いつ、どこにいてもスマートフォンで連絡が取れ、メールをチェックできる時代。便利である一方、もしあなたが就業時間後、オフィスを離れてからも仕事のメールをやり取りしているのなら、それは勤務中と変わらない。プライベートに仕事が入り込んでくる現象は、ドイツでも問題になっている。
ドイツでは、終業後の働きすぎを防ぎワークライフバランスを保つために、どんな取り組みをしているのか。今回は、ドイツ人の働きかたの工夫や、ドイツ企業が独自に設けた制度について紹介する。
■18時以降は残業禁止に?
2014年秋、あるニュースが日本で話題になった。「ドイツでは2016年までに、18時以降の労働を禁止する方向で法改正を進める」という内容である。驚いて調べてみると、どうやらドイツのアンドレア・ナーレス労働大臣が、地元紙「ライニッシェン・ポスト」新聞の取材に対して話したことが、そのように報じられたようだった。
ドイツのアンドレア・ナーレス労働大臣
取材でナーレス労働大臣は、「目標は、ストレスから守る通達を出すこと」と語り、その中で「社員が、会社と連絡が取れる状態にずっと置かれていることと、精神的な疾患の間には関連性があることは明らか」とし、一例として企業が休暇中に社員にメールで連絡を取るなどの行為を禁止したい、との意向を示している。
ナーレス労働大臣の発言には、ドイツで就業時間外に送られる仕事メールが問題視されている背景がある。
2013年12月、フランクフルトの新聞「フランクフルター・アルゲマイネ」に掲載された記事によれば、ドイツ情報通信業界団体Bitkomの調べで、会社員の約3人に1人が、会社からの連絡を終日受けられる状態にあることが明らかになったという。
4人に3人は、就業時間外でもパソコンやスマホで会社と連絡を取っているそうだ。モバイル機器の普及で、管理職ではない一般社員が24時間スタンバイ状態に置かれているといえる。連邦労働省によれば、精神的疾患を抱えた労働者は1980年に2%だったのに、現在では11%に上るという。
ドイツ人は、仕事とプライベートをはっきりと区別する人が多い印象があった。しかし、就業時間外に部下にメールを送る上司はいるという。また、強制されていなくとも、絶えずメールチェックをしてしまう社員もいる。
■病気をきっかけに、退社後は一切仕事をしない生活に
「この1〜2年は、就業時間以外にメールチェックはしません」と話すのは、現在医学技術関係のメーカーで、医学技術開発データベース管理者として勤務するゲラルド・ハッケさん。
最初の職場では、1日14時間は働く社員だった。当時はコンピュータシステムのコンサルタント兼ホテル関係のソフトウェアのデータベース管理者としてヨーロッパ中を飛び回り、メールチェックを昼夜欠かさず、自宅でも仕事をしていたという。顧客からの要請や緊急事態が多く、それに応じようと長時間労働が日常化していた。
ある日、心筋梗塞で倒れた。そこから「仕事とプライベートをきちんと分けよう」と決心し、転職。専門性の高いIT関係の知識を活かせる職場に移り、現在の会社は4社目に当たる。転職の際には、一定の時間で終えられる職種を選ぶようにし、少しずつ仕事を減らしていった。会社とは、就業時間や業務領域などを明確にした契約を結んでいる。
現在の職場はフレックスタイム制で、午前7〜10時までの間に始業し、合計45分の休憩を含めて1日8時間45分をオフィスで過ごす。ハッケさんは通常9時に出社し、18時頃で仕事を切り上げている。1日8時間で仕事を終えられるように、効率的に働くようになったと話す。
今の仕事では、以前のように緊急の案件で顧客から連絡が入ることはないし、上司には退社後のメールチェックは不要だと言われている。ハッケさんは、22時〜翌朝7時までの間は、プライベートの分も含め、携帯電話にはメールが届かない設定にしているそうだ。
「もし夜にメールを読んだら、それで頭の中がいっぱいになってしまいます。以前はLINEもよく見ていましたし、Facebookもオンラインにしていました。でも今は、どちらもほとんど使いません」
ハッケさんは、自身の経験から「メールの数は減らせます」と言う。重要なのは、メールの重要度を自分で判断すること。重要度に合わせて返信すれば、メールは減らせるという。無駄なメールが減れば、仕事時間の短縮にもつながる。
「オフィスを出たらメールチェックも含めて、仕事から離れます。おかげで家族との時間もたくさん取れるようになりましたし、夜はぐっすり眠れます」とハッケさんは微笑む。仕事とプライベートをきちんと分けることで、どちらの時間も充実したといえる。
休日に公園でくつろぐドイツの人たち
■社員の不安を取り除く、ドイツの大手自動車メーカーの取り組み
「就業時間外でも会社からのメールに対応しないと、昇進に響くのではないか」という不安は、日本だけでなくドイツにもあるが、そんな不安を取り除き休息を促す取り組みをしている企業もある。
冒頭で紹介した2013年12月の「フランクフルター・アルゲマイネ」紙によると、フォルクスワーゲン社では3500人以上の一般社員に、社用のスマートフォンを渡しているが、午後6時15分から翌朝7時までの間は、サーバーを停止してメールチェックをできない仕組みにしている。
また、ダイムラー社では、社員が休暇中の間に受けたメールは、自動的に消している。送信者には、その旨を説明したメッセージが返信される。企業がそこまで対応して初めて、社員は何のプレッシャーもなく仕事から解放されるのかもしれない。
これはドイツの自動車メーカーの事例だが、このように一定の職種や職階、業界などで、退社後はメールをチェックしないことが当然になれば、誰もが安心して休めるのではないか。
仕事とプライベートをどう区切るかは、それぞれの仕事内容や考え方によって異なるだろう。ドイツでも重要なポジションでは、一般社員とは異なる契約で、時間に関わらず働く人もいる。
筆者はフリーランスなので、時間の区切りが付きにくいし、敢えて明確に区別しないようにしている。
仕事で得た経験がプライベートを充実させたり、その逆もあるからだ。仕事になるかどうかわからない事柄でも、興味があれば話を聞いたりして時間を割く。それが人生を豊かにすると思っている。
しかし、いわゆるデスクワークをする時間は、目安を設けたほうがいいのかもしれないと思えた。そうでないと時間があるだけダラダラと続けてしまい、その結果仕事の質が下がる恐れもある。
職種に関わらず、メリハリのある生活は、仕事とプライベートの両方を充実させる秘訣なのではないか。退社後にメールの返事をしたところで、ストレスがたまり、仕事の質が下がれば意味がない。
社員が終業後に心身共に仕事から解放されることは、結局のところ企業にとってメリットがある。ドイツの企業はそう考え始めているように見える。
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