115億円かけて建造した超高速旅客船「スーパーライナーおがさわら」が、一度も定期航路に就かないまま解体される。広島県・江田島の解体場に係留されている姿を5月6日、カメラに収めた。
小笠原諸島は、都心から約1000km南方にある絶海の孤島。豊かな自然が残り、2011年には世界遺産に登録された。島内には空港がなく、船が唯一の旅客輸送ルートになっている。竹芝埠頭〜父島間は旅客船「おがさわら丸」で約25時間もかかる。
そこで白羽の矢が立ったのが、「海の新幹線」という触れ込みで、国家プロジェクトとして開発されたテクノスーパーライナーだった。1989年に運輸省(現国土交通省)が研究補助金として投じた国費は39億円。1隻だけ造られた実用船の建造費は115億円だった。
アルミ合金製の船舶としては、建造当時は世界最大級の超高速船だった。742人を乗せて、38ノット(時速70キロ)の高速航行が可能で、この船を使って、都心から父島まで約16時間に短縮する計画。2004年11月には「スーパーライナーおがさわら」と命名された。
だが、原油価格の高騰が計画を狂わせた。2005年に国と東京都は、年間30億円に上る赤字が見込まれることから、負担の折り合いがつかず就航を断念した。一度も使われないまま、岡山県の三井造船玉野事業所に係留された後、船舶解体会社のある江田島に運ばれて解体のときを待っている。2011年の東日本大震災直後、宮城県石巻市に寄港して被災者に無料開放したのが、最初で最後の晴れ舞台だった。
解体所に係留された「スーパーライナーおがさわら」は原形を留めているものの、右側の船腹には大きな傷が放置されていた。イルカのマークも尾が切れ、痛々しい姿となっていた。近隣の民家で草刈りをしていた男性は「あの場所に去年からずっと置いてあるが解体は始まってない。アルミの船なので勿体ないね」と話していた。
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