原油価格の急落と経済制裁によって、ロシア経済が崩壊の危機に瀕している。「ウラジーミル・プーチンのような独裁者には自業自得だ」と思う人もいるかもしれないが、この影響は世界中に波及するおそれがある。
ロシアの通貨ルーブルは12月16日、アメリカドルに対し史上最安値を前日に続いて更新し、数カ月にわたって続いていた売りが加速した。
ロシア中央銀行は16日未明、投資家がロシアから資金を引き揚げるのを防ぎ、事態の悪化を食い止めようとして、大幅な利上げを行った。政策金利は10.5%から17%に引き上げられたが、これは1998年のロシア財政危機以降で最大の引き上げ幅となる。
「1ルーブルで何ドルが買えるか」を表したグラフ。
この措置に、何らかの効果があったかどうかは判断が難しい。しかし、効果がなければ、ロシア中銀は、ルーブル安に歯止めがかかるまで対応し続けなければならず、そのためには再び利上げを行うか、またはロシアから流出する資金の流れを断ち切るという選択を行う可能性がある。ただどちらの選択肢も、すでに深刻な状況にある、借入と経済成長を阻害しかねないため、望ましいものではない。
特に原油価格が1バレル60ドル前後で推移するようであれば、2015年の国内総生産(GDP)は4.5%も縮小するおそれがあるとロシア中銀は15日、発表した。
原油は、16日のニューヨーク先物市場で1バレル54ドル前後で取引され、8月の1バレル100ドル付近という価格から急落している。ロシアは、サウジアラビアに次ぐ世界第2位の原油輸出国だ。そのためこの原油価格の急落が、ロシアから経済力の主要な源泉を削ぎ取っている。そしてそこにクリミア半島とウクライナにおけるプーチン大統領の行動によって欧米から課せられた経済制裁も加わって、ロシア経済は急減速している。
ロシアの最近の行動を考えると、ロシアはこの「ルーブルの暴落」という罰を受けるに値する、と思うかもしれない。しかし、この事態は、アメリカをはじめとする世界経済にも影響する可能性があるのだ。1998年のロシア財政危機では、影響を受けたアメリカのヘッジファンド「ロングターム・キャピタル・マネジメント」(LTCM)が破綻し、結果的に金融システム全体が揺らいだ。当時のアメリカ連邦準備理事会(FRB)はLTCMの救済に乗り出さざるを得なくなり、各銀行にも支援を要請した。しかし今直面しているルーブルの暴落は、この1998年の大混乱より悪い事態になりそうな様相を見せているのだ。
tradingeconomics.com
このグラフは、最初のグラフとは逆に、1ドルに対するルーブル相場を表す。線が上にあるほどドルが強く、ルーブルが弱い。グラフはtradingeconomics.comより。
とはいえ、結論を下すには時期尚早と言えるだろう。1998年のロシア財政危機で、ロシア中銀が引き上げた政策金利は150%だったと、「Financial Times」のジョセフ・コッテリル記者は指摘している。現在の状況はまだそこまで絶望的ではない。それでも、いつどこへ危機が波及するかはわからない。
1998年に危機の余波を受けたのは、お粗末な大手ヘッジファンドだったが、2014~2015年にリスクにさらされるのは、相次ぐ危機に見舞われ、すでに経営状態が悪化しているヨーロッパの銀行かもしれない。
原油安とロシアの不安定性に対する懸念から、アメリカの株式市場にも動揺が広がりつつあり、過去7日間の取引のうち5日間で株価が下落している。もし市場の不安感が長期間続いたり、歯止めがきかなくなったりするようであれば、経済活動に悪影響が及びかねない。
現在のところ、アメリカ市場での売り注文は落ち着いている。日本から中国、ロシア、ヨーロッパまで世界中で景気が落ち込む中、アメリカは持ちこたえる、とエコノミストらは見ている。原油安が経済を後押しすると見られるからだ。だが、原油安の副作用として恐ろしい事態が起こりうることも事実だ。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを掲載しました。
[日本語版:湯本牧子/ガリレオ]
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