌日には、警察に被害届を出したという。
事件を受け、チェルシー側も即座に5人に対して本拠地スタンフォード・ブリッジでの試合観戦を一時禁止にした。フランスとイギリスの警察が捜査を開始。ロンドン警視庁は3月25日、関与が疑われていた5人を裁判所に召喚した。
5人うちの一人は元警察官(50)で、民事訴訟の審問では「混んでいた列車の中で、自分の場所を守ろうとしただけ」と供述。別の男性は「差別の歌は歌っておらずを声にしてはおらず、口をパクパクさせただけだ」と主張した。しかし、7月22日、裁判所はいずれも人種差別と認定。3人に対し5年間、1人に対し3年間の、スタジアムでのサッカー観戦禁止命令を言い渡した。別の1人には既に、5年間のスタジアム観戦禁止命令が出されていた。
スタジアムでのサッカー観戦禁止命令は、通常3年から10年間とされているが、これに違反した場合には、実刑判決が言い渡されることになる。裁判所の決定と受け、チェルシーは22日、声明を発表。5人はクラブの理念に極めて反する行動をしたとして、今後、本拠地スタンフォード・ブリッジの立ち入りやチケットの購入を永久に禁止すると決定した。
■サッカーの人種差別をめぐる世界の動き
サッカーと人種差別をめぐっては、ヨーロッパで有色選手を揶揄するために観客がバナナを振るなどの事態がたびたび起こっているほか、日本でも2014年3月、浦和レッズの試合でスタジアムに「日本人以外お断り」と取れる「JAPANESE ONLY」と垂れ幕が掲げられ、クラブが無観客試合の制裁を受けるなど、深刻な問題となっている。
イギリスではスタジアムなどで人種や性別などに基づく差別行為を目撃した場合、その場で通報できる「キック・イット・アウト」というスマートフォンアプリが2013年に登場。サッカーにおける差別の撲滅を目指す団体によって運営されており、通報は試合会場の警備スタッフにアラートが届くようになっている。
この団体の発表では、2014年8月〜12月28日までの間に、イングランドのサッカーリーグで起きた差別行為の件数は184件に達し、前年の同じ時期と比べると約50件増えている。この数は一見すると、問題が増えているとも捉えることができるが、チェルシーのサポーターでスポーツライターの山中忍氏は、「差別行為の被害者や目撃者が、諦めて口を閉ざすことなく行動を起こすようになった結果として前向きに受け止めるべきだ」と指摘している。
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