"世界最大級の寺社フェス"「向源」が4月29日、東京・芝大門の増上寺で開かれる。寺社フェスとは、宗派を超えて、仏教やさまざまな日本の伝統文化を体験することができるイベント。4回目となる今年は、徳川将軍家の墓所である増上寺を舞台に、ウルトラマンをかたどった木魚による人形供養や「死の体験旅行」などのワークショップ、声明公演が繰り広げられる。
「向源」は、東京・南品川の常行寺で2011年から始まり、年々規模や開催場所を拡大してきた。今回の増上寺での開催で弾みをつけ、東京オリンピックが開催される2020年には、都内の大規模な寺や神社で同時多発的に開かれる寺社フェスの実現を目標としている。この壮大な企画をスタートさせたのは、常行寺の副住職、友光雅臣(ともみつ・まさおみ)さん。30歳の若き僧侶が目指す「未来のつくりかた」とは?
2013年に開かれた「向源」
■東京オリンピックのPR映像に映っていなかった寺社仏閣
友光さんは2013年9月、都内の公園で2020年のオリンピック開催都市決定の瞬間を中継するパブリックビューイングを見ていた。招致都市だったイスタンブール(トルコ)、東京、マドリード(スペイン)のPRフィルムが次々流れ、友光さんは驚いた。
「イスタンブールにはモスクが、マドリードは大きな教会があって、というのがわかる映像でした。でも。東京ではお寺も神社も映りませんでした」。東京の風景として紹介されていたのは、スカイツリーや渋谷のスクランブル交差点だった。
「これは悔しいぞと思って(笑)。日本にもいろいろな伝統文化があります。オリエンタルな国というイメージもあるでしょうと。だったら、オリンピックで世界中から日本へ人がいらっしゃる時に、スポーツ見ました、寿司食べました、秋葉原見ましたというところに、文化的な体験を入れたいと思うようになりました」
友光さんによると、都内には4000以上もの寺社があり、増上寺をはじめ、築地本願寺や浅草寺、明治神宮、神田明神、湯島天神など有名な観光スポットとなっているところも多い。
「柏手を打って、お賽銭を入れて......というだだけでは、宗教性やその背景にある文化はわかりません。すごくもったいないことだと思います。そこで、寺社で英語で座禅の指導を受けられたり、日本の伝統的なご飯を召し上がったりしたら、日本に来た方に日本の深い文化が伝えられるのではないか」
東京オリンピックの"おもてなし"を、寺社で同時多発的に行う。「そのためには、まず日本人、僕と同世代の若者にその魅力を知ってほしいと思います」
■3.11から、自分自身と向き合うための仕組みへ
友光さんは2011年9月に副住職を務める常行寺で、若者向けのイベントを「寺社フェス」と銘打って開いていた。イベントを始めたのには、理由があった。
「常行寺は天台宗なのですが、その本山である比叡山で修行していた時、今生きている人が、苦しい悩みにどうやって対処し、どうやって気持よく暮らしていくかが書いてあるのが仏教だと知りました。仏教は生きた人たちのためにある。その話を人に教えていきなさいと言われました」
しかし、若い僧侶としての悩みもあった。「70代、80代の方に20代の僕が教えるのは現実的ではないと思いました。だったら、同世代の人に仏教が説く生き方を伝えたい。お坊さんが偉いから教えるというのではなく、お坊さんはこんなふうに考えていますということを、同世代と話し合っていきたいと考えていた時、東日本大震災が起こりました」
東北の被災地だけではなく、「東京も心理的にも被災したと感じました」と友光さん。「震災直後、明るい未来を思えた人はいない。街にも笑顔がありませんでした。このまま日本が下を向いてしまったら、これから先の未来がない。それでも未来のために何かをやらなければと思っている若者に、ほっとできる場所やリフレッシュの体験ができる場所を提供したいと思いました」
3.11震災以降、私たちの生活は大きく変わりました。生活そのものだけでなく、何を考え、何を基準に行動するのかという精神性を重んじるようになり、「お寺」という場所に対する興味が増え続けております。心安らかに未来への希望を失うことなく日常を生き続ける精神の強さは、環境など外的要因ではなく自分自身の心の内にあることに、人々は気付き始めました。
「向源」の企画書に、友光さんはこう書いている。一過性の仏教ブームではなく、自分たち文化を知り、自分自身と向き合うための仕組みへ。そんな思いから、手探りで始めたのが寺社フェスだった。
最初は音楽ライブや声明を軸としたイベントを開催。翌年からは、東京・浅草にある浄土真宗東本願寺派緑泉寺の住職で、お寺発のブラインドレストラン「暗闇ごはん」の代表を務める料理僧、青江覚峰さんが精進料理を出したり、近隣の神社と協力したりするなど、規模を年々、拡大させていった。
■ウルトラ木魚で人形供養も
そして、今年の「向源」は増上寺で開催される。天台宗の若手僧侶である友光さんが手がける寺社フェスを浄土宗大本山である増上寺で開くのは、異例のことという。宗派を超えて「向源」のために集まった僧侶は50、60人。僧侶以外にも、200人近いボランティアスタッフが寺社フェスを支えてくれている。確実に「輪」は広がっている。
今回の「向源」も、趣向を凝らしたイベントが目白押しとなっている。たとえば、「ウルトラ木魚」による人形供養。この木魚は、ウルトラマン第35話「怪獣墓場」で行われた怪獣供養に着想を得て、愛知県の仏壇職人、都筑数明さんが中心となって制作、ウルトラマンの顔をかたどったものだ。対話を行い、持ち寄った人形を供養することで、供養文化について考えるという。
ウルトラマンの頭をかたどった「ウルトラ木魚」
この他、自分の死について深く追求するワークショップ「死の体験旅行」や、消しゴムはんこ作家と仏教思想を学ぶ法話ワークショップ、浄土宗の雅楽と天台宗の声明と真言宗の太鼓が競演する公演などが開かれる。また、一部は外国人も参加できるよう、英語で体験できるプログラムも用意されている。
「向源」の目標は、2020年の東京オリンピックに向けた発信だが、友光さんはもっと先の未来を見つめている。
「20代30代でも、金銭的な負担少なく仏教や神道に触れられる場所を作りたいです。そうしたら、40年後、50年後に、仏教に助けられた、お寺で遊んだことがあった、と思ってもらえるかもしれない。それは、今と同じようなお寺との付き合い方じゃないかもしれないけれど、日本の伝統文化を支えることにもつながります」
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