2014年もあとわずか。「来年の年賀状はどうしようか」と考える時期ですが、わざわざ年賀状を送らずに、メールやSNS上でのあいさつで済ませる人も増えています。
しかし、便利なデジタルメディアが発達した今の時代に、年賀状を送ることのメリットが見直されています。年賀状、メール、SNSをうまく組み合わせることで、ビジネスにも役立つ活用ができるのです。
ハフィントンポスト日本版のブロガーで、コピーライター/クリエイティブディレクターとして活躍されている境治氏も年賀状を活用している一人。テレビやソーシャルメディアなど、さまざまなメディアでのコミュニ ケーション論を展開する境氏に、メディアとしての年賀状のあり方と活用法を伺いました。
■年賀状は、日本の伝統的なソーシャルメディア
――メールやFacebook、TwitterといったSNSなど、デジタル上のコミュニケーションツールが発達している現在、年始のあいさつもメールだけで行う人が増えています。そんな中で、年賀状を送るという従来の方法、言い換えれば、はがきという「モノ」を使ったコニュニケーションはどのように位置付けられるのでしょう?
「モノ」を使ったコミュニケーションが重要だと実感したのは、3年前に紙の書籍を出した時でした。書きためていたブログをまとめたものだったのですが、大幅に書き換えたというわけではなく、内容的にそれほど差はありませんでした。それでも手に取って読める紙の書籍だと、読者も重みを持って受け止めてくれることを痛感しました。
年始のあいさつをする時も、はがきの年賀状を送った時の方が、相手は恭しく受け取ってくれます。メールやSNSなど、デジタル上であいさつするときと同じ文言を使ったとしても、手に取れるはがきだと受け止め方も変わってきますね。
その一方で、ここ数年「年賀状もソーシャルメディアの一つではないか」と気付いたのです。ソーシャルメディアを社交的な交流手段と考えれば、デジタルメディアだけでなく、はがきや手紙といった紙も含まれることになります。そういった意味で「年賀状は日本の伝統的なソーシャルメディア」だと感じてます。
――年賀状がいいのか、メールがいいのかという二者択一ではなく、どちらもコミュニケーションツールとして等しく活用した方が今の時代にふさわしい、というお考えでしょうか?
両方活用する方が実は合理的なんです。私自身、ある時期に「年賀状はだんだん廃れてしまうのではないか」「年賀状は効率が良くないのではないか」と思っていて、私もいずれは年賀状を送らなくなるのではないか...と考えたこともあります。
しかし、「この人は年賀状であいさつしなければいけない」「この人は常日頃SNSで接点があるからはがきの年賀状を送らなくてもいい」「この人には年賀状もメールも送っておきたい」といった使い分けが決まってきて、むしろ年賀状は欠かせなくなりました。私とつながりのある人の関係は様々ですから、年賀状をなくしていい、ということにはならないんです。
メール以外にも、FacebookやTwitterなど様々なコミュニケーションツールが出て来た今だからこそ、年賀状という紙ならではの意義を改めて感じてます。これは、メールとはがきだけの対比だけでは分からなかったことです。SNSが登場したことで、プライベート・ビジネス問わず1対1の関係でFacebookやTwitter上での交流が生まれました。これは、はがきのやりとりと共通点があると気付いたんです。コミュニケーションはデジタルメディアの利便性だけがあればいい、というわけではないと分かったときに、年賀状などのはがきには利便性だけではないものの大切さ、強みがあると改めて知ることができました。
■ 年賀状、メール、SNSの組み合わせ方
――具体的にどのような使い分けをされていますか?
厳密に分類するのは難しいのですが、同じ友人でも、SNS上でつながるのがふさわしい人と、年賀状のやりとりを続けたい人に分かれます。年賀状のやりとりを続けたい人は、古い友人の場合が多いですね。
例えば、ある同級生とFacebookでつながっているのですが、彼はFacebook上で自分から発信することがそれほどありません。しかし、年賀状のやりとりをすると、「Facebookを見ているよ」「ブログいつも読んでいるよ」と書いてくれます。ちゃんと彼は見てくれているんだな、とその時初めて実感できるんです。
SNSの特徴は、私のように自分から積極的に発信する人間がいる一方で、自分から発信しなくても活用はしているという人も少なからずいる、ということです。そういう人とは、つながりをリアルに確認するために年賀状でのコミュニケーションが大切だと感じてます。
また、尊敬する目上の人に対しては、礼儀として年賀状をちゃんと出しておきたいと思っています。メールを送るとあいさつを軽くしていると見られてしまいかねないので、年賀状を送る場合が多いですね。
毎年、12月になると一人一人の関係性を考えながら、この人には年賀状を送ろうか、メールを送ろうかと決めています。それも、人とのつながり方によって毎年変わってくるんです。例えば、前の年までは年賀状を送らずにメールしていた人でも、メールやFacebookでのやりとりをしばらくしていなかった場合は、コンタクトをちゃんととっておきたいので、次の年には年賀状を送ることがあります。
――年賀状が送られてきたら、お返しの年賀状をしっかり書かなくては、という気持ちになりますから、双方向的になりますよね。
はがきも、メールも、FacebookやTwitterも、全てソーシャルメディアであるという観点で言うと、デジタルメディアはスルーしてもいい場面がありますが、はがきは、はがきならではの密なやりとりがありますよね。年賀状を送られたら「返さなくては」と気持ちになるのは、それだけつながりの強いソーシャルメディアだと言えるかもしれません。
年賀状って、どんな年齢になっても「誰から来ているかな」とワクワクさせられますよね。子どもの頃は、元日のポストに年賀状が届くのを楽しみに待っていましたし、仕事始めの日に届いた年賀状を見て「あ、この人から来ている」とうれしく思う気持ちもずっと変わらないものです。私には大学生と高校生の子どもがいるのですが、毎年「何枚来たかな」と気にするんですよね。だから若い人にとっても、非常にソーシャル性の高いメディアだと言えます。
――年賀状で年始のあいさつをする「モノ」のコミュニケーションは、ビジネス面で見ても有効なのでしょうか?
先ほど言ったメールと年賀状の両方を送っておきたい人の中には、ビジネス上で深くつながっておきたい人が多くいます。あなたは自分にとって大事な人なんだ、と伝える意味でも重要です。
ビジネス上のつながりがある人には、大体は職場に年賀状を送ることになりますが、仕事始めの日に年賀状が届いていることがとても大事だと思います。さらにメールも届いているという状況を作れば、仕事始めの時に恐らく大量に来ている年賀状やメールの中で埋もれずにしっかり確認してもらえることになります。
――はがきとメールで相乗効果が期待されるということですね。
マーケティング上の観点でも、広告を打つ時にテレビCMとネット広告を両方使うと好感度が上がる、とよく言われますが、年賀状とメールも両方使うことで印象度アップにつながると思います。
■ 年賀状はビジネス面で営業ツール以上の効果がある
――ビジネスパーソンが年賀状を送る場合でも、会社の上司や後輩に送る、あるいは取引先に送るなど相手もさまざまですが、境さんのご経験の中で気を付けていたことはありますか?
私がサラリーマンだった頃は、自分にとって大事な取引先には、会社が用意した年賀状よりも自分で書いた年賀状を出していました。会社の年賀状であればオフィシャル感はありますが、自分にとって大事な相手である、ということが伝わりにくいので、多少カジュアルなものになったとしても、自分ならではの年賀状を出した方がいいと思ったからです。
また、社内の人間と年賀状のやりとりをするのは面倒ではないか、あるいは社内の若い人たちに年賀状を送ったら疎ましく思われるのではないか、と考えたこともあったのですが、逆に若い人から個人的に年賀状をもらうと親しみが湧いてきて、「今度あいつを飲みに誘おうか」なんて思うこともありました。社内のつながりを深める効果を感じましたね。だから、若い人は先輩や上司に年賀状を送っておくと、人間関係を深めるという意味でプラスになるでしょう。
――境さんが年賀状を送る時には、どんな工夫をされていますか?
ハフィントンポストで定期的にブログを掲載するようになってから、文章の他にビジュアルとメッセージを組み合わせたイメージ画像を付け加えるようになりました。特にブログで「いいね!」を多くもらったイメージ画像は、自分にとってのシンボルになると思って、2014年の年賀状のキービジュアルにしたんです。さらに年賀メールにもこの画像をブログに掲載した他のイメージ画像と一緒に添付しました。そして画像をクリックすると、ブログにつながるようにリンクを貼りました。メールと年賀状の両方を送っている人には、「今、私はこんなことをブログで社会に問い掛けています」という意味を込めて、私のブログを読んでもらうようにしたのです。年賀状とメールを使って、私の情報発信基点であるブログに関心を集約させる試みでした。
境さんが2014年の年賀状"メール"に掲載した、ブログのキービジュアル
その結果、この年賀状とメールのおかげで、かなりの人にブログを読んでもらうことができました。実際に「ブログ読んだよ」「この記事読んでいましたよ」という反響を多くもらったので、とても有効なコミュニケーションだったと思います。デジタルとモノのコミュニケーションを結び付けたことで、印象がより深まったのでしょう。そしてこれまで私のブログを読んでいなかった人も、年賀状とメールで引き付けることができました。
SNSではさらに効果が波及しました。Facebook上でつながってはいるけど、普段はそれほどやりとりしていない人からもブログの感想が寄せられたのです。その人は私の同級生の友達なのですが、その同級生に年賀状とメールを送ったところ、私のブログをFacebookでシェアし、さらに効果が広がっていった面白い例です。
――年賀状がご自身のビジネスにつながったと実感したことはありますか?
年賀状を送ったらすぐに仕事につながる、ということはありませんが、仕事相手と年賀状のやりとりをすることでお互いに一定のリスペクトを確認し合えることができます。だから営業ツールとして年賀状を利用するのではなく、信頼し合える間柄であることを確認できれば、私は仕事が頼まれやすい人間になるし、私も相手に仕事が頼みやすくなるような関係になると思います。
――年賀状は将来的に、コミュニケーションツールとしてどんな位置付けになっていくとお考えでしょうか?
年賀状は必要なメディアであり続けると思いますし、デジタルメディアと共存していく関係が深まっていくにつれ、もっとお互いが連動できるようになっていくでしょう。誰もが今よりも簡単に「紙」と「デジタル」を連動させたコミュニケーションを作れるようになれば、個人の表現が今以上に多様化し、Only Oneの年始のあいさつを楽しむことができると感じてます。
境治(さかい・おさむ)
コピーライター/クリエイティブディレクター/メディア戦略家
ソーシャルテレビ推進会議・主宰
1962年福岡市生まれ。東京大学文学部を卒業後、1987年、広告代理店I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターとなる。1992年、日本テレビ巨人戦中継"劇空間プロ野球"の新聞広告「巨人を観ずに、めしが食えるか。」でTCC(Tokyo Copywriters Club)新人賞を受賞。翌年独立し、フリーランスとしてCM・ポスターなどの制作に携わり、TOYOTA、JR、日立製作所、フジテレビなど多方面のスポンサーを担当してきた。2006年、長年付き合っていた株式会社ロボットの経営企画室長に任じられ、プロダクション経営の制度再構築を担う。2011年からは株式会社ビデオプロモーションでコミュニケーションデザイン室長。2013年7月から、再びフリーランスに。