国際会議「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(女性版ダボス会議)」が9月12日、東京で始まった。この日は安倍晋三首相やクリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事の講演、ヒラリー・クリントン前国務長官からのビデオメッセージ紹介、安倍昭恵夫人とシェリー・ブレア元イギリス首相夫人の特別対談などが行われた。
会議は14日まで。以下に、安倍首相とラガルド氏の講演や、クリントン氏によるビデオメッセージの概要と、昭恵さんとブレアさんによる特別対談の内容を紹介する。
■安倍首相「女性がいつでも誰でも夢にチャレンジできる社会」目指す
安倍首相は、講演で「女性が輝く社会をつくることは、政権発足以来、私が一貫して最重要課題の1つとしてきた政策。妻、昭恵は『家庭内野党』などと言われることがあるが、女性の活躍については、夫婦の間で意見の相違はまったく」などと語った。
「2020年までに指導的地位を占める女性の割合を30%にする」目標を達成し、「女性がいつでも誰でも夢にチャレンジできる社会」を実現するために、切れ目なく政策を打ち出すとして、女性の活躍を推進する総合的な政策「全ての女性が輝く政策パッケージ」を10月に取りまとめると表明した。
「日本の女性議員は13%。まだまだ女性登用の優等生とはいえない」として、企業経営に女性の視点を取り入れ、多様な社会を実現するために、女性登用に積極的な企業を優遇する方針を示した。大手企業に対して女性企業役員の人数を有価証券報告書に開示するように義務づける案については「この秋に制度改正を行う」と語った。
女性の6割が第1子出産後に仕事を辞めていることにも言及、待機児童問題をはじめとした子育て支援制度の充実や、ITを活用したテレワークの推進など、柔軟な働きかたの実現に取り組む意欲を示した。
■IMF専務理事「個人消費の70%を担い手である女性に主導権を」
続いて、ラガルドIMF専務理事(写真)は、女性の労働参加は経済にとって「好材料になり得る」として女性活用の重要性を訴えた。
他国の事例として、GDPの1%を子育てに投資するスウェーデンや、パートタイムにも正社員と同等の権利を保障したことで女性の労働力が飛躍的に上昇したオランダなどを紹介した。
日本について「女性に不安定な雇用の人が多いのは、リーダーシップを発揮できるキャリアパスが見込めないから」と語り、女性が働きやすい環境を整えること、企業もリスクをとって女性を登用すること、そして男女ともに考えかたを変えることの必要性を説きながら、「個人消費の70%を担い手である女性に主導権を」と呼びかけた。
今後、高齢化が進む日本では労働力の大幅な減少が見込まれているが、ラガルド氏は「日本の中長期的な潜在成長率は1%程度だが、女性活用が積極的に進めば、成長率を年0.25%押し上げる」などと語った。
■クリントン前国務長官「女性の地位向上で、経済の繁栄や安定が図られる」
キャロライン・ケネディ駐日米国大使が、クリントン前国務長官について「歴史を作った女性。40年近くに渡って、一貫して何百万人もの声なき世界の女性の政治的な権利や、経済的安定、教育の機会を提唱してきたロールモデル」と紹介した。
クリントン氏は、ビデオメッセージ(写真)を通じて「女性の地位を向上させることで、経済の繁栄や安定が図られる」と語り、女性の社会進出の重要性を説き、女性の社会進出における「構造的、社会的な障壁を取り払う必要がある」などと語った。
世界経済フォーラム(ダボス会議)の「国際男女格差レポート」によれば、教育や健康、経済参加といった幅広い分野でジェンダーギャップ(性差による溝)が狭いほど、国の競争力は高くなるという事例を紹介。「人類の繁栄とは、女性の繁栄を意味します。女性のための機会は、人類のための機会なのです」とエールを送った(日本のジェンダー・ギャップ指数は、136カ国中105位)。
■首相夫人の特別対談、昭恵さん「女性はクリスマスケーキと言われていた」
安倍昭恵夫人とシェリー・ブレア元イギリス首相夫人による特別対談は、キャリアと結婚に関する質問からスタートした。
昭恵さんは「父親からも、結婚することが女性の幸せだと言われて育てられました。学校を卒業後、わずかに仕事はしましたけど、主人と出会って結婚しました。その当時は、女性はクリスマスケーキと言われていて、24歳の最後の日に結婚したんです」と首相との結婚を振り返った。
弁護士のブレアさんは、「奨学金を得て大学で法律を学び、国で1番の成績で司法試験を合格しましたが、当時は、弁護士は男性の仕事で『女性はすでにいるから、2人はいらない』といわれました。当時の採用試験には、私ともう1人の候補がいて、男性が採用されました。最終的に、その人は夫となり政治家となったのですが、複雑でした」と語った。
■首相の家事育児、昭恵夫人「ゴミ出し」ブレア夫人「子供の寝かしつけ」
夫婦における家事の役割分担について、昭恵さんは「主人は、一緒に片付けして、皿洗いしてくれます」と普段の様子を語った。
「今は主人より早く家を出て、帰りが遅くなることも多いです。私が1人に地方へ出張に行くこともあります。主人が1人で公邸に泊まることもあります。そうすると、自分のことは自分でできるようになります。一緒に片づけをしてくれて、お皿洗いをしてくれたり、私がそのまま朝ごみを出さないで置いとくと、ゴミを出しておいてくれます。こういう席で言ってもらいたいからかもしれませんが」
ブレアさんは、夫の元首相が当時イギリスの首相として初めて育休を取得した経緯や、家事の役割分担を明らかにした。
「夫が育休取得を取得した理由は、子供が生まれる世代が首相になったのは私たちが初めてだったからです。当時、44歳でした」
「私はフルタイムの弁護士として働いていましたから、夫が首相になったときはうまく関係が築けないときもありました。夫が夜7時に子供を寝かしつけて、その後一緒に夕食を食べたときは、『ごめんね。こんなに遅くなって』と謝られました(笑)。たぶん、子供の寝かしつけよりも外交のほうが問題だったんだと思います」
■昭恵さん「主人と真逆の考え方の人もいる」 首相「私の意見を変えようとする」
昭恵さんは、現在の夫婦の関係について「主人と違う考えの人がいることを伝えています」などと語った。
「以前は、主人のことを100%すべて正しいと思っていました。でも、いろんな人たちと知り合って話をすると、主人とは考え方が真逆の人にも、ちゃんといい分があることがわかります。自民党だけでなく日本国全体を代表している主人に、私はこういう考えの人たちもいると伝えたいと思っています。『主人には直接言えないので、代わりに伝えてください』という人もたくさんいます」
すると、観客席に座っていた安倍首相は「私は、いろんな人の意見を聞いているんです。国会でも聞いています。家に帰っても、昭恵から聞いているんです。昭恵は、私の考えを変えようとするときもあり、けっこう議論になります」として「(一度)総理を辞めた後、時間的に考える期間もあり、広く世界に視野を広げたんだろうなと思います」と昭恵さんの変化を振り返った。
■ファーストレディの経験を活かして、女性の活躍を推進
ブレアさんは、ファーストレディだったときに世の中の素晴らしい女性に出会った経験を活かして、2008年に基金を立ち上げたという。
「女性のためのシェリー・ブレア基金で、財政的に独立支援をする基金を立ち上げました。女性が活躍できるプラットフォームになりました。現在は、55カ国で10万人の女性が、ビジネスで貢献しています。夫が首相ではなくなって自由が増えました」
昭恵さんは「大きな目標があってコツコツやっているわけでなく、目の前にある頼まれたことを一生懸命やっています」と語った。ミャンマーの学校(寺子屋)づくりや、2008年に創設されたアジア女子大学などの社会活動に取り組んでいる。
「アジア女子大学は、本来であったら貧困世代で教育を受けられない人たちが、本当に活発に議論している様子を見て、ほんとにすごいと思いました。その人が国に帰って、リーダーとして女性のために活躍するでしょう。紛争地帯の女子学生たちが教室で机を並べて、一緒に学んでいる。女性ならではの活動です」
「本当に自分がわくわくすることをやるべきです。(以前は)政治家の妻として枠にはめられていましたが、自分がどうしたいんだと思うと、輝いていけるんじゃないかと思います。いろんな働きかた、輝きかたがあると思います。私もみんなと一緒に輝けたらいいなと思います」
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