「平和主義」か「産業保護」か、武器輸出規制に揺れるドイツ マレーシア航空機撃墜で議論に

[ベルリン 23日 ロイター] - 今年初め、ドイツの政治家らは、シリア北部でクルド人に向けてミサイルが発射された事件を受けて、現場に残された腰の高さほどの大きさの、緑色をした発射筒を調べていた。 国会議員のヤン・ファン・アケン氏は、それが独仏製の対戦車ミサイルであると分かると、ドイツの武器輸出に弁解の余地がないことを思い知らされた。 アケン議員は、刻印された番号から、それが1970年代に製造
Reuters

「平和主義」か「産業保護」か、武器輸出規制に揺れるドイツ

[ベルリン 23日 ロイター] - 今年初め、ドイツの政治家らは、シリア北部でクルド人に向けてミサイルが発射された事件を受けて、現場に残された腰の高さほどの大きさの、緑色をした発射筒を調べていた。

国会議員のヤン・ファン・アケン氏は、それが独仏製の対戦車ミサイルであると分かると、ドイツの武器輸出に弁解の余地がないことを思い知らされた。

アケン議員は、刻印された番号から、それが1970年代に製造されたミラン対戦車ミサイルで、フランス政府によって合法的にシリアに売却されたものであると考えている。武器庫で数十年眠っていたが、最終的にシリアのアサド政権に反旗を翻すアルカイダ系武装勢力の手に渡った。

アケン議員は、ドイツが輸出する多くの武器が、いつかそのミサイルと同じように使われてしまうのではないかと危惧している。同国が昨年に輸出した武器の総額は、前年比24%増の58億5000万ユーロ(約8015億円)に上り、サウジアラビアやカタール、アルジェリアといった国々が輸出先として急浮上している。

こうした輸出が国民からの不興を買いつつある。同国のガブリエル経済相は先月、たとえそれが軍需産業に携わる約8万人分の職を減らすことになったとしても、武器輸出を制限すると約束した。経済相は、同国が世界の主要武器輸出国にその名を連ねていることは「不名誉だ」と述べた。

ドイツ国内の議論は、ウクライナ上空でマレーシア航空機が撃墜された事件以降、緊急の課題となった武器輸出をめぐる国際的議論を反映したものだ。米政府は親ロシア派の武装勢力が支配する地域から発射された地対空ミサイルが同機を撃ち落としたと考えている。

3月、ロシアがクリミアを編入したことを受け、独政府はロシアに対する500万ユーロ相当の武器輸出を停止した。またラインメタル社製の戦闘シミュレーター、1億ユーロ相当の出荷も差し止めた。

防衛装備品の輸出停止に踏み切ったドイツの対応は、12億ユーロに及ぶミストラル級強襲揚陸艦の取引をロシアと進めようとするフランスとは対照的だ。

<銃ではなく自動車なら>

こうした独政府の対応について軍需産業の関係者は、顧客が他国に奪われるだけで世界が安全になるわけでもなく、むしろ国内の雇用とノウハウが失われるだけだと批判する。彼らはガブリエル経済相が約束した「より抑制的な」輸出政策の具体的な中身について知ろうと躍起だ。

だが幅広い産業界のロビー団体の間でも、軍需産業と友好関係を築いたり、支援してくれる存在はほとんどないのが実情だ。

ドイツ輸出協会(BGA)のAnton Boerner氏は、総額1兆1000億ユーロに上る同国の輸出全体の中で武器が占める割合は非常に少ないと指摘。「もし世界の人々がドイツ車を買わなくなったら心配するが、武器の問題はわれわれの懸念事項ではない」と述べた。

2005年にメルケル首相が就任して以来、ドイツはそれまでフランスが維持していた世界第3位の座を奪い、米国、ロシアに次ぐ武器輸出大国となった。ナチス時代の反省から、国民の多くに平和主義の精神が浸透し、世界の安全保障をめぐる問題でも常に後方に控えていることが多かったドイツにとって、これは驚異的な増加ぶりだった。

12年の世論調査によると、ドイツ国民の約3分の2が武器輸出に反対している。それにもかかわらず、その高い品質工学と信頼性から世界中でドイツ車が求められるように、戦車や銃もまた世界で支持された。

北大西洋条約機構 (NATO)に加盟する伝統的な同盟国以外から、続々と買い手が現れた。ドイツもまた、同盟国からの需要減少を穴埋めするため、そうした新たな顧客との契約を次々と結んでいった。

<決定を待つ2000件の申請>

2013年初頭、クラウス・マッファイ・ヴェクマン(KMW)が、人口わずか200万人のカタールに対し、戦車62両を20億ユーロで売却することに合意し、独政府を驚かせた。カタールはシリアなどのイスラム武装勢力を支援しているとして批判を受けている。

海外からの需要は、ちょうどドイツ軍が整理縮小を行っているのと同じタイミングで増加した。冷戦下に4600両あった戦車は、現在は225両まで削減された。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、ドイツが中東や北アフリカの「友好国」に武器を輸出するのは、2001年以降高まったイスラム武装勢力によるテロの脅威への対応だったと指摘する。スペア部品の出荷を調整することで、後から多少の影響力を行使することができるからだ。

保守的なメルケル首相と連立を組む社会民主党(SPD)のガブリエル経済相は、かつての連立パートナーであった自由民主党(FDP)の時代に武器輸出が急増したと批判する。

昨年輸出された武器の38%がEU(欧州連合)やNATO加盟国、オーストリアなど関係の近い国々に渡った一方、62%はそれ以外の国々に送られた。これは2012年の55%から上昇した。

さらに小型武器および軽火器(SALW)の輸出総額は、前年比43%増の1億3510万ユーロ(約185億円)で過去最高を記録した。このうち4050万ユーロ分は湾岸諸国へ輸出されたものだ。SALWには拳銃のほかグレネードランチャーや高射砲も含まれ、世界の紛争で犠牲になる人の60━90%は、SALWによって命を奪われていると指摘されている。

前出のアケン議員は、SALWなどの武器を安全に輸出できる国などないとし、「友人に売ったつもりでも、それが最終的に誰の手に渡るのか、決して分からない」と語った。

13年の連邦選挙で9%の得票を獲得したアケン議員が所属する左派政党は、外交政策においてはいわば異端者だ。NATOの解散やドイツの非武装化を政策として掲げている。しかしその武器輸出に反対する立場は、国民の幅広い支持を得ている。

武器は受注生産のみがほとんどのため、許諾申請は何年も前に行われる。賛否が分かれる武器輸出は、国の安全保障会議の承認を得なければならない。この会議は首相と補佐官をはじめ、外務、防衛、財務、経済、経済開発、内務、司法の各大臣の合計9名からなる。会議は非公開で行われ、政府によるとその決定は個別審査でなされるという。

軍需産業の関係者によると、ガブリエル氏が大臣を務める経済省は、武器輸出を抑制するための新たな取り組みとして、単純な申請だけを自分たちで検討し、難しい申請は安全保障会議に送るなどして、約2000件にも上る申請を留保しているという。これについて経済省の報道官はコメントを拒否した。

照準器や目標自動追尾装置といった、海外で組み立てられる武器に用いられる部品の輸出は、売却先がNATOやEU加盟国以外である場合、同様の厳しい審査が求められる。

エアバスは、装甲巡回車両向け目標自動追尾装置の、ベルギーへの輸出を申請し、その回答を待っている。計画では装置はベルギーからカナダに運ばれ、そこで米防衛産業大手ゼネラル・ダイナミクス社向けの車両に搭載される。最終的にはサウジアラビアへ輸出される予定だ。ドイツの承認プロセスは、完成品の最終輸出先も考慮に入る。

匿名を条件に取材に応じたエアバスの幹部は、問題は申請が拒否さえた場合ではなく、全く何の決定も下されない場合だという。経済省はこの件に関してコメントを拒否した。

<生き残りの道を模索する軍需産業>

ドイツ安全保障防衛産業協会のGeorg Wilhelm Adamowitsch氏は、独政府の武器輸出抑制に向けた新たな取り組みは、同国が部品供給する海外メーカーに与える影響を全く考慮していないと批判する。同氏は少なくとも武器輸出に関する欧州共通のスタンスを確立するべきだとしている。

匿名を条件に取材に応じたある軍需産業の幹部は、部品供給を待たされている欧州の顧客はいずれ他国との取引に変えていくだろうと話す。

ガブリエル経済相は国内の軍需産業に対し、民生品生産への移行を促している。しかしそれはヘッケラー・アンド・コッホのような会社にとって難しい選択だ。同社は南部にあるオベルンドルフという小さな町で、従業員700人がG36突撃銃を生産している。

ドイツ陸軍向けに開発されたG36は、歩兵部隊や特殊部隊の標準装備品で、世界30カ国で採用されている。

2008年、独政府はサウジアラビアに対し、G36のライセンス生産を許可した。ただ、いくつかの部品はオベルンドルフで作るという条件付きだった。雑誌「シュピーゲル」は、ガブリエル経済相はこのライセンス生産向けの部品輸出も禁止する方針であると伝えた。

ヘッケラー・アンド・コッホの関係者は、そのような決定はまだ聞いていないと述べた。経済省は個別の案件についてコメントは差し控えるとした。

メルケル首相率いる保守勢力からは、ガブリエル経済相が次期首相の座を狙ってポピュリズムに走っていると批判する声が上がっている。

首相と同じキリスト教民主同盟(CDU)のJoachim Pfeiffer氏は「早くもドイツ製の部品抜きで計画されている海外の防衛プロジェクトがある」と、国内軍需産業に悪影響が出ていることを嘆く。

今月初め、KMWは仏戦車メーカーのネクスターとの合併交渉に入ったことを明らかにした。両社は、合併は国防費削減に対応する一環だとしている。軍需産業の関係者は、両社が合併交渉に入ったのは、ガブリエル経済相の政策も大きな要因となったと述べた。

ラインメタル社は、メルケル首相が自由民主党と連立を組んでいた時の経済開発協力相であったディルク・ニーベル氏を主任ロビイストに迎えた。

前出のアケン議員は、輸出申請が却下された理由など詳細について、国家安全保障会議はほとんど明らかにしないため、ガブリエル経済相は自らの政策がいかに有効であったかを証明するパフォーマンスが必要となるだろうと語った。例えばSALWの輸出禁止に踏み切るといった対応だ。

1999年に民衆の激しい怒りを買い、地雷の生産と輸出がほぼ全面的に停止された際、アケン議員はとても勇気づけられたという。

「小火器の輸出に踏み切ったドイツを想像してみてほしい。そしてそれが、輸出を続ける国にとってどんなに不名誉なことになるのかを」とアケン議員は語った。「ドイツは脱武器輸出国のモデルになれるチャンスを握っているのだ」

(Alexandra Hudson記者、Sabine Siebold記者 翻訳:新倉由久 編集:伊藤典子)

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