7月1日、安倍首相は集団的自衛権の行使に関する憲法解釈を変更することを、閣議決定した。戦後日本の防衛政策にとって、大きな転換点。もっとも重要な同盟国であるアメリカ政府は「歓迎する」と表明しているが、アメリカのメディア、そしてその読者はどのように反応したのか。
■「日本国民には声を発する時間がある」ニューヨーク・タイムズ
ニューヨーク・タイムズでは「日本の軍事的役割の変化は必然的ではあるものの、議論を呼ぶものだ。多くの日本国民が、他国のもめごとに巻き込まれることへの恐れを口にしている」と記述。全体的なトーンとしては、アジアとの緊張を警戒する内容になっている。
フィリピンなどいくつかの国は賛成しているものの、先の戦争で大きな被害を受けた中国、韓国は日本がどう動くのか、警戒している。中韓が日本非難で同調するなか、安倍首相の国内右派へのアピールや、歴史修正主義が一層、恐れと不信を煽っている。たとえば、最近の日本政府の報告書では、旧日本軍の従軍慰安婦問題に不用意に触れて、韓国の怒りを買っている。
日本の国会はこれから、多くの法律を修正して、憲法の解釈を変更する、法的な障壁を越えていかなければならない。これには数ヶ月かかるだろう。安倍首相の連立政権は参院両院で過半数を占めており、修正案は問題なく通過するとみられる。しかしそれでも、国民にはまだ声を発する時間が残されている。「日本を戦争する国に変えるわけではありません」。それが本当かどうか、安倍首相に問うてみればいいのだ。
(NYTimes.com「Japan and the Limits of Military Power」より 2014/07/02)
以下は読者のコメント。
日本が自らの国と近隣を防衛する、第一歩を踏み出したことは喜ばしい。今まで、多くのアメリカ兵に依存してきたわけだから。
経済的にも物理的にも、アメリカは「世界の警察」という役割について考え直さなければならない。同盟国にそれぞれの防衛はまかせて、東アジアでも、ヨーロッパでも軍事規模を縮小していくべきだろう。
アメリカと世界は日本の新しいスタンスを歓迎すべきだ。第二次大戦の経緯を考えれば、心配に思う気持ちもわかる。しかし今や日本は世界でも最も責任の重い国。日本の経済力を考えれば、日本の軍隊をまともなものにすることは、アメリカやNATOの人道支援活動にも役立つだろう。ようこそ、世界へ。
現実的に考えれば、アメリカが同盟国に、責任分担を求める必要があるのは明らか。しかし、日本の帝国主義の歴史を顧みると、東アジアの国は安倍首相の解釈変更には不安を覚えるだろう。さらに、日本は戦争責任を否定し、教科書には近隣諸国への侵略について、「進出」と記述している。政府高官のみならず安倍首相までもが、戦争犯罪人に敬意を持っている。日本人自身が誤りに気づき、その歴史修正主義を改めない限り、近隣諸国からは歓迎されないだろう。
アメリカが「歓迎」とするのは、あまりにも短絡的で視野が狭い。中国ばかりに関心を払って、アジア太平洋全体へのメッセージだということを忘れてはいないか。議論はあれど、日本はアジアの中でももっとも技術的に進んだ能力の高い海軍力を持っており、アメリカの助けとなるだろう。しかし、それには代償がいる。韓国や台湾、中国、日本の間では領土紛争があり、アジア諸国は、日本が帝国主義時代に得た領土を未だに保持している国として見ている。アジア諸国を怒らせてまで、必要なことだろうか?
さらに、アメリカがいくら中国に対抗するためではない、といったところで、周りはそうは思わない。日本の解釈変更を歓迎すれば、それはすなわち中国を怒らせる。しかしそれでも我々は歓迎した。中国が野心を露わにしている、などと言う前に、アメリカは自らの政策について考えなおすべきだろう。
悲劇だ。平和を象徴していた国が、大した理由もなしにその姿勢を放棄してしまった。
かつてのソ連も世界でもっとも優れた憲法と人権法があった。しかし、無視された。結局、解釈と法律の施行がすべてなのだ。
合衆国憲法もかつて、修正条項なしのときは黒人分離政策を支持していたが、今は違う。そしてプライバシーの権利や個人の権利、正当防衛の権利も急速に芽生えた。すべては解釈なのだ。
日本と近隣諸国において問題なのは、解釈のディテールである。それはこれから作られる法律に表現されるだろう。それが白日の下にさらされるまで、不安を感じるかもしれない。
日本政府は法案を明らかにする前に、事前にアメリカや韓国など外国と密接に相談しつつ、詰めていくだろう。どのように法を施行するのか、どう解釈するのか。これまでとどう変わるのか、などだ。そうなることを期待しつつ、アメリカには静かに、しかし確実に、その点を明らかにして欲しい。
■「今後は中国の行動次第」ウォール・ストリート・ジャーナル
一方、ウォール・ストリート・ジャーナルは、今回の解釈変更について、「日本の軍事力に課されている多くの制限を取り払うものではない」と冷静な見方を示している。
日本が軍国主義的な過去に戻るというのは問題外である。今回の変更は日本の軍事力に課されている多くの制限を取り払うものではない。むしろ、それは一つのプロセスの中の漸進的な一歩であって、そのプロセスは続くかもしれないし、続かないかもしれない。それはおおむね中国の行動次第だろう。
(WSJ「【社説】日本の新防衛方針-中国の脅威が背景」より 2014/07/02)
安倍首相は1日に行った閣議決定後の記者会見で、憲法解釈の変更がいかに限定的だったかを強調する必要があった。政府が新解釈を乱用すれば、国民が直ちに反発するだろう。
このため、1日の閣議決定が日本の右傾化を示していると考えるのは誤りだろう。国民はまだ、憲法9条が重要で守るに値すると信じている。いずれにせよ、首相が憲法改正でなく解釈の変更にとどめたため、9条が将来の自衛隊の活動を厳しく制限し続けることが確実になった。国民は今後、集団的自衛権の議論が始まる前よりも、憲法9条を改正しようとする試みに強い警戒感を抱くだろう。
(WSJ「【オピニオン】日本の防衛政策のシフトは限定的」より 2014/07/02)
・記事についたコメント
No!と言える日本に
「この変化は、中国の脅威に対応するために必要なことだ」
たしかにそうだ。だが忘れてはいけない。再び軍事力を持たないように、我々が第2次大戦後に押し付けた日本国憲法のおかげで、今の日本があることを。さらに、日本人が今、軍事力を必要と考えている事実。これは、アメリカが信用を失っていること、そしてオバマ大統領の政策が頼りにならないことの直接的な結果だろう。
■「アメリカの影響力低下の象徴」ワシントン・ポスト
ワシントン・ポストは肯定的に捉えながらも、アメリカの国際的な影響力低下を懸念する内容になっている。
これは良いニュースだ。日本は我々が長年望んできたことを成し遂げた。だが悪いニュースもある。間違いなく日本は、アメリカを信用しなくなってきている。日本はシリアやロシア情勢の最前線とは無関係だろうし、中国がアメリカを軽視し、脅かしていることにも関心はないだろう。
(中略)
同盟国が、防衛について責任を自ら負うようになる、という意味ではポジティブな兆候だ。
(中略)
しかし、中東、とりわけシリアやイラクで過激派が力を増していることと、この日本の動きが今、同時に起こっているのは、アメリカのリーダーシップが失われているからにほかならない。
(The Washington Post「What’s behind the end to Japan’s official pacifism?」より 2014/07/02)
記事についたコメント。
日本が関心を持っているのは当然、日本自身のこと。降伏後の70年を経て、日本はようやくアメリカとヨーロッパの同盟国となった。戦後体制が変化するのは十分に合理的なことで、同じことはドイツでも起こった。アメリカ大統領にどうこうできることでもない。
■「歓迎すべきニュース」USAトゥデイ
アメリカで最大規模の全国紙、USAトゥデイは事実を基に淡々と伝えた上で、「日本に軍を駐留させているアメリカにとっては歓迎すべきニュースだ」と評価している。
記事についたコメント。
いいことだ。ドイツが西ヨーロッパでそうだったように、日本も東アジアにおいて、より大きな責任を追わなければならない。第2次大戦は70年前だし、アメリカも今は、地球上のもめごとに顔を突っ込む「世界の番犬」でいる余裕もないしね…
最悪な決断。日本の帝国主義的な社会のもとで多くの人々が殺された記憶は、東アジアの人々にとってとても、とても鮮明に残っている。北朝鮮や中国が西洋社会で警戒されているが、それ以上にアジア諸国は、日本の軍国主義の復活に強く反発するだろう。アメリカはそうしたことにまったく気づいていないようだが。
2014年:日本の軍事的影響力が拡大。
1914年:日本の軍事的影響力が拡大。
歴史は繰り返す。
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