世界最高峰のバスケットボールリーグ、NBAのオクラホマシティー・サンダーで活躍するスーパースター、ラッセル・ウェストブルック。2月に行われたオールスターゲームではMVPを獲得した。
ラッセル・ウェストブルック
そんな絶好調の彼が3月7日、試合の合間を縫って、地元・オクラホマシティーに住むある人物を訪ねた。19歳のシングルマザー、カースティン・ゴンザレスさんだ。
ゴンザレスさんは、4歳のマシューと2歳のアダム、二人の男の子の母親だ。14歳の時に妊娠し、突然、大人として生きていかなければならなくなった。おむつ代やら、育児のために必死に働くかたわら、貧困層向けの支援を受けてできた時間で高校に通った。そして、今は大学で法医学を学びたいと考えている。
そんなゴンザレスさんのクルマが、月曜日、エンジンがかからなくなった。しかたがないので、彼女は家族や友人に借りて、仕事に行き、子供たちの送り迎えをした。ただでさえ大変な日常が、ちょっとしたトラブルからさらに彼女の肩に重くのしかかってきた。
7日、ウェストブルックは、待ち合わせ場所に向かった。ゴンザレスさんは、ウェストブルックの友人でもなければ、知人でもない。これから会う人物が、ウェストブルックであることも知らされていない。
いきなり現れた地元チームのスーパースターに、ゴンザレスさんは驚いた。「え? 冗談でしょう?」。ウェストブルックが励ましの言葉をかけ、クルマのキーを差し出すと、涙があふれた。「彼が私にクルマの鍵を見せた時、これが現実だということに気づきました」。
このクルマは億万長者が単に、貧困者の支援のために買い求めただけなのだろうか? そうではない。それは、特別なクルマだった。2月にNBAのオールスターゲームで、並みいるスター選手の中、41得点を挙げMVPに輝いた、その副賞だった。ウェストブルックはそのクルマを、人の役に立てたいと考え、貧困層の支援団体に相談していた。そして、ゴンザレスさんに渡されることになった。
「彼女の話を聞いて、クルマを渡すのにふさわしい人だと思った。彼女は、家族のためにすべてを捧げてきたんだよ。二人の息子を育てて、目標に向かってもがきながら毎日頑張っている人を見たら、何か自分にできないか、って」。
ウェストブルックは、マシューとアダムと遊び、笑って、ひとときを過ごした。また、戦いの場、コートへと戻るため――
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