「リーダーはどなたかな。文科相かな? 総理大臣かな?」――。
2520億円と巨額の建設費に批判が集まっている新国立競技場の問題で、コンペの審査委員長を務めた世界的な建築家、安藤忠雄氏が7月16日、都内で会見。自らの役目はデザインの選定までで、工費などを調整する設計段階には関わっていない、などと主張した。
新国立競技場の建設費をめぐっては、当初、1300億円の予算で建設されることとなり、安藤氏を審査委員長とする国際コンペが開かれた。2012年、このコンペでイラクの建築家、ザハ・ハディド氏のデザイン案が選ばれたが、案通りに建設すると3000億円以上かかることが判明。2014年5月、プロジェクトを推進する文科省管轄の日本スポーツ振興センター(JSC)は原案通り作ることを諦め、ハディド氏のデザイン案のテイストを残しつつ規模を縮小した1625億円規模の修正案で建設することを決めた。
だが、2015年7月になって、アーチ状の構造が難工事になることや、資材、労務費の高騰などが原因で、その案でも2520億円がかかることがわかった。しかし、7日の有識者会議ではそのまま建設されることが承認され、批判を集めていた。
■「私は総理大臣じゃないから……」
安藤氏によれば、建設のプロセスは三段階に分かれるという。意匠を決める「デザイン選定」、周辺環境やコストなど条件面を詰める「基本設計」、物理的な建設の技法を検討する「実施設計」だ。このうち安藤氏が担当したのはデザイン選定のみで、その後の計画変更には関わっていないと強調。度重なるコスト増について「皆さんと同じような気持ちで、『なんでこんなに高くなるの』『もうちょっとなんとかしてよ』と思っていた」「2520億円になったのは安藤さんのせいだ、と言われても、私は総理大臣じゃないから」などと語り、自らの責任を否定した。
一方、コンペの際にコストを精査していたかについて安藤氏の回答は歯切れが悪く、「全員に値段は出してもらっている」としながらも、「そのデザインで実際に建てられるかどうかは、(自分の担当外の)基本設計の時に調整すること」「1300億円で大丈夫かなとは思った。こんなに大きなもの、私、作ったことないですからね」などと話し、コストについての慎重な議論はなかったと取れる発言を繰り返した。
JSCの鬼澤佳弘理事もこの点については「コンペはデザインを選ぶ場」と話しており、「とりあえずデザインを選んでから、コストについて検討する」という体制が度重なる工費増につながっていることが明らかになった。
それでも安藤氏は「斬新でシンボリックなデザイン」「ザハ案で建てるのが国際公約」「日本の技術力を世界に見せたい」と、ハディド氏のデザインを維持するよう希望。一方で、巨額の建設費に批判が集まっていることにも理解を示し、「高すぎるから、公な場でオープンな形でみんなで徹底的に討論すべき」と述べている。
会見の終盤、プロジェクト迷走の責任を取るリーダーは誰なのかと問われると安藤氏は「リーダーは必要でしょうね。力のある。リーダーはどなたかな。文科相かな? 総理大臣かな?」と答えており、改めてこの問題の責任の所在の曖昧さが露わになった会見だった。
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