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7月9日、FIFAワールドカップ・準決勝で開催国のブラジルはドイツに1−7と歴史的な大敗を喫した。
優勝候補と目されたブラジルが敗れた、「ベロオリゾンテの悲劇」はなぜ起きたのか。勝負の分かれ目はどこにあったのか。勝負が事実上、決した前半24分のドイツ3点目までをデータで検証してみよう。
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\n\n“仕掛ける”とはなにか。前線からボールを奪いに行き、リスクを取って守り、そして攻めることだ。お互い、戦い方がまだわからず、ゲームに体も頭も慣れていない、前半15分くらいまでに点を奪ってしまおう、点は奪えなくても、相手の調子を狂わせてやろう、そういう狙いがある。
\n\n負けたら終わりのトーナメント戦では、序盤はまずは様子を見てしっかり引いて守る、リスク管理重視の戦い方もあるが、ブラジルは仕掛けた。前線から人数をかけてボールを奪い取り、そしてまた攻撃する。攻撃に転じようとしたドイツのボールをマルセロが敵陣で奪い、ゲーム最初のシュートを浴びせる。ブラジルが思い描いていた立ち上がりだった。\n\nポジショニングを見てみると、ブラジルの選手が左右に分かれて、敵陣にいることがわかる。一方、ドイツは自陣に押し込まれ、パスも繋げていない。
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\n\nブラジルの左サイドバック、マルセロの裏のスペース。ドイツはここを狙う。右サイドバックのラーム、ボランチのケディラ、センターバックのボアテングでボールを奪い、素早くマルセロの裏にミュラーが走る。明らかに、ドイツの「ブラジル研究」が伺える。7分のドイツ、ケディラのシュートはこの流れから生まれる。出だし3分とはまったく、試合の様相が変わった。\n
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\n\nポジションを見てみよう。ブラジルは突破のキーとなるハルクが高い位置をキープ。マルセロは前の時間帯で裏を突かれたためやや下がり気味。そのブラジル左サイドにドイツのボアテング、ラーム、ケディラ、ミュラーが人数をかけて押しつぶしにかかる。
\n\n「マルセロの裏」。この徹底した狙いが3度目で実を結ぶ。前半9分、長いフリーキックでハルクに展開。キープからブラジルが攻めようとしたところをラーム、ケディラ、ミュラーで囲い込んでミスを誘うと一気にマルセロの裏のスペースにカウンター攻撃、なんとかブラジルがコーナーキックに逃れるが、このセットプレーから先制される。
\n\nブラジルの左サイドへの展開、ボール奪取、すぐにマルセロの裏。たった7分間で繰り返し続けた攻撃が、直接点に結びついた。
\n\nちなみにコーナーキックからのドイツの先制点だが、おそらく事前に用意された作戦だろう。わざとゴールに遠い側(ファー)を空けておき、そこに走り込もうと動きだすのが2人、ほかはゴールに近い側(ニア)にとどまったまま密集を作る。走りこんだ2人のうち1人は相手ディフェンダーをおびき寄せてニアに戻る動き。混乱したブラジル守備陣をよそに、ミュラーがぽっかりとフリーになり余裕を持ってシュート。ゾーン(場所単位で守る方法)でなく、マンツーマン(人について守る方法)でコーナーキックを守るブラジルの裏をかく、完全な作戦勝ちだった。
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\nドイツの狙いは、再三、狙っている守備からのマルセロの裏狙いと、遅い攻めになった場合は、クロース、エジルを中心とした左サイドの細かいつなぎ。はっきりしている。\n
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こうして振り返ると2点目から4点目が決まった、179秒でゲームがガラリと変わったわけでは決してない。むしろその前、ゲーム開始直後のブラジルの「仕掛け」をしのいだドイツが、間違いなく研究済みだった「マルセロの裏」を徹底的に突いたところから、コーナーキックを得て、さらにそこでブラジルのマンツーマンディフェンスを破るサインプレーを発動、先取点を得るという、まさに準備していた策がぴったりハマった形だ。
ドイツの右サイドバックのラームは守備に優れるだけでなく、ボールを運ぶ攻撃的センス、戦術眼も備えている。ボランチでも起用されるラームがこの試合で右サイドバックを任されたことは、ブラジルの左を封じて裏を突く、「対策」のひとつの表れだ。
もちろん、ネイマール欠場も大きな要因だ。ネイマールが左サイドにいたならば、たとえワンパターンでも、致命的な奪われ方はしなかったかもしれない。もちろん、仮の話でしかないが、ブラジルのサポーターがそう思っても不思議はないだろう。
データから見えるブラジル敗退の大きな要因は、ふたつ。ひとつは中盤に構成力がなく、個人に頼りすぎた攻めだ。ルイス・グスタボ、パウリーニョ、フェルナンジーニョらボランチを務める選手はいずれも、ゲームメイカータイプでなく敵陣で細かいつなぎをするタイプではない。サイドバックや、センターバックから両ウイングにシンプルに預ける形が目立った。この試合のように、預けた先のハルクが封じられると、苦しくなってしまう。
このなかでオスカルはこの役割ができる選手で、前半16分、ボランチの位置まで下がってゲームを作り、フレッジのポストプレーを活かしたシーンはブラジルの「プランB」として象徴的で、もしこういう攻めがもっとできていたら、ゲームは変わっていただろう。
攻めの苦しさは数字にも現れており、決勝トーナメントに入ってからの3得点はすべてセットプレーでDFが決めたもの。守備から入る「手堅い」チームで優勝を狙ったが、ネイマールの負傷も響いてそれが仇になってしまった形だ。
もうひとつは、切り替えのスピードでドイツに劣ったこと。マルセロの裏狙いが明らかになってもそこに固執してカウンターを喰らい続けた拙さはブラジルらしくない。だが、その前に、自らの攻め手である左サイドで競り負けてはいけなかった。
事実、2点目が入るまでの時間帯は、ブラジルの左とドイツの右との勝負だった。マルセロ、ハルクのブラジルに比べると、ラーム、ミュラーの2人のほうが、ボールを奪った後、奪われた後の切り替えと球際が格段に激しかった。ドイツには策があったとはいえ、もしここでブラジルが左サイドを押していれば、流れは大きくブラジルに傾いただろう。
これを象徴するのが8分のシーンだ。ドイツが狙っていたカウンターの攻めで、ペナルティエリア付近でミュラーが奪われる。逆にブラジルがチャンスになるかと思われたが、奪われたミュラーが切り替えの早さでマルセロに食いついてファールし、ブラジルの速攻を止めた。一方、マルセロ、ハルクはミュラー、ラームの速攻を止められていない。大差につながる、小さな差。こうしたプレーが試合を分けた。
ドイツで目立ったのは、スペースを見つけてボールを受け、パスを出してまたすぐに走りだして、相手の陣形を乱したり、スペースを作る、という連続した動き。前回王者のスペインが得意とする、ゆったりと回しながら狭い地域を細かくパスでつなぐスタイルとはまた別の形だ。こうしたサッカーの移り変わりもまた、ワールドカップの醍醐味だろう。
ブラジルの歴史的大敗。データで振り返るとそこには、ドイツが巧妙に仕掛けた策があった。
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