香港の労働団体のSACOMは1月11日、ファッションブランド「ユニクロ」の製造を請け負う中国企業2社の労働状況に関する報告書を発表した。報告書によると、工場では労働時間や賃金について労働法に違反する実態が見られたうえ、異常に高い気温やフロア全体を流れる排水などで正常ではない作業環境となっていた。報告書は、ユニクロを運営するファーストリテイリングに対し、製造業者を適切に援助し、労働環境の改善を促すことなどを勧告している。
この調査は、SAMCOの調査員が2014年、ユニクロにニット生地とアパレル製品を供給する主要な下請企業のPacific Textile Ltd.(以下、Pacific)と、Donguang Luenthai Garment Co. Ltd.(以下、Luenthai)の中国の工場に潜入。一般労働者として働きながら工場の実態を中心に調査を行った。日本を拠点に活動する国際人権NGOのヒューマンライツ・ナウも調査に協力した。
報告書に掲載された主な内容は次の通り。
■最低賃金で休みは月数日、賃金を少なく支払うなどの法令違反も
PacificとLuenthaiの基本給は広東市と東莞市における最低賃金だった。1人あたりの1日の平均労働時間は11時間。この状態でPacificでは月28日、Luenthaiでは26日、働いていた。1カ月を30日で計算すると、1月あたりの休みはPacificが2日、Luenthaiでは4日しか無いという状況だ。
労働法では時間外労働は月に36時間を超えてはならないと規定されているが、Pacificでは134時間、Luenthaiでは112時間となっていた。Pacificでは「(わたしの)時間外労働時間は119.5時間です」と書かれた「時間外労働の任意申請書」に署名するよう、要求される労働者もいたという。
さらにPacificでは、休日労働時の時間外労働に対する残業代は正しく支払われていなかった。中国の労働法で定められた休日労働時の時間外賃金は、基本給の2倍で計算されなければならないが、Pacificでは1.5倍で計算されていた。
■劣悪な作業環境
Pacificの織物工場のフロアでは、夏季の室内気温は約38度にまで達するが、エアコンはない。聞き取り調査に答えた労働者は「あまりの暑さに夏には失神するものもいる」、状況は「まるで地獄だ」と話した。企業からは1日7ドル、月に100〜150ドルなどの高温手当てが支払われる場合もあるが、労働者は「実際無意味に等しい」と言う。
上半身はだかで織物工程の問題を直しているあいだも、労働者は汗をかいている。
また、Pacificの染め部門では、作業場全体に排水があふれている。生地を染めるために様々な種類の化学物質や溶剤、染料などが使われており、強い刺激臭が漂っている。工場側は労働者にマスクやグローブ、専用スーツなどの防護キットを提供しているが、実際に使用するかどうかは労働者に任される。作業場の室温は40度という高温に達するため労働者は着用を選ばず、結果的にはこうした防護キットが全く使われていない。
さらに、染めに利用される化学物質などは整理整頓されておらず、毒性のある化学物質が保管されている部屋にも排水が流れ込んでいるという。
作業現場全体にあふれている排水
作業現場全体にあふれている排水
■厳しい罰則システム
品質を満たさないような商品を生産した場合などは、労働者には罰金制度が課される。Pacificでは、商品に品質上の欠陥が見つかった場合のほか、織り機によごれがあったりした場合などにも罰金がある。また、1日の労働時間が長いにもかかわらず、食事休憩以外の機会に昼寝をとった場合にも、罰金となるという。
Luenthaiでは、労働者が8分遅刻した場合は、2時間分の給料が差し引かれる。また、品質検査のためにユニクロが工場を視察する場合もあるが、このとき何か少しでも問題があった場合は、ユニクロは製造責任者を追及するが、その製造責任者はすぐに労働者たちを責める。その際にも罰金が差し引かれる。
■機能しない労働組合。暴力団によるストライキの鎮圧も
このような労働環境の改善は、本来ならば労働組合を通じ企業に改善を求めることができるが、2つの工場には、労働者が企業側に意見を提出したり苦情を申し立てることができるような機関やメカニズムが用意されていない。Pacificでは労働組合の組合長を管理部門長が兼任しており、様々なレジャーや福利厚生を体系化するだけの組織に留まっている。Luenthaiにおいては、工場レベルで労働組合が存在しない。
Pacificでは仕上げ工程部署の労働者たちが待遇改善を求めて小規模なストライキを行ったことがあった。しかし、企業側側は暴力団を雇い、彼らに暴行を加えるなどしてストライキの動きを鎮圧させようとしたという。
■ファーストリテイリングの対応は?
なお、ヒューマンライツ・ナウが2014年12月、この報告書をファーストリテイリング宛に送付し事実関係についての確認を求めたところ、2015年1月9日、ファーストリテイリングからメールで回答があったという。その内容についてヒューマンライツ・ナウは「同社は事実関係について、同年1月9日付電子メールにて『ごく一部ではありますが報告書の内容に誤解ではないかと思われる部分もございました』とするものの、それを越えて事実関係の訂正要請はありませんでした」と記載している。
ファーストリテイリングは11日、SAMCOの報告書を受け、「中国のユニクロ取引先縫製工場および素材工場における労働環境に関する指摘について」とする文章を発表。2014年12月にヒューマンライツ・ウォッチから報告書の提供を受けて、すぐに当該2工場に対して独自の調査を実施したことを明かした。調査の結果、労働時間については報告書のとおりであり、同社は直ちに下請け企業に対して是正を強く要請。今後1カ月以内に改善状況の確認を行い、改善が認められない場合には、取引の見直しを含め厳正に対処するとしている。
一方で、報告書の中で「一部事実と認められなかった点」や、SACOMとの間で「認識に相違がある点」もあるとしており、引き続き下請け企業と協力して調査をすすめるとともに、SAMCOとの早期の面会も考えているという。
ファーストリテイリングの広報担当者は13日、ハフポスト日本版の取材に対し、「年末から1月9日までに、ヒューマンライツ・ナウ側とも何度もメール等でやりとりをしたが、あいにく都合がつかず面会することはできなかった」と話し、1月9日に一方的にメールを送ったわけではないとしている。
また、「報告書は重く受け止めた。幅広い内容に当たるため、調査はまだ途中段階だ。一つ一つクリアにして、分かり次第、報告したい」と担当者は述べた。
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