第2次世界大戦の終戦前後に、現在の北朝鮮で亡くなった日本人の遺族による墓参団が9月15日、北朝鮮の首都・平壌に到着した。今回で10回目となる。
近々報告されるとみられる拉致被害者ら日本人の再調査には、遺骨に関する項目も含まれている。今後の日朝関係を見通す上でも、遺骨の調査や収集の行方が注目される。
遺族らでつくる民間団体「北朝鮮地域に残された日本人遺骨の収容と墓参を求める遺族の連絡会」(北遺族連絡会)を窓口とし、今回は遺族5人が参加している。23日まで、北朝鮮北東部の都市、咸鏡北道・清津(チョンジン)や咸鏡南道の咸興(ハムン)などの埋葬地を訪れる。
ハフィントンポスト日本版は今回、墓参団への同行取材を申請し、認められた。北朝鮮各地を巡る墓参の様子などを随時報告する。
【9月20日】
平壌から高速道路を東へ約3時間走って、港町・元山(ウォンサン)に出た。高速道路といっても、コンクリート板をつなげて舗装された道路で、スピードを出すと激しく揺れる。生活道路としても利用されていて、脇を人や牛車が通っている。
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そこからさらに北上すること約2時間半、北東部の工業都市・咸興(ハムン)に着いた。人口約80万人を数える北朝鮮有数の大都市だ。日本の植民地だった頃から化学工業が盛んで、今も肥料や化学繊維の巨大な工場がある。
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1945年8月9日、旧ソ連の対日参戦で、満州や朝鮮半島北部にいた日本の民間人は南へ、南へと追いやられた。日本人が集められた一大拠点だったのが咸興で、民家や共同住宅などが日本人収容所となったが、引き揚げを待つ間に食糧不足や伝染病の流行で、多くの日本人が冬を越せずに死亡した。
興徳(フンドク)や通称「三角山」など、市内には日本人の集団墓地だった場所が多数ある。興徳は2012年に発掘調査がなされ、2014年6月の墓参では三角山も訪れたが、その他の集団墓地は場所の特定も難しいのが実情だ。
【9月21日】
市街地から「盤龍山」と呼ばれるなだらかな山を上っていく。民家やトウモロコシなどの畑が続く中に、日本の植民地時代から集団墓地として使われ、終戦後は飢餓や伝染病で死亡した日本人を大量に埋葬した場所があったという。「道の両脇にもたくさんの日本人が埋葬された場所です。周囲に民家を建てるときも人骨が出ました」と、北朝鮮外務省傘下の研究機関で日本人遺骨の調査をしてきた担当者は説明した。
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途中、軍の検問所を通った。3年前に日本人の墓地があると判明し、軍と交渉した結果、今回特別に立ち入りが認められたという。
でこぼこだと思ったものは、よく見ると墓だった。朝鮮語の墓石が並んでいる。
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その中に日本人とみられる墓石もあった。多くは倒れたり、欠けたりしている。
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福島隆さん(79)と妹の畦田八重子さん(70)は、1945年の大晦日に咸興の日本人収容施設で発疹チフスで亡くなった父・久登さんに、泣きながら語りかけた。「お父さんの足跡、しっかり見届けました。やっとここまで来られました」。福島さんは祈りを終えて「お父さーん」と叫んだ。
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2人が北朝鮮に墓参するのは2013年に続いて2回目だ。父は当時、日本人の集団墓地の近くに単独で埋葬された。記憶を頼りに、連絡会を通じて「ここではないか」という場所を報告し、墓参訪問を申請した。前回、この場所の立ち入りは認められなかった。
「99.99%、ここに間違いない。68年前に来たときと、山の形はほとんど変わっていない。もう少し登ったところにあるはずだ。『お父さん』と呼んだら聞こえるくらいのところまで来られた」
「回りの人たちが餓えや疫病でどんどん死んでいく中、リンゴをかじりながらなんとか生き延びてきた。あの苦労を思うと、生きていてよかったと思う。69年は長かった」
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咸興市街を見下ろす盤龍山の上から、近藤龍雄さん(80)と遠藤功一さん(72)も手を合わせた。2人とも父を咸興の収容施設で亡くしたが、埋葬場所は正確に分かっていない。遠藤さんは「父がどこに埋められたのか、帰国してから記録を整理して探していきたい。父に声が届いたと、自分では思っています」と話した。
「父が亡くなる直前まで自分も発疹チフスで寝ていて、現地の人に運ばれていったと、後から聞かされた。1946年の春、引き揚げる直前に別れを告げに来たけど、5個ぐらい大きな穴が並んでいて、埋葬日時から場所を推定することしかできなかった。当時は一日何十人も死んでいたから、一人一人埋葬する余裕なんかなかったんです。食べるものもなく、イナゴを捕って、まんじゅうを売り歩いてしのいでいた」。近藤さんは当時を振り返り、涙を流した。「これが一つの区切りだな。俺もそんなに長くないから」
途中、「本町」と呼ばれていた咸興の旧日本人街に立ち寄った。産院は当時の建物のまま残っているという。
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