CIAの拷問レポート、公表をめぐるバトルが過熱 背景には共和党の調査委員会支配

CIAの拷問に関する報告書が公表された背景には、CIAと情報委員会の間で公表をめぐり激しい確執と、共和党と民主党の主導権争いがあった――。

アメリカの上院情報特別委員会は12月9日、中央情報局(CIA)が2001年の同時多発テロ以降、ブッシュ前政権下でテロ容疑者らに過酷な拷問を行っていた問題について、およそ500ページにのぼる報告書の概要を公表した。その報告書には、9/11以降、CIA(中央情報局)が行った拷問プログラムに関して書かれている。その背景には、CIAと情報委員会の間で公表をめぐり激しい確執と、共和党と民主党の主導権争いがあった――。

5年間に及んだ調査をもとにしたこの報告書によると、上院情報委員会はジョージ・W・ブッシュ政権下で政府機関の職員たちが行った組織的・個人的な拷問の凄惨な詳細を明らかにしている。拷問は政府が婉曲的に「強化尋問」と表現していた。そのプログラムでは、テロ容疑者を逮捕し、海外の秘密収容施設に送られ、水責めなどの拷問などを受けていた。

こうしたCIAの拷問はこれまでも非難を受けていた。その手法がアメリカが標榜する民主的なものではなく、国家の価値基準からかけ離れたものだったからだ。過酷な虐待と非人道的な扱いを受け、しかもその中には最終的にテロ組織に関与していないことが判明した人も含まれていたという批判がある。

この6300ページの報告書で明らかになった実態は、CIAの歴史の中で最大の汚点となりそうだ。上院の調査委員たちは、CIAの拷問が誤った方法で行われ、CIAがこれまで議会に報告していたよりもはるかに広範囲に行われていた、と述べている。

■ 根底から覆されたCIAの主張

新たに公表された文書は、過酷な取り調べの対象とされた拘束者はごくわずかだ、というこれまでのCIAの主張を根底から覆している。CIAはこれまで、拘束者は100人足らずで、水責めなど問題になる手法が取られたのはこのうちの1/3に満たないとしてきた。しかし、調査委員会は、CIAが実際は119人を勾留し、そのうち26人が違法な勾留であったことを明らかにした。また、このプログラムの対象者は限られているというCIAの主張に反して調査委員は、拷問はこれまで考えられていたよりも広範囲に行われていたと結論づけた。

報告書では、中堅クラスのCIA職員が行ったおぞましい拷問の実例をいくつか挙げている。その中にはほうきの柄を使って性的暴行の脅しを行ったり、直腸への栄養注入を行ったことなどが含まれており、拷問は数日から数週間続けられることもあった。そして、水責めを受けたのは3人の拘留者だけだというこれまでのCIAの主張に反して、上院の報告はさらに多くの拘束者に水責めが行われた可能性があるとしている。

また報告書は、水責めに使われるための道具が、CIAがこれまで水責めを行っていないと主張してきた秘密軍事施設や秘密収容所にも存在していることを指摘している。

一方で調査委員会は、CIAの拷問計画の倫理性やアメリカへの国際的な信頼に与える影響よりも、拷問にはたして効果があったか、という議論に重きを置いている。調査委員会は20件の拘留車の調査を行い、水責めなどの過酷な取り調べが、価値ある情報につながらなかったという検証を行った。

調査委員会の委員長、ダイアン・ファインスタイン(民主、カリフォルニア州)上院議員は12月9日、「調査委員会はCIAが「強化尋問」がテロ対策に最も目立って効果をあげたと考える20件の拷問のケースを調査し、それぞれのケースに対するCIAの主張は根本的に間違っていると結論づけた」と述べた。

調査委員会のダイアン・ファインスタイン委員長

■ 「効果がなかった」拷問、CIAは正当化

いくつかのケースでは、拷問によって得た情報はテロの脅威を抑えるのに役に立たないものだった。他の例では、拷問にかけたことで拘留者が作り話をしたり、誤った情報を伝えたりした。またさらに、拷問で得た情報がすでに他の取り調べ方法で得たものだったこともあった。

報告書では、こうした手法は効果がなかったとしている。CIAはこれまでも議会とホワイトハウスに対して、拷問は情報戦に勝利するために役立っていると欺いてきた。報告書はその一例として、2011年にアルカイダ指導者オサマ・ビン・ラディンを殺害する際の情報入手に役立ったとするCIAの主張は間違いだったとしている。報告書はこの事例に10ページを割き、アメリカがビンラディンに関する情報を得たのは拷問によってではなく、ある拘束者が海外の拘置所にいた時に得られたものだとしている。

しかし、CIAはこの結論に反論している。CIAは調査委員会の概要が公表された際におよそ100ページの公式回答書を発表し、CIAは厳しい取り調べの手法は効果的だったとしている。

回答書の中でCIAは「拘置所内で拘束者から得た情報の積み重ねで、CIAが敵側への戦略と戦術的理解を向上させ、今もなお対テロ活動に情報を提供し続けることができている」と述べている。

また、「CIAが譲歩して拷問を禁じたとしても、厳しい取り調べ以外の方法で有益な情報を得られたかどうかはわからない」と主張している。

「テロリストの企てを崩壊させ、逮捕し、アルカイダを壊滅させるために、拘束者からの情報がないまま同様の成果を上げられたかどうかは想像できない。強化尋問の手法をとらずにCIAやCIA以外の尋問者が拘束者から同じ情報を得られかどうかも予見できない」と回答書で述べている。

現在、CIAは取り調べで拷問することに賛同していない。それよりも、懸念すべきは批判に対して拷問という手段自体を擁護しているし、拷問が行われた範囲や評価について議会やホワイトハウスを欺いたことだ。

また、CIAは上院の申し立てに対しても強硬に反論している。上院は、ホワイトハウスが許可する限度を超えてスパイが活動をしていたと申し立てている。CIAは、強化尋問は政府が認可したプロブラムの一部であり、ブッシュ政権の命令で実施されたものだと述べている。

「報告書に書かれたイメージでは、組織ぐるみで議会、ホワイトハウス、議会、司法省、そして司法省管轄の観察総監室からの監視を意図的に欺き、日常的に抵抗してきたように描かれているが、それは記録とは合致しない」

上院の報告では、主に20項目の結論について述べている。CIAは議会とホワイトハウス、司法省を欺き、プログラムに対して内部からの批判を無視し、ブッシュ政権時のホワイトハウスが与えた法的権限をはるかに超えた拷問を行った。

■ オバマ大統領「我々の価値観に矛盾する」

オバマ大統領は9日の声明で次のように述べた。「報告書で明らかになったことは、アメリカ国外の秘密収容施設でテロ容疑者に行われた心が痛むような強化尋問プログラムだ。この報告書は、私が長年持っている考えさらに裏付けるものとなった。こうした過酷な手法が、国家としての我々の価値観に矛盾するばかりか、我々の拡大する対テロ活動や国家安全保障にも役立っていない」

オバマ大統領はさらに「そのため、私は引き続き大統領としての権限を行使し、我々が二度とこのような手段をとらないようにする」と付け加えた。

CIAのジョン・ブレナン長官は9日、公式声明で次のように述べた。「このプログラムを実行しても、我々が定めた高い基準にも、そして我々に対するアメリカ国民からの期待にも応えられなかった。CIAとして、我々は今回の過ちから学んだ。これによって、前任者たちと、私は数年かけて様々な是正措置を実施し、組織的な欠陥の改善に対処した」。

CIAは現在の強化尋問プログラムを改定するつもりはないという。現在のプログラムがオバマ大統領から指示で制限されたものだからだという。「ブレナン長官の明確な意志で、CIAの職員は大統領からの指示を忠実に順守し、長官はそれを完全にサポートする」と公式回答書で述べられている。

また、回答書には「CIAはこうした過失に責任を負う。そこから学び、何年にもわたって是正する行動を数多く行ってきた。さらにCIAを改革する努力は継続し、本日、上院情報員会(SSCI)の報告に対する我々の反省とする」と書かれている。SSCIに関しては、委員の名前を全員記載している。

■ 共和党に調査委員会が支配される前に公表へと踏み切る

報告書を公表する際には、CIAとSSCIの間で公表範囲をめぐってぎりぎりまで協議が続き、両者の間で激しい確執が生まれた。

確執は上層部の間で広がった。情報委員会が今回のプログラムに関わったCIAの中堅職員を特定するために使った仮名を編集するように、上層部が執拗に要求したからだ。対立は数カ月間に及んだが、ファインスタイン委員長は最終的に仮名を黒く塗りつぶすことを承諾せざるを得なかった。共和党議員の多数派が情報委員会に介入して報告書の動向を支配できる1月になる前に、報告の概要を公表するためだった。

調査は当初、2009年にファインスタインによって依頼され、民主・共和両党が連携する形で当時のキットボンド上院議員 (共和党、ミズーリ州) らとともに開始した。しかし、調査開始から数カ月後、共和党議員はこの調査から撤退した。

9日に公開された概要は、上院情報委員会の報告書全体のうち公開されるごく一部に過ぎない。ファインスタイン委員長は2015年4月に報告書の全体を公開する意向だが、共和党はいったん情報委員会をコントロール下に置いたら、民主党主導で行われた調査の結果をさらに公開する気はないようだ。

報告書の問題は、劇的な展開を見せている。CIAとファインスタイン委員長の間で行われた非公開の議論は、個人的な非難の応酬につながり、司法省が犯罪捜査を要求する照会を行う事態となった。CIAはファインスタイン委員長のスタッフが2014年の初頭に、調査の対象となったCIAの施設から極秘情報の資料を持ち出したと訴えた。一方、ファインスタイン委員長は調査員に報告書作成の権利があるとして反論し、さらに院長のスタッフが報告書作成のために使っていたコンピュータをCIAが不正に閲覧したとして反対に提訴した。

司法省はCIA側、ファインスタイン側双方の訴えに対し、調査を拒否した。CIAは不正にコンピュータを閲覧したことは認めた。そして結論を出すために、説明責任についての独立の審査委員会を設けた。場合によっては、当事者のCIA職員が出席を求められる。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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