韓国南西部の珍島沖で起きた大型旅客船「セウォル号」の沈没事故から7月16日で3カ月。修学旅行中の高校生を中心に死者293人を数えた大事故は、依然として11人の行方が分かっていない。
韓国メディアでも大きく取り上げられることは少なくなった事故だが、改めて、現時点の状況をまとめた。
■船体はなぜ引き揚げられないのか
船体はまだ、海に沈んだままだ。
発生当初、クレーンによる引き揚げのため、現場付近に引き揚げ船が待機したこともあったが、当初は内部に生存者がいた場合を考慮し「行方不明者の家族全員の同意なしには船体を引き揚げない」と方針を決めた。このため、潜水士が船内を捜索して回る地道な救助活動が続いているが、6月24日以来、新たな遺体発見はない。
一方で韓国政府は、救助作業が進んでいた5月上旬には既に、船体引き揚げの期間や費用などを試算していたことが報道された。遺族・行方不明者家族でつくる「セウォル号家族対策委員会」は、一連の韓国政府の対応に不信感を強めており、船体引き揚げに同意していない。行方不明者の家族の一人で、対策委員会の広報担当を務める男性は6月27日にラジオ番組で、船体引き揚げの可能性を問われ、以下のように話している。
「(政府が)ただ船体引き揚げのことばかり言うので、我々は非常に怒っています。事故が起きてから半月後に船体引き揚げの準備を始めたということが明らかになって、それは私たちには非常に欺瞞的に見えます。船体引き揚げはいつかしなければならないでしょう。しかしそれはいつなのか、最も確実なのは行方不明者が一人もいなくなったとき、全員引き揚げられたときは当然、船体引き揚げに取りかかるでしょう。もしそうでないなら、一つの可能性は、現地におられるすべての行方不明者の家族が同意したときしかありません。まだ私の家族も見つかっていませんが、これ以上捜索しても意味がないという部分を認めて受け入れたとき、船体引き揚げについての話が出て、実行に移れるのではないかと思っています」
■会長はどこへ消えたのか
セウォル号を運航していた「清海鎮海運」の事実上のオーナー、兪炳彦(ユ・ビョンオン)氏について、捜査当局は事故後、横領や背任などの容疑で拘束令状を請求し、身柄確保に乗り出した。聯合ニュースによると、兪氏が不法に得た総額は1390億ウォンに達するとしているが、本人や長男の行方は分かっていない。
兪氏が築いた企業グループは1990年代に急拡大したが、その後、持ち株会社「セモ」が経営破たん。会社資料によると、清海鎮海運は1999年2月24日に設立された。設立日は、裁判所がセモの再建を認める1日前で、同社はセモグループの海運事業の中核となった。
キリスト教福音派の教団を立ち上げた兪氏は1992年、詐欺罪で懲役4年の判決を受け、収監された。裁判の記録によると、兪氏は事業拡大の資金に充てるため、教団信徒の資産を流用したとされている。
兪氏は、1987年にソウル近郊の工場で、同氏の教団の信徒32人が自殺した事件で、取り調べを受けた。ただ、訴追はされず、兪氏は、雑誌のインタビューで事件への関与を否定した。
(ハフィントンポスト日本版「【韓国旅客船沈没】億万長者で宗教団体の創始者...船オーナーの素顔とは」より 2014/04/27 11:11)
キリスト教福音派の宗教団体「救援派」の創始者でもある兪氏。捜査当局は6月中旬に、宗教団体施設への強制捜査に乗り出したが、信者らの激しい抵抗に遭い、兪氏の身柄確保には至らなかった。
捜査当局は、兪氏と長男が国内に潜伏しているとみている。兪氏の妻や宗教団体幹部らはすでに、兪氏の逃走を助けた容疑などで計38人が拘束されている。
船会社の幹部や、乗客の救助より先に逃げたなどと非難され、殺人罪で起訴された船長ら船員の裁判も進行中だ。船長らは「非難は甘んじて受けるが、自分たちもショックを受けており、船が傾いた状態で救護措置など不可能だった」として、殺人罪については争っている。
関連記事