ニコニコ動画などのサービスを運営するドワンゴ(東京都中央区)が12月1日、社内に保育施設「どわんご保育園」をオープンした。100平方メートルの施設に、満1歳から2歳の3月までの乳幼児を9時から19時まで保育。育児休業取得している社員の復職支援を行い、より社員が働きやすい環境を整えるという。次々と新たな展開をみせるドワンゴだが、9月に第一子である長女が生まれたばかりというドワンゴの川上量生(かわかみ・のぶお)会長に、「どわんご保育園」設置の真意を聞いた。
■「簡単にいうと公私混同」
−−今回、「どわんご保育園」を設置する理由を教えてください。
「簡単にいうと公私混同なんです(笑)。でも一応、言い訳をいうと、数年前から社内に託児所を作ろうという話は言い始めていました。ただ、その時は社内から利用者を募ったらゼロだったので断念しました。
その後、自分に娘が生まれるということが分かってから保育園についていろいろと聞いていると、待機児童問題が本当にひどいですよね。入園させるために市役所の人と仲良くなったり、離婚してひとり親になって入園条件の点数を上げたり、そんなことまでやっている人もいる。めちゃくちゃですよね。これはひどいなと思って。
それで、うちの会社も結婚した社員が増えてきていて、利用者が集まりそうだと分かったので、『どわんご保育園』を作りました。そういう経緯ですね(笑)」
−−話が冒頭で終わってしまいました(笑)。数年前に託児所を作ろうというお話は、川上会長からの発案だったのでしょうか?
「女性社員の中で、そういう声が多かったんです。『託児所がないと働けない』とか。『出産して休職する人の中には優秀な人も多いのでもったいない、託児所があれば復職できる』という声をよく聞きました。でも、いざ作ろうとすると『いや別に…』って希望者がいなかった。僕はその時、憤慨したんですけどね(笑)。
でも、今回は全社的にアンケートを取って、必要性があるのが分かった。『社内保育施設ができたら預けたいか?』と聞いたところ、『預けたい』という回答が6割ぐらい。『社内保育施設があった場合、働くインセンティブが上がるか?』という質問では、『上がる』という回答が7割でした。
企業内に託児所を作る上で、通勤ラッシュの中、子どもを会社まで連れて来られるかという問題がありますが、うちの会社は裁量労働制や完全フレックスタイム制なので、育児時短で復職しても出社時間が選べるし、出社時間を調整しやすい社員が多いので、関係ないなと。時差出勤ができるとすれば、これは成立すると思いました」
■「子育てのコストは社会が負担するべき」
−−川上会長も一緒にお子さんと通勤して、「どわんご保育園」を使いますか?
「僕の子どもは生まれたばっかりなので、預けられないんですよね。0歳児の保育は規制が厳しくて、『どわんご保育園』は1歳以上じゃないと預けられませんので、子どもが1歳になるまでには、他の保育所に預けてしまっていると思います」
−−もしかして、川上会長は今、保活(保育所に入れるために保護者が行う活動)中ですか?
「保育園の見学に行ってますよ。でも、本当にひどい状況ですね。保育園の説明会を受けて、そこへ申し込んでも入れるかどうかはわからない。ウェイティングリストがあって、もう100人以上待っていますとか、そんな話ばっかりですよ。保育の内容以前の話です。
−−本来であれば、自分の子どもに合った保育施設を選びたいところですが、待機児童問題で、「とにかく預けられればどこでもいい」というところにまで落ちてしまっていますね。
「子どもが生まれて思ったのは、子どもって好奇心が強いですよね。好奇心が強いから、飽きたといって泣いたりする。そういうのを見ていると、保育施設もただ預かるだけじゃなくて、預かった状態でどういう刺激を与えられるかで、知能の発達が変わってくる。保育の内容も重要だと思います。
でも、今は預けるのも大変だし、預けられたとしても、希望に沿わない場合もある。難しいですね。色々と勉強になりました。1人生むのも大変だけど、2人目はもっと大変だし。2人目を生むと職場復帰は難しいっていうじゃないですか。本当にそうだなと思いますね。どうしたらいいんでしょうね?」
−−以前、ジャーナリストの猪熊弘子さんがおっしゃっていたのですが、待機児童問題が起こる背景は、「子どもの権利」が日本ではきちんと法制度化されていないからだと。義務教育以前の子どもには、家庭以外の居場所が法律的に義務づけられていないんですよね。
「子どもの権利ですよね。保育園は本当はお金も取っちゃだめですよね、少子化の問題をいうのであれば。人間ってもともと、群れで子どもを育てる生きものなんだと思うんです。だから、核家族化が悪いですよね。夫婦2人で育てるのは、そもそも無理がありますよ。
実家のサポートがないと現実問題、厳しいし、一人で子どもの面倒だけみていたらノイローゼになるのは決まっていますから。核家族が子育てに向いていない。近世までは大家族のコミュニティで育てていたわけですから、核家族という制度をいまの社会がとってしまっている以上、社会が面倒みるのが筋でしょう。大昔でも、母親一人で育てるのは難しかったのに、今のお母さんたちにそれを求めたら、そりゃあ少子化になりますよ。産めないですよね。理性があったら産めないです。
子どもを育てながら働くのが難しいのであれば、やっぱり社会がそこをコスト負担するべきじゃないでしょうか。ですから、とりあえずうちは、社員のために託児所ぐらいは作ろうかなと。それで、全部の問題が解決するわけではないのですが、それぐらいはやろうかなと思っています」
■「子どもは動画や携帯を見ちゃだめ!」
−−「どわんご保育園」が他の託児施設と違うところはあるのでしょうか?
「その特色は出したいとは思っていて、いろいろ考えています。知育的なことができれば……」
−−ニコニコ動画を見せたりするんですか?
「子どもが動画なんか見ちゃだめですよ! 携帯も見せてはだめです(笑)」
−−ニコニコ動画はある程度、大きくなってから見ましょうということですね(笑)。川上会長ご自身は、お子さんが生まれてゲームやったり、ネット見たりといった生活は変わりましたか?
「変わったといえば、変わったんじゃないでしょうか。でも、あんまり自覚していないんです。むしろ、生まれる前の方が、生活が変わるだろうなと思ってたんですけど、具体的に何が変わったかといわれると、僕はもともと引きこもりなんで、家にいる光景に子どもが1人増えただけなんですよね。
生まれる前は、1人になる時間がなくなるなということに対する悲しみがあった。で、生まれるじゃないですか。『1人になるとかなにそれ?』という感じ。子どもがいない光景がむしろ考えられない。想像している生活に変わったんですが、だからなに?っていう感覚ですよね」
−−オムツを替えたり、ミルクをあげたりもしていらっしゃるのでしょうか?
「普通にやってますよ」
−−沐浴(新生児のお風呂)も大丈夫でしたか?
「僕、想像の中で100回ぐらい、赤ちゃんを殺してるんですよ。赤ちゃんを受け取った瞬間に首がゴキって折れたり、落としたり、シミュレーションの中で何回も殺しているんです。だから怖かったんですけど、病室に泊まって生まれた時から一緒にいたら、瞬間で慣れました。怖かったのは最初だけで、初めて抱っこしたら、すぐに慣れました。意外と丈夫ですし(笑)」
開園した「どわんご保育園」。まずは4人の子どもたちがここに通うという
■「社員は死ぬまで独身で働いてもらった方がいいけど」
−−これまでは主に「公私混同」の「私」部分をお伺いしたのですが、「公」もお聞きしたいと思います。ドワンゴも現在、社員数約1000人でうち女性も2割を超え、会社として成長して出産や子育てをする社員が増えてきているそうですが、そうした人たちが働きやすい環境を整備するという目的もありますよね。
「どういうふうに説明するのかが難しいのですが、企業の合理性を考えたら、社員は死ぬまで独身で、プライベートなしで働いてもらった方がいいかなと思ったりするわけですよ(笑)。子どもができると、どうしても仕事人間としての性能って落ちますよね。そうすると、会社としては、社員が子どもを生まないほうがいい。
でも、だからといって死ぬまで独身でと言うのもそれは人の道としてどうなんだというのがあるじゃないですか。その中で、肯定的な理由を探していくとすると、ひとついえることがあります。エンジニアに関する限り、結婚どころか彼女ができると、大体パフォーマンスが下がるんですよ」
−−えっ。彼女ができただけでですか?
「そんなの下がるに決まってますよ。ただ、そんな繊細なエンジニアにとっては、精神の安定という意味で、結婚や家族を持つということは瞬発力が下がるけど、長期的にはプラスなんじゃないかと思っています」
■「会社にいろんな人がいないとサービスは作れない」
「それから、僕たちがやっているサービスは、どういう人たちに向けてのサービスなのかを考えると−−−『二次元の彼女さえいれば、一生独身でもかまわない』というお客さんも当然、いますが−−−さまざまなお客さんがいるわけですから、会社の中にもいろんな人がいないとサービスは作れないと思う。今の世の中と向き合わないといけない仕事をしているので、そこは乖離してはいけないと思います。これが、公私混同の公の部分ですよね(笑)。
損得うんぬんよりも、正しいと思うことをやりたいと思います。いろんな目的で会社を作った人がいると思うんですけど、ドワンゴは、ネットの中でネットをやりすぎて、社会的には排除されてしまったような人たちに働く場所を与えるというのが最初の目的でした。結果的には途中で断念したんですが(笑)、儲けを目的にする会社は、世の中にたくさんあるじゃないですか。そういう中に入っていって、競争するのは大変。競争しないことが、会社の寿命を伸ばすことになっている。目的がずれたところにある方が、逆に世の中の支持が集まって生き延びやすいんじゃないかと思っています」
−−「どわんご保育園」が社内にあることで、社員にも刺激になりそうですね。
「社員みんなに、子どもの相手をさせたいですよね。託児所が身近にある環境で、社内も変わると思う。実際、『どわんご保育園』の開設が決まって、子どもを持つことを検討したカップルも社内にいると聞きました。そういう社員をサポートする姿勢を会社が示すことができればいいと思っています。少子化って日本全体の問題ですけれど、特にドワンゴだけでみると、出生率がめちゃめちゃ低そうじゃないですか(笑)。そこは上げていかないと!」
−−保育園が終わったら、今度は小学生で延長保育がないなどの「学童保育問題」が出てきます。数年後には、ドワンゴで学童保育施設もぜひ(笑)。
「子どもが大きくなってその時に気づくんですよね、その問題に。完全に公私混同です(笑)」
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