Apple Watchにファッション業界冷ややか 「手首に着けたいだろうか」

努力は今のところ、あまり実を結んでいるとは言えないようだ。9日の発表イベントも、ファッション業界ではさほど大きな注目を集めなかった。
Reuters

[パリ/ニューヨーク 9日 ロイター] - 米アップル

サンフランシスコで9日に開催したメディア向けイベントでは、スーパーモデルのクリスティ・ターリントン・バーンズが、ティム・クック最高経営責任者(CEO)と一緒に登壇し、アップルウォッチを実際に使用した体験などを語った。

またフランスのパリでは昨年秋、高級セレクトショップ「コレット」でアップルウォッチの展示イベントが開催されたが、その会場には有名デザイナーのカール・ラガーフェルドや雑誌「ヴォーグ」の元編集長アナ・ウィンターなどファッション業界の重鎮たちも招かれていた。

しかし、こうした努力は今のところ、あまり実を結んでいるとは言えないようだ。9日の発表イベントも、ファッション業界ではさほど大きな注目を集めなかった。

シャネルやジバンシー、エルメスなどハイファッションブランドの関係者らは、アップルウォッチはガジェット(電子機器)であり、今季のマストアイテムとなるアクセサリーではないと口をそろえる。

ステラ・マッカートニーのショー出演後にロイターのインタビューに応じたオランダ人モデルのジュリア・バン・オスは、アップルウォッチについて「話題にしている人は聞いたことがない」と一蹴。「違う世界。ファッションというよりテクノロジー。ファッションの世界でこの手の腕時計をする人はいない」と語った。

パリの百貨店プランタンのセールス担当も、この意見に同調する。ロレックスなどの高級時計を扱うプランタンだが、最上位モデルは1万ドル以上するアップルウォッチを販売する計画はないという。「理解しなくてはならないのは、こちらは高級ブランドで、(アップルウォッチは)テクノロジーだということだ」と語った。

アップルウォッチは、「iPhone(アイフォーン)」と連動させることで、スマートフォン同様の機能が使えるほか、ネットへのアクセスが可能となる。エクササイズやフィットネスの記録・測定や予定のリマインダー表示などの機能もある。

フランスの新聞各紙は、9日のアップルウォッチ発表イベントを経済面で取り上げ、人気の高いファッション面は、冬物ファッションショーに関する記事や、ブルガリやブシュロンの時計など高級品の広告に紙面を割いた。

高級品小売コンサルタントのロバート・バーク氏は、アップルウォッチはファッション界に単純に「響いていない」と指摘。「アップルは発売に先駆けて特にファッション業界に狙いを定めてきたが、アップルウォッチは本質的に、テクノロジー重視の感性をひきずっている」との見方を示した。

さらに「テクノロジーの世界と腕時計の世界はかなり違う。確かにアップルウォッチには新規性や魅力はあるが、どちらかと言うと今のところ受けているのは、新しいハイテク商品が好きな人たちだ」と語った。

ただ、アップルの取り組みが報われる可能性はあるという。「ファッション業界に対する彼らのメッセージは間違いなく、過去数週間で焦点が定まってきた。同社が戦略を微調整しつつある証しだ」と評価した。

アップルはファッション誌「ヴォーグ」3月号では、異例とも言える12ページにわたる広告を掲載している。

ただ、発表イベントでスーパーモデルのターリントンが強調したのは、アップルウォッチのエクササイズ記録機能。タンザニアでのハーフマラソンのトレーニングでアップルウッチがいかに役立ったかを動画を交えて紹介した。

このプレゼンは、魅力的な腕時計であることを優先させたい層には受けなかった。

消費者文化を研究するシンクタンク「TOBE」のファション担当者ロザン・モリソン氏は、夜間充電やiPhone連動が必要なことが、かなりのマイナス面だと指摘。「女性の目線から言えば魅力的ではない。現時点ではセクシーとは言えない」と手厳しい。

一方、ファッション情報サイト「Style.com」の編集責任者で、昨秋のコレットでのアップルウォッチ展示会にも出席したニコール・フェルプス氏は、ファッション業界でもアップルは大きな強みを持っており、それがアップルウォッチ発売にもプラスに働く可能性はあると語る。

「ファッション業界はiPhoneを100%気に入っている。アップルウォッチはアップル製品らしくセンスが良い」と評価。ただそれでも、最終的には1つの重要な疑問に行き着く。「こういう道具を人々は手首に着けたいだろうか」

(原文執筆:Ellen Wulfhorst and Alexandria Sage、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)

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