【駐韓米大使襲撃】韓国内にはびこる「対立意見封じ込め」の雰囲気も影響か

駐韓アメリカ大使のマーク・リッパート氏が3月5日、ソウルでの朝食会で暴漢に切りつけられた事件の背景には、対立する意見を封じ込めようとする勢力がはびこる社会の雰囲気のほか、反米、反日感情の高まり、容疑者の反体制的な志向なども報道されている。
SEOUL, SOUTH KOREA - MARCH 05: (SOUTH KOREA OUT) In this handout image provided by Munhwa Ilbo newspaper, U.S. Ambassador to South Korea Mark Lippert is seen right after getting attacked on March 5, 2015 in Seoul, South Korea. Ambassador Lippert was attacked with a razor blade by a man at a venue where he was going to give a lecture. The attacker who reportedly identified himself as a representative for a watchdog organization of the disputed island Dokdo/Takeshima, was arrested immediately on site. (Photo by Chung Ha-Jong/Munhwa Ilbo via Getty Images)
SEOUL, SOUTH KOREA - MARCH 05: (SOUTH KOREA OUT) In this handout image provided by Munhwa Ilbo newspaper, U.S. Ambassador to South Korea Mark Lippert is seen right after getting attacked on March 5, 2015 in Seoul, South Korea. Ambassador Lippert was attacked with a razor blade by a man at a venue where he was going to give a lecture. The attacker who reportedly identified himself as a representative for a watchdog organization of the disputed island Dokdo/Takeshima, was arrested immediately on site. (Photo by Chung Ha-Jong/Munhwa Ilbo via Getty Images)
Handout via Getty Images

駐韓アメリカ大使のマーク・リッパート氏が3月5日、ソウルでの朝食会で暴漢に切りつけられた事件の背景には、対立する意見を封じ込めようとする勢力がはびこる社会の雰囲気のほか、反米、反日感情の高まり、容疑者の反体制的な志向なども報道されている。

■韓国社会にはびこる「対立意見封じ込め」の雰囲気

韓国社会ではここ数年、保守や進歩(革新)、政治権力や在野勢力を問わず、「対立する意見を力で封じ込める」ことを狙った動きが顕著になっている。ハフィントンポスト韓国版のスプラッシュ(トップ画面)に取り上げられた出来事を紹介する。

ソウル市民人権憲章、公聴会に反同性愛団体が乱入
2014年11月20日、ソウル市が策定していた市民人権憲章に、同性愛者ら「性少数者の差別禁止」が盛り込まれるとして、これに反対する市民団体や宗教団体の約200人が市民公聴会に乱入。「アカと左翼は出て行け」「AIDS OUT」などと叫んで開催を阻止した。ソウル市長は採択を強行しない構えを示し、人権検証採択の動きは事実上止まっている。
産経新聞・前ソウル支局長を起訴
産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長が、朴槿恵大統領の男性関係に言及したインターネット上のコラムを巡り、複数の保守系の市民団体が「朴大統領を誹謗中傷した」として、加藤氏を刑事告発。検察当局は加藤氏を起訴し、2014年11月27日に初公判が開かれた。現在、裁判が進行している。
トークショーで発火物投げつけ
2014年12月10日午後8時ごろ、韓国南西部・益山(イクサン)の教会で、北朝鮮訪問記の著書が話題となった在米コリアンのシン・ウンミ氏が出演するトークショーの最中、高校3年生の男子生徒が、引火物質の入った鍋に火をつけて演壇に投げつけた。シン氏は発言が北朝鮮寄りだとして「従北」と保守勢力から批判を受けていた。男子生徒はその場で取り押さえられたが、シン氏は国家保安法違反容疑で韓国を強制出国処分となった。
統合進歩党に解散命令
2014年12月19日、韓国の憲法裁判所は、国会で5議席を持つ「統合進歩党」に解散命令を下した。1987年の民主化以降、政党の強制解散は初めて。韓国の情報機関・国家情報院が2013年8月、李石基(イ・ソッキ)議員を、北朝鮮の体制を支持し内乱を企てたなどの容疑で立件。韓国法務部は「北朝鮮に賛同し、対南革命路線に従っている」と解散を請求した。朴槿恵大統領は政党解散を「自由民主主義を確固として守る歴史的な決定」と評価した。
駐韓アメリカ大使切りつけ
2015年3月5日、マーク・リッパート駐韓アメリカ大使が朝食会の最中に、暴漢に刃物で顔を切りつけられた。切りつけた男は「アメリカ軍のやつらはなぜこの地で戦争訓練をするのか」などと叫んだという

■アメリカ国務次官の「日本寄り」発言に反発?

駐韓アメリカ大使が狙われた背景には、2月27日にアメリカのシャーマン国務次官が発言した内容が、韓国で批判を浴びていたことも指摘されている。

米国のシャーマン国務次官は27日、戦後70年の節目についてワシントンで講演し、「ナショナリスト的な感覚で敵をけなすことは、国の指導者にとって安っぽい称賛を浴びる容易な方法だが、それは感覚がまひするだけで、進歩は生まない」と語り、日中韓の指導者に自制を求めた。

「敵けなしても進歩ない」 米高官、日中韓に自制求める:朝日新聞デジタルより 2015/02/28 23:51)

この発言が韓国内で「日本寄り」と批判を浴び、アメリカ大使館前で抗議デモが起きるなどの騒ぎが起きていた。全国紙最大手の朝鮮日報は3月3日付の社説で「日本に対しては謝罪や反省を促す言葉を一言も言わなかった」「不適切この上ない表現を躊躇せず使った」と激しく批判した

■親北朝鮮、反体制が契機に?

キム・ギジョン容疑者は、2日から始まった米韓合同軍事演習に反対するなどの動機を、警察当局に供述しているという。朝日新聞デジタルは「韓国警察当局によると」として、キム容疑者が1999〜2007年に7回、北朝鮮を訪問したと伝えている。一方で6日に裁判所で被疑者尋問を受けたキム容疑者は、報道陣から北朝鮮との関係性を問われ「とんでもない」と否定した

キム容疑者は、韓国で1982年からある民間の文化団体の代表を30年近く務めていた。当時の新聞などによると、主に学生に韓国の伝統民俗芸能を教え、公演するなどの活動をしていたが、1987年に民主化運動が激化した前後には、公演を警察当局に妨害されるなど、しばしば対立を繰り返していたという。

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