ブラジル大統領選 現職か、16歳から読み書きを学んだ「アマゾン育ち」の異色女性候補か?

決選投票になることが予想されるブラジル大統領選挙について、ハフィントンポストブラジル版のオタヴィオ・ディアス編集長に、選挙の争点を聞いた。
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2016年にオリンピックを控えるブラジルで10月5日、大統領選の投票が実施される。再選を目指す現職のジルマ・ルセフ大統領を軸に、野党社会党のマリナ・シルバ元環境相、社会民主党アエシオ・ネベス上院議員による3つどもえの構図となっている。

朝日新聞デジタルによると、ルセフ氏は貧困層に根強い人気があるが、アマゾンの奥地で生まれ育ち、16歳から読み書きを学んだ異色の経歴を持つシルバ氏はクリーンなイメージで大都市の中間層で人気が急上昇した。ネベス氏は市場重視の政策をかかげて経済界や高所得層、シルバ氏の資質に疑問を抱く中間層を取り込みつつある。投票結果は6日の午後にも判明する見通しだ。

今回の投票では決着せず、決選投票になることが予想されるブラジル大統領選挙について、ハフポスト日本版編集部がブラジル版のオタヴィオ・ディアス編集長に選挙の争点を聞いた。

――選挙の主な話題、争点は何か。その争点に対する各候補者の見解は。各候補者が語りたくない、もしくは必ず語りたかった話題は何か。

ブラジルの経済成長は2014年になって伸び悩んでおり、投資も低調だ。一方で、インフレは年率約6.5%だ(政府目標が4.5%だから、上下2%以内が許容範囲ではある)。だから、政権に批判的な勢力はルセフ大統領が弱腰のインフレ対策しかとっておらず、同時に価格統制や過剰な歳出といった誤った政策を行い、規制緩和や民営化も不十分だから、ブラジルの成長を阻害していると非難している。

現職のルセフ大統領

ルセフ大統領はこれに対し、ブラジルは雇用創出を促し、完全雇用をほぼ達成して世界的な経済危機を乗り切った数少ない国の一つだと主張している。実際は、一般市民は政府にあまり満足していないが、彼らが本当に懐に痛みを感じたわけではない。

もう一つの争点は、ペトロブラス(ブラジルの巨大石油会社。1997年まで石油の独占企業だった)だ。汚職や経営不振への批判が多く、今も捜査が進んでいる。野党は、与党の労働党(PT)がペトロブラスを自らの政治的利益のために利用し、ガス価格を統制したと非難している。ルセフ大統領は、(選挙期間中に労働党がいつもやることだが)野党は自由主義者であると非難している。彼らはペトロブラスを(既に株式市場に上場した企業だが)売り払いたいのだと言う。

一方、教育、健康、劣悪な公共サービスといったその他の重要争点は、副次的なものにとどまっている。

――ルセフ大統領とシルパ氏が掲げているブラジルの未来についてのプロジェクトや公約についてどう思うか?

ルセフ大統領は経済運営に失敗しており、おそらくいろいろ変更しなければならないだろう。しかし、彼女はそれとなく認めているとはいえ、全体的な状況でいえば順調であり、自分こそがプロジェクトを継続しつつ調整も行う上でふさわしい選択肢だと主張している。シルバ氏について言えば、ルセフ大統領の計画・プロジェクトは継続し、必要なものは変えるが、基本的には同じ道を追求しようというものだ。

社会党のマリナ・シルバ元環境相

――今度の選挙に対して、有権者の間に熱狂や情熱は生まれているか? 一般のブラジル人は政治家や主要候補者のことをどう思っているのか?

2013年6月、政治全般と劣悪な公共サービスに対する大規模デモがあった。ほとんどすべての政治家が支持率を急落させた。しかし、どの候補者もあの感情の盛り上がりを選挙運動中に動員することができていなかった(シルバ氏はある時期こうした盛り上がりを利用しようとしていたようだが、今は自重している)。民衆は少し幻滅しており、どの候補者にも情熱を感じてはいないが、それでも少しずつ雰囲気は盛り上がっている。

社会民主党のアエシオ・ネベス上院議員

――選挙期間中に起きた騒動や予測できなかった事態を一つだけ挙げるとしたら、何を挙げる?

この選挙期間中で、とても劇的な瞬間が8月初めにあった。過去6回の選挙と同じように、主要候補者2人はPT(労働者党)とPSDB(社会民主党)からの立候補だった。ディルマ・ルセフ大統領とアエシオ・ネベス氏だ。それに、第三の候補者として、エドゥアルド・カンポス氏がいた。重要な東北部の州・ペルナンブコ出身の若くてとても有望な政治家だったが、全国的には知名度がなかった。彼の副大統領候補がマリア・シルパ氏だ。2010年の大統領選では2000万票を集めて3位となっていた。マリアは自分自身では立候補しなかった。新党を結成したかったのに失敗したからだ。それで、カンポス支持を決定し、彼の副大統領候補になった。

ところが、8月初め、カンポス氏が選挙運動中の飛行機事故で亡くなった。これは大変な衝撃で、追悼の日々が続いた。この後、シルバ氏は第3の道として彼の後を継いだ。シルバ氏は世論調査で急速に支持を上げ、3位のネベス氏を引き離し、ルセフ大統領にも勝ちそうな雰囲気だった。

8月13日、大統領候補だったエドゥアルド・カンポス氏が乗った飛行機が墜落した現場

カンポス氏の葬儀には、すべての候補者とルラ前大統領を含むほとんどの主要政治家が訪れた。シルパ氏は、つねにカンポス棺とカンポス氏夫人、それに赤ちゃんを含む5人の息子に寄り添っていた。2日後、シルバ氏が後継候補として確定した。

カンポス氏の葬儀で祈りを捧げるシルバ氏

しかし、シルバ氏はテレビの公式選挙特番(議会での勢力に応じて政党間で分配される)に数回、それに小規模な政党組織の集会に出ただけだ。ルセフ大統領と労働党は彼女は意志が弱く、ころころ意見を変え、宗教の色が濃すぎ(シルバ氏はキリスト教福音主義者だ)、それに銀行の味方だ(マリアはブラジル中央銀行を独立させると主張している。これはエドゥアルド・カンポス氏の公約で、おそらく彼女自身はやりたくもないだろう)と非難し、彼女は勢いを失った。

現在、世論調査でシルバ氏はネベス氏に対するリードもほぼ失ってしまったから、誰が第2ラウンドの決選投票に進むのかわからない。ルセフ大統領は支持を回復し、第1ラウンドで勝利(彼女が最多得票を得れば)するか、決戦投票でも優位に立つだろう。労働党には強い追い風が吹いている。

――どの候補者の選挙運動が最も成功したといえるか。上位3人を除いて、どの候補者が(いい意味で)際立っていたか?

ルセフ大統領と労働党は政府機関、最大の政党、それにテレビのほとんどの時間を活用できる。とても組織だっていて、選挙運動のやり方を熟知している。たとえ訴えていることが現実をゆがめているとしても、とても説得力がある。

また、過去6回の大統領選挙で右派の候補者が一人もいなかったことも興味深い。労働党は、野党のブラジル社会民主党が新自由主義者だとかエリート主義的だと非難しているが、実際は社会民主主義だ(中道、おそらく中道左派だ)。シルバ氏も中道左派だ。これは実に興味深い。

もう一つ興味深い点は、もしルセフ大統領とシルバ氏が決戦投票へ進めば、大統領候補者が2人とも女性になる。ルセフ氏は白人中産階級の女性だ。個人として誠実だが、厳しすぎる人と見られている。シルバ氏はアフリカ系の子孫で、生い立ちがとても貧しく、アマゾン川流域の州で生まれ、マラリアにかかり、人生の後半になるまで文字の読み方を知らなかった。彼女が勝利すれば、ルラ元大統領のようなシンボルになれるかもしれない。

その後、彼女は環境運動のリーダー、チコ・メンデス氏(彼は殺害された)と働くようになり、ルラ元大統領と知り合い、労働者党で政治家の道を歩み始めた。彼女はルラ政権で環境相となったが、まさに同政権下で中心的地位にいたルセフ大統領と対立し、党を離れた。

ルセフ大統領はダムや道路などのインフラ整備をもっと柔軟に行いたがったが、シルバ氏は環境問題を一番に考慮した。政権内で2人はライバルとなり、今は大統領を目指して互いに戦っている。

もしネベス氏が決選投票でルセフ大統領の対立候補となれば、90年代にインフレを鎮静化し、国を安定化させた社会民主党と、貧困層を減らし、不平等を是正させることに成功した労働党による6回目の闘いとなる。両党とも、最近のブラジルの良好な成長に重要な役割を果たした。しかし、各党ともお互いの実績を認めはしないだろう。

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