大阪へカジノを 橋下市長が東京に対抗

カジノ誘致をめざし大阪が気炎を吐いている。カジノ解禁に向けた法案整備をにらみ、府・市は統合型リゾート(IR)立地に向けた準備委員会を設置。橋下徹市長らの誘致キャンペーンにも力が入ってきた。
Reuters

焦点:大阪カジノ構想で目指す関西復権、海外も食指

[大阪市 7日 ロイター] - カジノ誘致をめざし大阪が気炎を吐いている。カジノ解禁に向けた法案整備をにらみ、府・市は統合型リゾート(IR)立地に向けた準備委員会を設置。橋下徹市長らの誘致キャンペーンにも力が入ってきた。だが、カジノ振興を大阪再生の起爆剤にしようという熱い期待の一方で、地元政界の混乱やギャンブル推進への反発など、向かい風も吹きつつある。

<海外カジノ事業者の来訪相次ぐ>

「完全に東洋のベニスになります」──。4月7日、大阪市内で開かれた「大阪都構想シンポジウム」で、橋下徹市長はこう宣言した。臨海部の人工島「夢洲(ゆめしま)」にIRを誘致し、海を隔てて都心側にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市此花区)とつながる鉄道網を新設。かつて宣教師が大阪・堺をなぞらえたように、一帯をイタリアのベネチアのような魅力のある一大観光地に整備するという構想だ。

その気炎にはわけがある。最大のライバルと目される東京の存在だ。ところが、都構想シンポジウムの2日後、東京都は臨海部に所有する「青海K区画」を10年間賃借する暫定事業者の公募を開始すると公表した。同地区は、人気の商業施設「ヴィーナスフォート」もある「お台場」の一角で、フジ・メディア・ホールディングス

都はK区画において、国際会議や見本市など海外からの集客力を見込める展示・文化施設とすることを応募条件としている。とすれば、東京五輪と同時期に同区画でカジノを開業するのは不可能となる。

東京都はさらに同月、IR整備の是非を判断するため、コンサルティング会社と契約、海外の実態調査を委託した。石原慎太郎・元都知事の時代からカジノ誘致の検討が進められてきたにもかかわらず、なぜ改めて調査が必要なのか、都の動きに首をかしげる関係者も少なくない。

「カジノオペレーターはこのわずかの間に、こちら(大阪)への興味を強くしたはずだ」と、大阪の政財界にはこの動きを歓迎する声もある。

証券会社CLSAの試算によると、大阪にIRが立地した場合、カジノ事業の売上は年45億─50億米ドルとなる潜在性があるという。実際、大阪には、メルコ・クラウン・エンターテインメント

<地盤沈下食い止める切り札に>

事業者のラブコールに手ごたえを感じた府・市は4月22日、IRの候補地として、夢洲を軸としたベイエリアとする方針を決定した。夢洲の土地価格は東京・有明に比べ「4分の1程度」(市関係者)とされており、事業者にとって早期の投資回収が期待できる。

こうした流れを踏まえ、地元の主要経済団体で誘致に積極的な関西経済同友会は、夢洲でのIRの実現に向けた提言を策定中だ。「大阪らしいIRを考えないといけない」(斉藤行巨・常任幹事事務局長)と、関西が発祥とされる和食や伝統文化、地元企業の先端技術に触れられるミュージアムのような施設を併設することなどを提案する構えだ。

夢洲はかつて大阪オリンピックの招致活動が行われていた時代に、選手村とする構想があった。だが招致に失敗して以降、市の財政悪化も加わり、物流関連施設を除き半ば塩漬け状態が続いている。しかし、IRにつながる交通インフラ整備をカジノ事業者が負担するようになれば、長年の課題だった臨海部の鉄道網などが整備でき、水都・大阪の姿が大きく変わる。

カジノ誘致でもっとも期待されるのは、地元経済の再生を促す大きな触媒効果だ。首都圏に次ぐ経済圏を持ちながら、関西のプレゼンスは低迷の一途をたどっている。近畿経済産業局によると、70年代に国内GDPの22%弱を占めていた近畿2府5県のシェアは、10年度の時点で16%台まで低下した。

京都・奈良をはじめ、世界遺産を数多く抱える関西にカジノを立地し、海外観光客をさらに増やすことができれば、地元経済は活性化し、東京と並ぶ「二極」の一つとしての大阪の復権にもつながる。

「大阪にIRを誘致した場合、関西に1兆円以上の経済効果が生まれる」。松井府知事と橋下市長が所属する大阪維新の会を支援するため、経済人らが結成した政治団体「経済人・維新の会」の試算だ。同政治団体の会長を務める衛生用品メーカーのサラヤ(大阪市東住吉区)社長・更家悠介氏は「その経済的な波及効果は、東京への誘致よりも大きい」と強調する。

<カジノに期待するオセロ効果>

日本初のカジノ解禁に向けたIR推進法案は、昨年12月、超党派の国会議員で構成する「国際観光産業振興議員連盟」(IR議連)」を通じ国会に提出された。カジノ候補地には、東京と大阪のほか、沖縄や長崎、宮崎といった地方都市の名も挙がっている。

「雰囲気がパッと変わっていた」。長年、カジノの必要性を地元経済界で訴え続けてきたユアサM&B(同中央区)の松田憲二社長は、10年1月にシンガポール視察旅行から帰国した橋下府知事(当時)の印象をこう表現した。地元経済の立て直しに向けた「決意のようなものを感じた」からだ。

シンガポールは日本に先駆けてカジノ解禁に踏み切り、観光産業を大きく成長させた成功例だ。当時、橋下氏は現地で開業前の2つのIRの経営トップと相次いで会談した。

「何から何までマイナスだったものが全部オセロのようにIRが来ることでひっくりかえって、プラスに活用できるような、そんな話になっている」。そう語る橋下市長が、「シンガポールの繁栄」を大阪カジノの将来像と重ね合わせているとしても不思議はなさそうだ。

(長田善行、取材協力:ネイサン・レイン、江本恵美)

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